港湾マスタープランの紹介
2024.10.24
2024年10月
川村 敏
2016年11月に初めて東ティモールを訪れて以来2024年6月まで8年間、東ティモールの港湾の調査や工事監理に携わりました。港湾の大切さと東ティモールの将来を支援する港湾マスタープランプロジェクトについて、紹介したいと思います。
港湾は道路のように身近ではなく、その大切さが日本においても広くは認識されていないかもしれません。島国日本の輸出入貨物約9億トンの99.5%は海上貨物で港湾を経由して出入りしています。同じ島国の東ティモールは、約100万トン規模の貨物量ですが、同様にほとんどすべて港湾から入っています。それが滞ると生活や経済活動が大きく妨げられるのは日本も東ティモールも同じだと思います。
また、東ティモールはアタウロ島とオエクシという遠隔地があり、両地域との交通手段として、首都のディリ港からのフェリー運航が生活を維持する命綱になっています。その要となるディリ港フェリーターミナルの改修工事が日本による無償資金協力により2019年11月に完成しました。その結果、フェリー運航の乗降安全や効率が改善され年間数万人の利用者に大変喜ばれています。
ディリ港フェリーターミナル
フェリー乗降の様子
一般的に船を使う海上輸送はトラックなどの陸上輸送に比べ、CO2の発生量は20%、輸送運賃は40%と環境、経済面で有利な点があります。日本でも陸上輸送の代替手段として見直されています。
このように、港湾は生活、経済を支える人と物の出入り口になります。その周辺の産業や経済を発展させていく出発点として、特に島国にとって整備、維持していかなければならない社会基盤のひとつでしょう。海岸線のある国の開発は、不足する物資を運び入れるためにまず港湾整備から始まります。
東ティモールは建国22年目となり、紛争後の復興から持続的な経済成長を図り中進国を目指す中、ASEAN原則加盟も認められたところです。貧困と石油依存から脱却のため首都ディリと地域の経済格差を緩和し、地方産業を育成しようとしています。そのためには人と物の交流を支援する交通インフラを確保しなければならず、道路以外に港湾が果たす役割は大きいものがあります。
ポルトガル植民地時代からあるディリ港では荷役能力が限られていました。その代替として官民連携によるティバール港が2022年11月に開港し、大規模コンテナターミナルとして期待されています。海外との貿易の出入り口はティバール港のほか、今のところオエクシ港とスアイ港(計画段階)とされていますが、各地方の港湾を通じて貿易をする将来もありうると思います。特に南部沿岸には現在港湾がなく、政府が進める南部海岸開発でスアイ港が早期に整備されることを、個人的には期待しています。
ティバール港(2023年1月)
オエクシ港(撮影2023年、日本の無償資金協力で2013年完成)
一方で、ディリ港で扱われていた全ての貨物がティバール港へ移ったことで、米などコンテナで運ぶには費用面で不利な貨物がかえって非効率に取り扱われる状況となっています。さらに港湾料金がディリ港と比べて高くなり、世界的なエネルギーや物資の値上がりもあり物価を引き上げています。なんらかの対応が望まれます。
地方港湾開発が滞り、港湾公社の将来計画も着手されていなかったことから、東ティモール政府の要請を受け、港湾マスタープランプロジェクトが2022年から開始されました。
プロジェクトチームは以下の提案をしました。
・長期港湾開発計画
2040年までの地域別人口動向や経済指標、東ティモールの港湾をとりまく環境要因などを分析した上で長期開発方針をたて、いくつかの開発シナリオの中から北部沿岸へのフェリー航路の延伸を第一案としました。中長期な南部沿岸へのフェリー航路や地域開発を支援する港湾、漁港との共同開発なども開発シナリオに入れました。
・優先港湾開発計画
19ある対象港/地点の中から、開発シナリオに基づき最も優先的に開発する3港湾を選定しました。カラベラ港、ベアス港、およびスアイ港(東ティモール政府がすすめる南部開発のスアイ港の一部)です。カラベラ港とベアス港についてはプレFS(事業可能性の検討)を実施しプロジェクトの評価をしています。段階的な開発計画として最初にカラベラ港を整備することを勧めました。さらに、地方港湾としてカラベラ港の機能を高めるために、米などの輸入貨物はオエクシ港からの国内海上輸送ルートもありうるとして、オエクシ港の強化も計画に入れています。
提案した最優先開発港湾とプロジェクトの対象
カラベラ港開発計画の完成予想図
・港湾公社の行動計画
東ティモール港湾公社(APORTIL, I.P.)はディリ港の管理運営とフェリー航路の運行をおこなってきました。しかし、前述のようにティバール港へ貨物が移ったため、その体制や将来の役目について、改善や更新が必要でした。そこで、次のような3つの観点で行動計画を提案しました。
・港湾管理:港湾料金設定、地方港湾管理事務所の設立、港湾利用推進、海上交通の障害対応など
・港湾資産管理:港湾台帳作成、維持管理組織設立、ディリ港資産活用、港湾ビジネス計画など
・フェリー運航:実施予算把握、維持可能な運営体制の確立など
・広報活動
港湾マスタープランの提案を港湾利用者に広く説明するため、2024年3月にディリ市とバウカウ市でセミナーを開催しました。多くの出席者から特にカラベラ港の開発について質疑があり高い関心と期待が持たれていることがわかりました。
ディリ市のセミナー(2024年3月7日)
バウカウ市のセミナー(2024年3月14日)
東ティモールでは沖縄と同じような空気を感じました。木々には精霊が宿るのかもしれません。木陰とともに自然の香りで居心地がよいのでしょうか、人々が大きな木の下で日常的に集まっています。東ティモールの日の出と日の入りは、どこで見ても魅力的で忘れられない景色でした。
豊かな自然環境を維持し、港湾開発と両立できればと願っています。
アタウロ島の日の出
ディリの日の入り
scroll