子供の強い好奇心に応える環境教育授業でごみ問題を改善
2025.10.08
茅根みつき
2025年5月から、青少年活動隊員として、ディリ市内にある施設で日本語を教えている茅根みつきです。私が働いている施設、Centro Quesadhip Ruak(以下CQR)は、教育を通じて青少年が社会に参加し、社会や国の発展に貢献できるようになることを目指しているNGO団体が運営しています。子どもから大人まで各々のコースに通い、様々なことを学んでいます。
私の主な業務は、日本語コースに通う大人に日本語を教えることですが、週に一度、子どもコースでも日本語を教えています。
普段の授業の様子
東ティモールは子どもの数が非常に多く、多くの小学校は2部制となっており、学習時間は正味3時間。CQRに来ている子どもたちは、学校に行く前、もしくは行った後に、ポルトガル語や算数、英語、日本語、絵などを学びにCQRに来ています。いわば学童のようなものです。
東ティモールの子どもたちと触れ合い、まず印象的だったことは、「好奇心が驚くほど強く、とてもフレンドリー」だということ。そして、授業が終われば無邪気に外を駆け回ります。緑が美しい大きな木に登ったり、はだしで元気にサッカーをしたり、凧揚げをする子どももいます。しかし、そんな彼らの足元に目を移すと、そこにはペットボトルや缶、お菓子のくずなど多くのごみが散見されます。雨が降ると施設周辺には、黒や赤茶の汚水とともに、多くのごみが流れてくることも珍しくありません。
子どもたちにとって、ごみが道端に捨ててあることは日常であり、それが当たり前の場所で生きているのです。
私の主な業務は日本語を教えることですが、それ以前に彼らにもっと知ってほしいことがあると思い、ごみに関する授業をおこないたいと考えました。子どもたちに「ごみはごみ箱に捨てよう」というのは簡単ですが、大事なのは「なぜ」の部分。彼らの強い好奇心にこたえられる授業をしたいと思い、實亜里紗さん(2023年度3次隊、環境教育)に協力を仰ぎ、環境教育の出前授業を実施することにしました。
出前授業では、前半に實隊員によるごみ問題に関する解説と絵本の読み聞かせを、後半はグループに分かれてリサイクルアートの作成に挑戦しました。前半の實隊員の解説を子どもたちは真剣な表情で聞いていました。普段はじっと座って話を聞くことが難しい子も同様でした。日本で起こった過去の公害の写真が映し出されたときの、彼らの息をのむ様子が印象深く記憶に残っています。
日本の環境問題について説明する實隊員
絵本の読み聞かせをする實隊員
後半では、ペットボトルやシーグラスなどのごみを使ってリサイクルアート作品を作りました。これは「資源の再利用は楽しいこと、リサイクルは自分たちにもできるんだ」と感じてもらいたいという思いから企画したものです。一方で、ただ「楽しかった」で終わらせず、前半の解説との関連性を伝えなければならないのに加え、子どもたちは様々な材料を使った工作の経験もほとんどありません。子どもたちは工作ができるのか、そしてどこまでごみ問題について伝えられるのか、私にとってもちょっとした挑戦でした。
日本の美術館での勤務経験も生かし、子どもたちの作業がスムーズにできるよう準備をおこないました。ほかの学校で日本語を教えるJOCVや日本語コースの学生にも協力してもらい、大量のペットボトルを回収。そして實隊員と海岸でシーグラスを探すなどし、できるだけ多くの材料を揃えました。
児童は総勢30人ほど。今回は6つのグループに分かれ、友達と協力しながら作品を作ります。当初の不安はよそに、みんな思い思いの作品を作ってくれました。
リサイクル―アートの様子
自らごみを拾ってくれるようになりました
なにより嬉しかったことは、授業の最後に子どもたちが自らごみを片付け始めたことです。男の子が私のもとへきて、「ごみをどこに捨てればよいか」と聞いてくれた時は、「實隊員のレクチャーから始まった今日の授業がこの子に伝わっている」とうれしくなりました。
彼らの強い好奇心に教える側がうまく応えることができれば、彼らは驚くほど多くのことを吸収することができるのだと改めて実感しました。この変化を1日で終わらせないため、先生方も「ごみはごみ箱にすてる」指導を継続してくれています。
今回の環境授業で子どもたちにはそれぞれの学びや気づきがあったと思います。知ることの楽しさやわかることの喜びは、環境改善に限ったことではなく、今後の様々な学習に役立っていくと思っています。CQRの先生方、そして私たちの活動が、彼らの知的好奇心をはぐくみ、結果的に子どもたちの将来の選択肢を広げていくことにつながればうれしいです。
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