シャーガス病制圧のための統合的研究開発プロジェクト(SATREPSシャーガス)JICAのシャーガス病に関する研究支援

2023.08.31

2023年7月、シャーガス病制圧のための統合的研修開発プロジェクト(SATREPSシャーガスプロジェクト)の2018年の開始から5年が経過し、日本とエルサルバドルが共同で行ってきたプロジェクトの研究活動が終了しました。

シャーガス病は顧みられない熱帯病のひとつであり、サシガメが媒介する原虫クルーズトリパノソーマによって引き起こされる感染症です。アメリカ大陸の21カ国で感染が確認されており、感染者は600から800万人にのぼるといわれています(PAHO, 2021)。シャーガス病は感染初期にはベンズニダゾールやニフルチモックスという薬を服用することで治療できますが、症状がわかりにくいことから多くのケースで慢性期に移行してしまいます。慢性期になると循環器や消化器に症状が出現することがあり、その段階になると現在はまだ薬剤含めて治療方法が確立されていないことから、対症療法しか行うことができません。また、感染初期に用いられる治療薬でも副作用が強いため、治療が継続困難な例も報告されています。そのため、SATREPSシャーガスプロジェクトでは薬剤に加えて植物抽出物も含めたより毒性の低い治療薬の開発、感染を引き起こす原虫のDNA解析から病気の原因を調査する研究など、日本の大学(主に群馬大学、大阪公立大学、慶応義塾大学、高崎健康福祉大学)とエルサルバドルの科学技術センターによる共同研究として進められてきました。

プロジェクトは2018年から開始されたものの、新型コロナウイルスのパンデミックで両国との往来がすべてストップしてしまい、研究がなかなか進まないという困難な時期がありました。しかしながら、そのような状況を乗り越えてエルサルバドル科学技術センターでは、日本人研究者の技術移転により科学研究能力が各段に向上しました。その結果として、両国の研究者により複数の国際学術誌にプロジェクトで実施した研究テーマの論文を投稿する実績を残しました。また、治療薬開発の研究のためにそれまでエルサルバドル国内にはなかった動物実験施設の整備も行いました。他には、治療薬開発のための大量に採取された植物の中に新種が発見されたことから、シャーガス病治療薬のための植物リストとは別に、一般の薬用植物のデータもまとめられてリストが作成されているところです。

このようにSATREPSシャーガスプロジェクトの活動これまでエルサルバドル国内では実施されていなかった研究が行われてきました。それにより、国内の科学研究レベルが上がり、今後はその能力を生かしてシャーガス病治療薬の開発が継続されることにより、将来は患者にとってより効果的な治療への道が開けていくことでしょう。

SATREPSシャーガスプロジェクトの終了時イベントにて、専門家らの活動の成果発表

SATREPSシャーガスプロジェクトの終了時イベントにて、専門家らの活動の成果発表

サシガメ調査において、サシガメの生息住宅の点検

サシガメ調査において、サシガメの生息住宅の点検

シャーガス病急性期の兆候をみるための確認

シャーガス病急性期の兆候をみるための確認

全国各地で採取されたサシガメの検査

全国各地で採取されたサシガメの検査

エルサルバドル大学の学生も参加した植物調査及び収集

エルサルバドル大学の学生も参加した植物調査及び収集

SATREPSシャーガスプロジェクトにおける研究者達の最後の訪問サイトとなったサンサルバドル火山地区

SATREPSシャーガスプロジェクトにおける研究者達の最後の訪問サイトとなったサンサルバドル火山地区

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