東ティモール代表団による通商産業政策にかかるインドネシア訪問
2024.08.09
産業開発アドバイザー 中里和平
東ティモール政府は、国会での条約批准手続き、加盟プロトコルの寄託手続きを経て2024年8月末に世界貿易機関(以下、WTOという)に正式加盟することが決まっている。現在は、2025年中に東南アジア諸国連合(以下、ASEANという)に正式加盟することを目指して準備を進めているところである。東ティモール政府は、ASEANへの正式加盟後には、さらにRegional Comprehensive Economic Partnership (以下、RCEPという)といった経済協定にも積極的に参加する方針を示している。
東ティモールの経済は、国家財政のほとんどを石油・天然ガスの収入に依存しており、産業の多角化が重要な課題となっている。東ティモール政府は、2023年12月に産業開発指針(National Industry Development Policy)を公表し、地政学的な環境や気候変動に対して脆弱なコモディティ市場に頼ることなく、より安定した高付加価値を生み出す製造業を振興すること、地域経済を振興すること、産業の多角化を推進すること、産業人材を育成することなどを目標として掲げ、同指針の目的を達成するひとつの手段として、産業パークの創設を掲げている。
産業開発アドバイザーの活動は、東ティモールの国際的枠組みへの参加、国内市場における産業の多角化、及び通商産業省(以下、MCIという)の組織強化を支援することを目的としてプロジェクトを実施している。東ティモール政府の上記方針をふまえ、本プロジェクトでは、特にMCIの国際的枠組みへの参加に向けた取り組みや、産業多角化に向けた取り組みを支援する観点から、2024年7月29日から同年8月3日にかけて、インドネシアのジャカルタへのスタディーツアーを実施した。
スタディーツアーには、MCIだけでなく、投資輸出促進庁(以下、TradeInvestという)などの通商産業政策に関わる官庁、アジア開発銀行といった国際機関、東ティモール商工会議所(以下、CCITLという)の代表者も参加した。
一行は、ASEAN事務局を訪れたほか、インドネシアの工業省、商業省、投資省、競争当局であるKPPU、消費者保護当局であるBPKNを訪れ、WTO及びASEAN加盟前後に必要となる法制度の整備や行政運営の実務的なやり方などについて意見交換をおこなった。
また、ジャカルタ近郊に所在するMM2100という日系企業が運営に参画している工業団地を訪れ、用地の選定から設置に至るまでの経緯、工業団地の運営のやり方、FDIの誘致のやり方、環境配慮のやり方などを学び、東ティモール初の産業パーク創設に向けて必要な情報の収集に努めた。
最終日には、日本貿易振興機構、東アジア・アセアン経済研究センター、TMI総合法律事務所から講師を招くとともに、国際連合工業開発機関からコメンテーターを招いてワークショップを開催し、ASEAN加盟後の日本との新たな取引の可能性、東ティモールのASEAN加盟による経済的なインパクト、外国企業が海外市場で投資をする際の法律問題などについて議論を交わした。
なお、ジャカルタ近郊に所在するMM2100への訪問時およびスタディーツアー最終日のワークショップの開催時には、MCI大臣も出席し、本スタディーツアーに対する東ティモール政府の関心の高さを示す活動となった。
さらに、スタディーツアー終了後に、参加者それぞれに担当分野を割り振り、それぞれインドネシアから学んだこと、東ティモールへの提言を発表するワークショップを開催する予定であり、スタディーツアーを一過性のイベントとしない工夫を施している。ワークショップには、MCI、TradeInvest、CCITLの幹部を招待し、ツアー参加者がプレゼンテーションすることによって、参加者が学びの理解を深めること、通商産業政策への提言をすることを目指し、今後のプロジェクト活動の将来にわたるインパクトを高めていきたい。
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