jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

日本語学習の火を未来へつなぐ - 東ティモール合同日本語スピーチコンテスト

2025.12.24

日本語学習の火を未来へつなぐ
東ティモール合同日本語スピーチコンテスト

2025-1次隊 青少年活動 嘉村潔高

 私はJICA海外協力隊(JOCV)青少年活動隊員として東ティモールに派遣され、首都ディリにある「みらいサト日本語学校」で日本語教師をしています。しかし、公用語のテトゥン語・ポルトガル語に加えインドネシア語を操る彼らであっても、日本語の習得には大きな苦労があります。JOCVが派遣されている日本語教育センターでは、教材が不十分であっても、工夫を凝らしながら教育活動が続けられています。そのような状況の中、2025年9月上旬に国際交流基金の援助を受け「みらいサト日本語学校」が自校の学生を対象とした日本語スピーチコンテストを開催しました。そして、このコンテストを見学していた他センター所属の東ティモール人日本語教師から「私たちもコンテストを開催できないか」と相談を受けたことをきっかけに、センターの垣根を越えた今回のイベントが企画されました。

右手前が筆者

 私たちは、日本語教育分科会(東ティモールで日本語教育に携わる隊員と現地日本語教師で構成)を組織し、月に一度勉強会をおこなっています。今回のイベントも、分科会のメンバーを中心に役割分担をおこない、準備を進めました。出場者は、日本語教育分科会のメンバーが指導をおこなうセンターから選抜することとし、スピーチテーマは、第1部門「自己紹介」、第2部門「自分の大切な人・もの」とし、日本語学習歴の浅い学生でも参加しやすいよう工夫しました。現地教師陣との会議では、何に重きを置くか認識の違いが多々あり、時に興味深く、時に困惑しました。意外にも時間がかかったのは、「参加証」の準備でした。JOCV企画のコンテストに、そもそも参加証が必要かという意見もありました。しかし東ティモールでは、このようなイベントに参加したことを証明するものがあることが重要なのだそうです。現地教師たちの並々ならぬこだわりには少し驚きましたが、日本でも面接で学生時代の活動をアピールする「ガクチカ」という言葉が注目をあびていたりしますから、似たようなものかなとも思いました。

 開催準備と並行して、出場学生の指導も行いました。しかし、のんびり屋さんが多い東ティモール人学生は、なかなか原稿を書き上げません。ようやく書いてきたと思えば、私たちも驚くほど難解で硬い文章を持参します。彼らは「失敗したくない」「自分の言いたいことをそのまま伝えたい」という思いから、テトゥン語で書いた文章をAIで丸ごと翻訳していたのです。日ごろの学習の成果を発揮する場ですから、これではいけません。しかし、添削しすぎれば彼らの言葉ではなくなり、放任すれば不自然な文章のまま。私たちはそのバランスに悩みながらも支援を続け、11月末のコンテスト当日を迎えました。

 コンテストは、在東ティモール日本大使館の木村大使をはじめ、現地で活動する日本人の方々を審査員に迎え、厳かな雰囲気で幕を開けました。学生たちは緊張しながらも壇上では準備したスピーチを堂々と発表してくれました。自分の生徒が発表を終えるたびに胸をなでおろす隊員の姿も印象的でした。全ての発表後には審査員による講評と部門ごとの表彰がおこなわれました。評価の高い学生はスピーチを暗記しているだけでなく、日本語の発音も優れていました。

 その後は学生、審査員、観覧者が互いに声を掛け合い、カフェを楽しみながら写真を撮り合いました。普段は活動を静かに見守ってくれる東ティモール人の上司から「スナックは用意してあるのか」と何度も確認されたのも納得です。彼らにとって、この時間は非常に重要なのです。

 分科会として初めてこのようなイベントを企画したこともあって、ここには書ききれない様々な課題が見つかりましたが、多くの方の協力を得て、コンテストは成功裏に終わりました。出場学生へのアンケートでは、全員がまたこのコンテストに参加したいと回答してくれました。今回は会場のキャパシティにより、観覧人数を制限し、ライブ配信を行いましたが、家族や友人をもっと呼びたいとの声もあり、Moedor(テトゥン語で恥ずかしがりの意)の多い学生たちが、学んできたことに対する自信持つ機会になっていたら嬉しいと思います。観覧者の方々からも、ぜひ来年も開催してほしいと言っていただき、日本語教育分科会一同やってよかったと思えるイベントになりました。ある学生が隊員に連絡を寄せました。
「勝てなくてごめんなさい。先生が頑張って教えてくれたのに」
 その学生は、このコンテストで一位を取ることで日々の指導に応えたいと考えていたようです。東ティモールでこんな熱い物語に出会えるとは思ってもみませんでした。もちろん勝敗だけが重要ではありません。しかし、こうした小さな出来事が「明日も頑張ろう」と思える力を与えてくれるのは、どこの国でも同じです。

 人がやる気になるきっかけ、その様を「火がつく」と言います。私たち隊員が情報を発信し、日本を知ってもらうことで日本語を学ぶ「火」を灯していく活動あれば、日本語を学んでよかったと思える場をつくり、その「火」を絶やさぬよう薪をくべ続ける活動もある。どちらも同じくらい大切で必要なことだと思います。
現在東ティモールには、日本語教育に携わる隊員が多くいます。これからもJOCVはもちろん現地の先生方と協力して、日本語教育を通じて人と人とをつなぐ場を広げ、学びと遊びのあるイベントを企画していきたいです。しかし振り返ってみると、火をつけられ熱くなっていたのは、私たちだったのかもしれません。現地教師陣の「私たちもやりたい」という主体性に、改めて敬意を表します。

(左から)羽下健太(2024-3)、茅根みつき(2024-9)、西山秀一(2025-1)、渡部大地(2024-2)、徳田龍人(2024-2)、嘉村潔高(2025-1) ※職種は全員「青少年活動」

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ