JICA EWARS(Early Warning, Alert and Response System)プロジェクト(インドネシア感染症早期警戒・対応能力強化プロジェクト)の第2回カウンターパート研修が日本で実施されました
2024.09.25
2024年6月2日から6月22日の3週間にわたり、インドネシア政府の中央レベルおよび地方自治体レベルにおける職員を対象に、サーベイランスと緊急対応能力の強化を目的とした研修が開催されました。参加者のうち5人は保健省から、残りの5人はプロジェクト対象州(バンテン州、東カリマンタン州、南スラウェシ州)の州や県のサーベイランスにかかわる公衆衛生部門から参加しました。東京都、三重県、広島県を訪問し、日本の感染症サーベイランスシステムについて学びました。研修の最後には、参加者全員が、3週間の学びを生かし、サーベイランス強化のためにそれぞれの所属先で実現したい今後のアクションプランを発表しました。
東京では、国立感染症研究所(NIID: National Institute of Infectious Diseases)の専門家による国の立場から見た様々なトピックについて講義を受けました。その後、三重県と広島県では、県の医療保健担当部、保健所、国立病院、市立病院、地方衛生研究所、民間の臨床検査センター、大学など、さまざまな施設の専門家から、地方自治体でのサーベイランス体制や関連業務について学びました。参加者からは多くの質問が出され、終始活発なディスカッションが行われました。
本研修の重要なポイントは、感染症サーベイランスの概念を学び、自国のサーベイランスシステムの長所と課題を明らかにすること、そして日本とインドネシアの違いを考慮しながらサーベイランスの将来像を考えることにあります。
NIIDをはじめとする研修受入機関の丁寧なサポートのおかげで、研修を無事に終了することができました。インドネシア研修員からは、研修プログラムに対する高い評価とともに、研修の今後の継続を望む意見が多数寄せられました。この研修は、インドネシアと日本の専門家が互いに学び合い、協力し、将来的にグローバルな感染症問題に共に立ち向かうためのパートナーシップの醸成に貢献する貴重な機会となりました。
以下に、2人の研修参加者からの研修終了後のコメントを紹介します。
名前 ヌルル・ムハフィラ(フィラ)
役職 インドネシア共和国保健省感染症予防管理局マラリアワーキングチーム保健管理官
研修前、私はEWARSについて限られた知識しか持っていませんでした。しかし、今回の研修で、EWARSだけでなく、感染症サーベイランス、記録、報告システムについても総合的に理解することができました。
他の参加者はEWARSに直接携わった経験のある先輩方だったのですが、その中にあって私は一番若く、おそらく経験も浅い参加者であることに当初は不安を感じていました。しかし、研修が進むにつれ、他の参加者がフレンドリーで親切な方たちだったので、年齢や経験の差は些細なものに感じられるようになり不安はなくなりました。
講師陣の多くが大学の先生など偉い方たちだったので、形式的で堅苦しい雰囲気を想像していました。ところが実際には、研修は魅力的で、有益で、オープンなものでした。講師陣はフレンドリーで謙虚で、ディスカッションにも積極的でした。
私は当初、この研修は国の違いや参加者間での経験の共有に配慮しつつも、講義と質疑応答で進められる標準的な学習方法を予想していました。しかし、実際にはグループ討議や実践的なエクササイズが多く盛り込まれ、私たちの職場環境にも応用できるものだったのです。例えば、広島大学では、グループディスカッションやその結果の発表を含むワークショップが行われました。このワークショップで用いられた手法は、これまでに経験したものと異なり、少し驚きましたが、私にとってはエキサイティングであり、新たな知識や洞察が得られたという意味で非常に価値のある経験でした。
そして研修を終えたいま、今後の仕事に役立つと思っているのは以下のようなことです。
1. サーベイランス・ワーキングチームとマラリアワーキングチーム間のプログラムを超えた協力体制の強化:マラリアのアウト・ブレイク時のデータの更新と確認の業務フローを調整して、アウト・ブレイク発生時に関係者が協力して対応する体制が強化できるかもしれない。そのためにできることの一つには、共有のWhatsAppグループの更なる活用の促進がある。共有のWhatsAppグループは既に作られ、マラリアのアウト・ブレイク時には、サーベイランス・ワーキングチームとの連携した対応が始まっている。
2. 新興感染症への備え:広島での研修から得た教訓は、将来発生する可能性のある疾病への備えが重要であるということです。インドネシアでは現在、Plasmodium knowlesi(サルマラリア原虫)*によるマラリアは大きな問題になっていないものの、隣国のマレーシアではこの病気の問題に直面しており、今後の潜在的な脅威といえます。これら潜在的な脅威に対する対応能力を強化するためにP. knowlesiマラリアのサーベイランス・ガイドラインの作成計画が必要です。
*サルマラリア原虫:マラリア原虫の一種で、サルのみならずヒトへの自然感染を起こすことが知られている。
3. セクターを超えた協力によるワンヘルス・アプローチ:様々なセクターやプログラム間の連携を促進するワンヘルス・アプローチの実施は、特に支援が届きにくい地域でのマラリア発生に対処する上で極めて重要です。そのため、研修後、私たちはセクターやプログラムを超えた関係者を集めて会議を開催しました。複数の省庁から代表者が参加しました。このような包括的なアプローチは、資源や専門知識を活用し、マラリア撲滅に向けた課題へのより効果的かつ総合的な対応を促進するのに役立ちます。
他にも次のことについて触れておきたいと思います。
1. 日本は抗菌薬耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)対策において、インドネシアとは対照的な疾病対策を行っている。
2. 日本にはPCR検査を含む検査結果に裏付けられた、一元化された報告システムと医療記録管理プロセスがある。
3. 広島県感染症・疾病管理センター(ひろしまCDC: Centers for Disease Control and Prevention)による分野横断的な協力体制と統合されたプログラムは、将来インドネシアでも採用されることが期待される。
また、日本には無料で一般公開されている寄生虫博物館があり、だれでも簡単にアクセスでき、様々な感染症について一般の人々が学習するのに役立っていることが素晴らしいと思いました。
2024年6月18日:広島大学でのワークショップでグループディスカッションの結果を発表するフィラ氏。
私は、このEWARSの日本での研修に選ばれた参加者の一人です。
この研修は、私の職務、特に疾病予防管理部長として感染症の早期発見と対応に関する活動を管理する職務を遂行する上で、大変役に立つものでした。21日間の研修は、TIC(JICA東京センター)で始まりました。TICは非常に快適な施設であり、施設利用者間で活発なコミュニケーションや交流が図られ、加えて、スタッフの方々もよく対応してくださいました。研修での現場視察を通し、概念と実践の組み合わせで学ぶことで、検査室ベースの疾病サーベイランスが日本でどのように実施されているかをより深く理解できました。すべてが私たちにとって特別な内容となっていて、ここで学んだことは今後、私たちの職場に戻って職務を遂行するうえでの財産になると思います。
この研修では日本の社会的・文化的な面を見る機会にも恵まれました。日本の清潔感のある街並みや、規律正しく、思いやりがあり、そして人の権利を尊重していている社会をとても興味深く感じました。また、歴史的な広島原爆資料館やとても勇壮で美しい神社・仏閣などにも感銘を受けました。
私にとって今回の研修で特に印象的だったことに、「SACCHI MIE」と名付けられた学校での感染症サーベイランスシステムがありました。私は、インドネシアのプライマリーヘルスケアサービス統合の指針に沿った形で、SACCHI MIEのようなシステムを、自国の学校でのサーベイランスや村落規模での地域ベースのサーベイランスシステムに取り入れていきたいと思います。また将来的には、病院や医療施設で、AMRサーベイランスシステムを導入し、医師や看護師からなる感染症対策チームの役割と機能を強化し、地域におけるAMRの発生を予防したいと思います。
最後に、今回の研修は、私にとって“日出ずる国で学ぶ”非常に貴重な経験となりました。日本の早期警戒・疾病対応システムや日本の保健システムについて、もっと深く学びたいと感じました。
日本は美しく、常に憧れの目標となる場所です。
JICA、本プログラムの担当者、先生方、日本での研修期間中にさまざまなサポートや助言をしていただき、ありがとうございました。
2024年6月21日:最終日に研修のアウトプットとしてアクションプランを発表するハサン氏。
2024年6月11日:国立病院機構三重病院にて、谷口病院長によるサーベイランス活動の説明。
2024年6月12日:三重県津保健所検査室見学の様子。
2024年6月14日:広島CDCにて桑原先生による講義の様子。
2024年6月21日:NIIDでの修了証書授与式。
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