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環境教育×スポーツの可能性

2024.12.24

環境教育×スポーツの可能性

環境教育 實亜里紗(2023-3次隊)

 11月30日から12月4日の間、現役陸上リレー選手である飯塚翔太選手に東ティモールを訪問していただいた。私の職種は環境教育だが、縁あってスポGOMIという競技を参考に東ティモール風にアレンジしたゴミ拾い競争を企画した。スポGOMIはゴミ拾いにスポーツのエッセンスを取り込んだ競技で、一般的なゴミ拾いとは異なり、チームでゴミを拾い、その種類や重さに応じたポイントの合計点で勝敗を競う。観光名所であるクリストレイで、小学校から大学までの生徒や、少林寺拳法、日本語教室の生徒が集まり、計7チームが開始の合図とともにゴミを拾いにビーチに駆け出した。 

 東ティモールは自然豊かな美しい国だが、一方で廃棄物が深刻な問題となっている。今年JICAが行った調査によると、Dili内のゴミの収集率は約60%であり、毎日約303トンのゴミが排出される一方、そのうち約112トンは未回収のまま、道路に捨てられ雨とともに川や海に流れていく。政府により廃棄物収集システムは徐々に改善されているものの、市民のゴミに対する意識が向上しない限りゴミのポイ捨ては続き、根本的な問題解決にはつながらない。

 今までは活動の一環として学校やコミュニティを訪問し、環境教育の出前授業をおこなっていたが、単なる授業の形を抜け出し、楽しく有意義に環境問題について学び・実践する方法がないか考えていた折、知人に教えてもらったのがスポGOMIだった。環境影響の大きいゴミにポイントを多く傾斜させるルールを応用すれば、スポGOMIを通じてゴミの種類やゴミが与える環境への影響について子供たちが学ぶきっかけになるのではと考えた。まさかオリンピックメダリストである飯塚選手にも参加いただけるとは思っていなかったが、快くスポGOMIへ参加承諾してくださったことに感謝したい。

 一緒に企画・運営に携わってくれた体育隊員も非常に協力的で、準備期間中に彼らと一緒にこの国の環境問題について深く知るべく、Tibarゴミ処分場や現地リサイクル企業の見学に同行してもらった。また事前に体育隊員の配属先の中学校・高校にも訪問し、特別授業としてプラスチックゴミが自然や生態系に与える影響についての説明と、10分間のミニスポGOMIを行った。生徒たちはとても素直に授業に参加してくれ、校庭や教会のかたわらに落ちているゴミは、子供たちのにぎやかな話し声と一緒にどんどんきれいになっていった。

 スポGOMI当日は生憎の悪天候だったが、飯塚選手の提案もあり場所やルールを変え、小雨の降る中決行した。競技時間は30分、終了合図のカウントダウンの中最後の1秒まで走り回ってゴミ拾いをする子供たちが印象的だった。最終的に全チーム合計73.5kgのゴミとペットボトルキャップ1,273個を集めることができた。事前の授業や他JOCVのサポートのかいもあってしっかり分別もできていたことが嬉しかった。スポGOMI終了後は、きれいになったビーチで子供たちは飯塚選手と一緒にビーチフラッグを楽しんだ。

 飯塚選手のような一流のアスリート選手が、Diliのゴミ問題に真摯に向き合ってくださったことの意義は大きい。オリンピックという世界の舞台で実績を残す選手が、この国の環境課題を見つめ、バトンではなくトング片手にゴミを拾う姿を間近に見たことは、子供たちにとって印象的で、自国の環境問題を考える大事なきっかけになったと思う。
 環境教育という職種はインフラ建設やシステム導入に直接的に関わるものではない。しかしながら、“教育”を通じて人々の考え方や行動を変える小さなきっかけを提供することができる。スポGOMIを終えて満足げな子供たちを見て、改めて自分のミッションをそう認識することができた。東ティモールの子供たちが道端で、裸足で走り回る姿は日常的な光景だが、いつもそばにはゴミがある。今回の飯塚選手の訪問、スポGOMIおよびUNDOUKAIの実施により、この国の更なるスポーツの振興を期待するとともに、私もスポーツを通じた環境教育の在り方を浸透させ、この国がいつまでも美しい国であり続けるよう尽力していきたいと思う。

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