環境教育絵本の作成に寄せて
2025.04.11
2023年度3次隊 環境教育
實 亜里紗
東ティモールで環境教育に使えるテトゥン語の絵本を作成しました。ストーリーはDiliに住むアクアちゃんという名前の女の子が海岸でペットボトルをポイ捨てしたところから始まります。その後アクアちゃんは不思議な力によって自分が捨てたペットボトルに姿を変えられてしまい、海岸のゴミがどのような運命をたどるのかを体験していくことになります。波に流されたどり着いた海の底で、アクアちゃんは尻尾に釣り糸が絡まりついたワニ(※東ティモールではワニは現地語でご先祖様という意味のAvoと呼ばれ、神聖な動物として崇められている)と出会い、海の自然と生き物がプラスチックゴミのために苦しんでいることを知り・・・。続きはJICAのHPにもテトゥン語版と日本語版が掲載されているので、アクアちゃんが人間に戻れたのか読んで確認していただけると嬉しいです。
現在私は東ティモールで環境教育隊員として活動しています。環境問題解決に貢献したいという思いを抱いてやってきたものの、活動の初日から(今もですが)この国の環境教育について悩む日々でした。道を歩けばポイ捨て現場に遭遇し、学校の校庭には生徒が捨てた様々なゴミが散乱しています。環境教育局の同僚にあげたキャンディーの包み紙が、タバコと一緒にオフィスの植木鉢に捨てられていたのを見つけて肩を落としたこともあります。なぜ、環境教育に携わる人でさえポイ捨てしてしまうのか。なぜゴミ箱がすぐ側にあるのにそこに捨てないのか、ただわかりませんでした。
同僚とゴミ拾いイベントに参加していたある日、海の中で海藻を懸命に拾うのにペットボトルは素通りする現地の人の姿を見て不思議に思い、「もしかして知る機会がなかったから、ゴミのことがわからないのかもしれない」と思いつきました。東ティモールの現地語はテトゥン語ですが、テトゥン語で書かれた文献・資料は限られています。学校の教科書もポルトガル語の場合が多いです。また生徒数に比べて教師数が恒常的に不足しているため、環境教育の授業まで手が届いていません。そもそも教師も環境教育の授業を受けたことがないのが現状で、環境問題について知り、考えるきっかけが不足しているのではないか――、そう考えるようになりました。
海岸のゴミ清掃で海藻を拾っている様子
図書館では各国から寄贈された絵本にシールでテトゥン語訳が張り付けられている
視点を変えれば、小さなきっかけがあるだけでもゴミに対する意識が変わる可能性がある――。そうして思いついたのがテトゥン語の教材開発でした。できるだけ誰でも気軽に読め、簡単に理解してもらうには絵本が良いと思い、ストーリーを作成しました。イラストは元JOCVで東ティモールに在住していた髙久直子さん(平成18年度3次隊モルディヴ・体育)にお願いしました。絵本を作りたいという唐突な相談に嫌な顔もせず、可愛く美しいイラストを20枚以上も書き上げてくださった直子さんにはこの場を借りて心からお礼申し上げます。
絵本はこれから配属先と一緒に学校やコミュニティ、図書館やカフェなどに無償配布していく予定です。絵本の冊数に限りはあるものの、なるべく多くの方の眼に触れてほしいと思います。そして願わくば読んだ人が少しでも、この国で自分が捨てたゴミの行方に思いを巡らせてくれればと思います。
JICA主催の環境イベントで絵本を紹介
幼稚園で読み聞かせ
以前出前講座をしていた時に「国際協力に興味を持ったきっかけは?」と聞かれたことがあります。私の場合、理由のひとつに「世界がもし100人の村だったら(マガジンハウス, 2001)」という絵本を読んだことがあります。この本は世界の人口を100人に縮小した際『30人が子どもで70人が大人。1人が大学教育を受け、14人は文字が読めない(2001年当時)』というように、世界の人口構成を身近に分かりやすく説明しています。
どのような経緯でその本を手に取ったのかは忘れましたが、小学生の頃に読んだその本は、平易ながらも核心をついた言葉で海外の人々について教えてくれました。それまで自分の住む地元が世界の全てであり、海外のこと、まして発展途上国と呼ばれる国々の事など全く知らなかった私にとって、その絵本は自分が享受している“当たり前”だと思っていた生活に疑問を持ち海外に対する興味を持つ良き指南書となりました。
私が国際協力に興味をもった小さなきっかけは絵本でしたが、当時はその本を母語である日本語で読み、理解できる幸運には気が付いていませんでした。この本の作成をきっかけに、日本人である自分が東ティモールの為にできることが少しだけ明瞭になった気がします。
『世界がもし100人の村だったら』を読んだ当初から20年以上がたった今、100人の村の構成は大きく変わっていると思います。ただ嬉しいことにこの20年間で世界中の識字率は向上しているらしいです。テトゥン語で書かれた環境教育のこの絵本が、Avoに出会ったアクアちゃんのように、誰かの行動と未来を変える小さなきっかけになる事を期待したいと思います。
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