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- 東ティモールの開発について(エッセイ)/活動報告
- 明るく開放的な学問・研究の場の創出-東ティモール国立大学工学部新校舎建設計画-
株式会社山下設計
小林由佳
はじめに
東ティモール民主共和国(以下、「東ティモール」と記す)は、2002年に正式に独立したが、独立に伴う混乱により、教育機関施設を含むインフラの7割以上が破壊・使用不可能となるなど甚大な被害を被った。また、現在同国は過度の石油産業依存からの脱却及び基幹産業の確立という課題を同国の中期計画である戦略開発計画で明示し、インフラ整備と人材育成を大きく掲げている。
このような状況の下、インフラ整備の人的基盤作り及び公教育教員充足に寄与すべく、国内唯一の国立大学である東ティモール国立大学(以下、「UNTL」:Universidade Nacional Timor-Lesteと記す)工学部における学習環境を改善するプロジェクト『東ティモール国立大学工学部新校舎建設計画』の調査・設計が2015年に開始された。
講堂棟正面
設計時に配慮した事項
周辺開発計画との整合性
UNTL工学部では、同大学戦略計画2011-2020 及び工学部の戦略計画2015-2025 による将来計画に基づき、独自に将来敷地計画、インフラ・ランドスケープ計画が進められていた。本プロジェクトが先行して建設されるため、これら将来計画案と整合する配置計画、施設設計となるよう敷地レベルや出入口位置の設定、建物形状等に配慮した。
気候風土に合った施設・機材計画
東ティモールは年間を通して気温が高いため、熱負荷の削減を優先した施設計画とし、建物を東西に長く計画した。機材計画は、現地での技術レベルを勘案し、操作性とメンテナンス性に配慮した。その他施設計画には以下の特徴がある。
- 自然通風を促進する大きな吹抜け
- 停電時にも自然光を取り入れることのできる天窓
- 強い日射や降雨を気にせずくつろげるピロティやテラスなどの半屋外空間
- 清掃及びメンテナンスのしやすい材料、建築設備の選定
自然通風と自然光を導入する吹抜け
開放感のあるエントランスピロティ
催事の後に歓談が可能な講堂前のホワイエ
工事中の様子
施設建設工事は、日本の建設会社のもと、東ティモール人とインドネシア人が協働した。東ティモール人の中では、UNTL工学部卒業生などの若い技術者の健闘が目立った。
コンサルタントも、他大学を卒業した若い現地技術者を雇って現場監理に当たったが、意外に頑固でしっかり図面と照合しながら確実に業務を進めてくれた。
元々多言語多文化を特徴とする東ティモールだが、上記のような国際的なチームが業務を遂行するということで、基本的に複数言語を理解する人材が揃っていたにも関わらず、重要な打合せで出席者共通の言語がないことが頻繁にあり、英語、ポルトガル語、インドネシア語、テトゥン語が飛び交う中プロジェクトは進められた。
また、UNTL工学部は工事に大変協力的で、日本人施工者指導のもと土木工学科の試験場でコンクリート圧縮試験を行ってくれ、一方で日本人施工者は土木工学科学生の現場見学会やインターンの受入れなどを実施し、現地技術者育成にも少なからず貢献できたのではないかと考える。
現場見学会の様子
インターン初日のオリエンテーション
完成した建物について
何と言ってもこの建物の一番の注目点は、約400人収容可能な講堂である。用途に合わせて7タイプの調光が可能で、大画面のスクリーンとスピーカーを備えている。エアコン設備もしっかり整えられている。
エアコンといえば図書室も、学生の人気スポットになりそうである。首都のディリ市西側のティバールにある竹工場で製作されている家具を配置し、グループワークが可能なエリアを設けた。竹の集成材による家具は、堅牢な作りながら柔らかな色合いと自然な風合いが人気の東ティモールの隠れた特産品の一つである。
プロジェクトに携わった身として、この施設が末永くきれいに使用されることを願っている。
講堂
図書室
教室棟エントランスと講堂棟
教室棟エントランス
教室
実験室
大学関係者の引渡し式
引渡し式の客席の様子
引渡し式後ホワイエでの軽食
教室棟吹抜けでくつろぐ学生たち
表 プロジェクト概要
案件名 | 東ティモール国立大学工学部新校舎建設計画 |
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延床面積 | 約8,073平方メートル |
階数 | 地上3階建 |
構造 | 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 |
主要建物機能 | 教室、実習室、講堂、図書室、講師室、事務室等 |
主要機材 | 新設建物教育用機材(石油地質学科機材、情報工学科機材、プロジェクター・スクリーン) 既存建物教育用機材(土木工学科、機械工学科、電気工学科) |
コンサルタント | 株式会社山下設計・インテムコンサルティング共同企業体 |
機材業者 | 株式会社オガワ精機 |
建設業者 | りんかい日産建設株式会社 |
基本調査・基本設計 | 2015年2月~ |
詳細設計 | 2016年9月~ |
工事期間 | 2018年1月15日~2019年10月14日(工期21か月) |
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