食の循環を通じた栄養改善を目指して ―学校菜園がもたらす可能性―
2025.09.04
右から2番目が筆者
首藤由佳(2024年1次隊)
2024年9月から栄養士隊員として、幼稚園を併設する小中学校で活動しています首藤由佳です。本校には学校菜園があります。ここは以前も菜園があったそうですが、赴任した当初は雑草だらけの荒れ地でした。赴任直後、校長が「私の夢は学校菜園をつくりたくさんの野菜を育てることだ」と話してくれました。壮大な夢であると思ったものの、規模の大きさに最初は戸惑いました。一方、私が日本で栄養士として働いていた時も学校には菜園があり、児童が収穫した野菜を用いて給食をつくっていました。東ティモールでは5歳未満の子どもの約半数が発育不良の状態にあり、本校も例外ではありません。学校菜園は、子どもたちに提供する食材の調達を可能にするだけでなく、子どもたち自身がその土地で採れる食べ物を育てる体験をすることは食教育の一つに成り得ます。校長の夢には、食教育をおこないながら子どもたちの栄養改善につながる可能性があると考え、校長には日本での経験を活かして一緒に学校菜園をつくりたいと伝えました。
荒れ放題の畑
赴任1ヶ月後、学校菜園づくりが始まりました。まずは、寮の児童生徒、警備員、シスター、および同赴任校のJICA海外協力隊員と協力し、夕方から鍬で畑を耕しました。長期に渡り使用していなかった畑の土は硬く、仕事終わりの力仕事に一日一棟ずつ進めていくのがやっとでした。畑を耕すと同時に、苗を育てる小屋を用務員と警備員らが作ってくれました。畑を耕し終えた後は、卒業前の中学3年生が木で骨組みをつくり、日よけのネットを取り付けました。こうした皆の努力の成果、約3週間後には学校菜園の土壌が完成しました。
畑づくりの様子
畑づくりの様子
育苗棚の製作風景
育苗棚の製作風景
牛が畑を荒らしてしまいます
ネットを張るための柱を立てているところ
しかし、いざ種を植え育て始めると、思うようにいかないことの連続でした。まず、土に栄養が無かったためか、植えた野菜はどれも思ったように成長しませんでした。そのことを用務員に伝えると、牛と山羊の糞からできた肥えた土がある場所を教えてくれ、土壌の土を改善することができました。同時に、JICAの支援によるコンポスト枠を使い、食品残渣や落ち葉を混ぜて土作りを始めたところ、地域の方が籾殻や木屑を提供してくれました。雨期に入り、出たばかりの芽が雨で流れそうになるのを、農家の人がバナナの茎を半円に切ってかぶせるとよいと教えてくれました。乾季に向け水やりを懸念していたところ、CARE internationalのスタッフが点滴灌漑設備を紹介してくださいました。この方法を用いたことにより、水やりの手間を省くことができただけでなく、必要なところにだけ水を撒くことができるため、節水にも繋がりました。その後、植えた種は、成長したものもあるものの、牛に踏みつけられたり、山羊に食べられたりと、収穫にはほど遠い散々な結末でした。一方、身近な材料を利用したティモール人の知恵と工夫を知ることができ、失敗以上の大きな収穫を得た経験になりました。
種まきの様子
野菜の成長を確認する子どもたち
雨に流されるのを防ぐ工夫
コンポストづくり
コンポストづくり
試行錯誤の末、再度作り直した畑で、今年5月から6月にかけて、園児と小学生がKankun(空心菜)の種植えから収穫までを体験しました。子どもたちにKankunを見に行こうと伝えると、Kankunコールが沸き上がりました。子どもたちはKankunの成長を楽しみにしている様子で、畑まで走って見に行っては出たばかりの芽をやさしく触って成長を確認していました。収穫したKankunをおかゆに入れて提供したところ、いつも以上においしいと笑顔で食べていました。身近にある食べ物とはいえ、子どもたちが野菜の成長を継続して観察していく機会は多くないのではないかと感じました。子どもたちの反応を通して、この取組みを継続することにより、子どもたちが野菜に興味を持ち、野菜を食べることに対する抵抗を軽減することができるのではないかと確信しました。
収穫の様子
たくさん収穫できました
今後、学校菜園を継続的に運営していくためには、授業の一環としてカリキュラムをつくり取組んでいく必要があると考えています。これまでは、畑に近い教室で授業をしているクラスの教員に声をかけておこなったため、必ずしも授業内容とは関連していませんでした。教員が教科の内容と関連させた指導ができれば、体験を通した学習により、子どもたちの学びが深まるのではないかと考えられます。各教科とどのような連携が可能であるかを、日本の事例を紹介しながら具体的に示していく予定です。
8月から再度種植えした畑には、コンポストで半年かけて熟成させた土を織り混ぜています。その土で子どもたちが野菜を育て、収穫した野菜を食堂で提供し、残渣が出れば再び土に戻します。このように、学校菜園での取組みは、食を循環させながら栄養改善へと少しずつ歩みを進めています。2年間の任期中に完結できる取組みではないものの、継続できる仕組みとして残していくことは十分可能です。蒔いた種が子どもたちの中で一つでも芽を出すよう、また活動の中で実を結び、種となってまた次の活動に繋がるよう、残りの任期でも多くの仕掛けを試みたいと考えています。
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