jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

スパシーバに囲まれた生活

2024年12月19日

画像

池野 宏樹(静岡県出身 2023年度1次隊 青少年活動)

 日本の皆さんこんにちは。首都ビシュケクから車で西に1時間、ベロボーツカエ村にある学校で英語教師をしている池野です。新しいことに挑戦しようと協力隊に応募、現職教員特別参加制度を活用し静岡県内の公立高校の教員としてのキャリアを一時中断して、去年の夏からキルギスで活動しています。

 キルギスに到着した日、連なる山々に囲まれた美しい大地と、澄み渡る空が私を迎えてくれました。この土地に降り立った瞬間、周囲に響き渡る“スパシーバ”という言葉が、不思議と温かさを感じさせてくれました。感謝の意味を持つこのロシア語は、人々の心遣いと共にキルギスの日常のあちこちに溶け込んでいます。今日は、私の職場で聞こえてくるスパシーバをご紹介します。

学校でのスパシーバ

 キルギスでの活動は、教育現場を中心に行っています。授業を通じて英語や異文化を教えることが私の使命でしたが、実際には教える以上に多くのことを生徒たちから学んでいます。子どもたちは、少ない教材と限られた環境の中でも、学ぶ意欲に満ち溢れています。教室の窓の外に広がる草原を背景に、彼らは瞳を輝かせながら私の話に耳を傾けてくれています。言葉の壁もありましたが、それは共に過ごす時間の中で自然と薄れていき、絆は言葉以上のものをもたらしてくれました。授業後は毎回「スパシーバ!」と握手やハグをしてくれる子どもたちに元気をもらっています。

画像

授業の様子

共に汗を流したスパシーバ

画像

練習風景

 ある日、隣りの学校にハンドボールチームがあると聞き、練習に参加させてもらうことになりました。国内大会があり、熱意あふれる生徒たちと一緒にコーチとして戦いました。その試合は緊張の連続でしたが、全員の心が一つとなったとき、私たちは男女とも優勝を手にすることができました!試合後の子どもたちの笑顔と「スパシーバ!」という歓声が、心に深く響きました。その瞬間、勝利以上に得たものがあると確信しました。またしても私は教える立場であったはずが、逆に生徒たちから勇気や希望をもらいました。

作品を共に作り上げたスパシーバ

 在キルギス日本国大使館主催の文化紹介イベントがあり、日本文化を現地の人々に紹介するため、協力隊仲間や現地の大学生たちと一緒にソーラン節を披露することになりました。何度も練習を重ねる中で、初めての日本舞踊に挑戦する彼らの姿と、掛け声の息が徐々に合っていく様子に感動しました。本番の日、舞台上で一糸乱れぬ動きで踊り切った私たちは、会場から大きな拍手と「スパシーバ!」の声をもらいました。その瞬間、異文化間で通じ合う喜びが胸に広がり、私たちが作り出したひと時が共に感動を分かち合うものになったことを感じました。異国の地でのこの特別な体験は、日本の文化を通じて心が一つになった瞬間として一生忘れられません。

画像

首都のデパートで開かれた文化紹介イベントにて

 スパシーバに囲まれた生活は、日々私を変えていきました。最初は異国の文化や習慣に戸惑いもありましたが、その度に誰かが手を差し伸べ「スパシーバ」と微笑んでくれました。それは感謝と共感の連鎖でした。感謝の心は、人と人の間の壁を越えて流れ込み、どんな文化や国境も越えていきます。

 派遣期間も終盤に差し掛かり、教え子たちの成長を見つめる日々も残すところあとわずかとなりました。私の任務はもうすぐ終わりますが、この地で得た経験は、静岡の教壇に戻っても色褪せることはないでしょう。キルギスでのこの『スパシーバに囲まれた生活』を心の糧にして、より多くの生徒たちに新たな視点や情熱を伝えていくことを誓います。残りの派遣期間は、これまで受けた「スパシーバ!」を今度は私の方から、言葉と行動で周りの人々に伝えていけたらと思っています。

画像

学校の卒業式で

画像

ビシュケク近郊の山Uchityel峰(4,530m)の山頂で

画像

最高の経験をくれた自慢のチーム