2025年9月15日
和田 絢子  埼玉県出身 2023年度1次隊 作業療法士
後輩隊員の皆さんへ‐ボランティア活動の意義とは?‐
「始める前に、一言申し上げておきたいと思います。
他の国に住むのは大変だということは理解しています。
時々それは不快に感じます。
したがって、私はあなたに力と幸運を祈りたいと思います。
必ず成功しますよ!
キルギスへ来てくれてありがとう!」
 
自然豊かなキルギスの草原にて
 これは活動を始めて1ヶ月ほど経った頃、病院に入院していたある女の子が、わざわざ日本語に翻訳して伝えてくれた言葉です。異国での活動の大変さを理解してくれる人がいることに感激し、勇気をもらったことを今でもはっきりと覚えています。
 皆さんにとって、JICA海外協力隊の2年間はどのように映っているでしょうか。
私は学生時代、日本国際保健医療学会学生部会の合宿で出会った仲間たちに刺激を受け、国際保健の世界に足を踏み入れました。その仲間たちは明確な目標意識を持って合宿に参加しており、当時の私にはその姿がとても輝いて見えました。そしていつしか私も、国際保健と地域医療を学ぶ中で“あらゆる人の考えや痛みに共感できる人でありたい。西洋医学だけでは解決できない問題を切り捨てず、寄り添える人でありたいと”思うようになり、5年間の臨床経験を経て、JICA海外協力隊に参加しました。
 活動が始まった当初は、楽しく活動していました。しかし、1年目以降、キルギスの医療の現状への理解が深まる中で、ボランティアとしての活動方針に迷いが生じ始めました。
 その理由は配属先以上に、ボランティアの支援を必要としている施設や地域があると思うようになったからでした。私の配属先は総合病院のため、必ずしもリハビリテーション(以下リハ)が必要な子供たちが入院している訳ではありませんでした。近年、リハ専門の公立病院が新設され、継続的なリハを必要とする子供たちはそちらに多く入院していることが分かってきました。また、経済的に余裕があれば、国内でも海外式のリハを受けられる環境が整いつつあることも分かりました。一方で、地方には、金銭的な理由で首都の医療を受けられない子供たちが多くいることも分かってきました。
 
病室でのリハビリテーションの様子
 
同僚との昼食の様子
 そうした現状を知る中で、「より多くのキルギス人に作業療法を知ってほしい」と思うようになりました。作業療法士という専門職はキルギスではほとんど存在せず、認知もされていません。だからこそ、「障害があっても、豊かに生きることを支える作業療法という仕事を知ってもらいたい」と思うようになったのです。
 そこで、配属先の病院以外での活動もできないかと、職場の同僚や上司に働きかけてみました。しかし、なかなか思うように伝わらず、理解を得ることはできませんでした。「ボランティアとは、多くの人に支援を届けることではないのか」。その問いの答えを自分の中で探し続けました。
 ただ、一つだけ確かなのは、「目の前にいる子供たちに対して、今の自分に何ができるのか」そのことをひたすら考え続けた2年間だったということです。
 自分は全く成長できていないのではないか、そう感じることも多くありました。神経難病など、これまで臨床経験の少ない疾患を持 つ子供たちが多く来院し、日々勉強する中で、日本での経験を十分に活かせないもどかしさ、やりたいことができない苦しさに葛藤する日々でした。日本で過ごしていたかもしれない2年間と比べ、後悔することもありました。
 
医療大学で実施したセミナー
 しかし、キルギスでの臨床1年8ヶ月目、定期的に入院している子供たちと4回目の介入時、彼らへの関わり方や親御さんへの説明の仕方が、初回と比べて変化していることに気づきました。1年前にキルギス語でまとめた資料を作り直すと、その内容は以前よりも深くなっていました。また、彼らの置かれた現状をもっと理解したくて、ロシア語やキルギス語の記事をたくさん読みました。
 成長できていないと思っていたけれど、自分が想像していた以上に、この2年間で私は成長していたのかもしれません。
 
活動先で出会った家族に招待してもらった食事会
 「いつでも家に来ていいよ。アヤコは家族だから」と言ってくれた大家さん。職場公認の私のキルギスの母として、いつも気にかけてくれ、居場所を作ってくれた食堂のおばちゃん。「ボランティアの方に敬意を示したい」と、授業料を受け取らずにキルギス語の資料を添削してくれた語学の先生。たくさんの方々が、私のキルギスでの活動を支えてくれました。
 ボランティアとして参加し、何者にもなれず苦しみながらも、結局子供たちやその家族、そして私に関わってくれた多くの人たちが私を成長させてくれた2年間でした。
 「ボランティアとは何か?」――その問いに、きっと正解はないのだと思います。ただ、悩み続ける中で、自分自身が納得できる答えにたどり着けたとしたら、それはとても素敵なことだと思います。
 今キルギスで活動している協力隊員の皆さん、そしてこれから応募を考えている皆さんの活動が、正解を模索し悩みながらも、きっと成長した自分に出会えるものになることを心から願っています。
 
アラアルチャ国立公園にて、後輩隊員の皆さんと
 
           
         
                 
                 
                 
                 
                 
                
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