「国際女性の日」ラオスにおける女性の社会進出ついて聞く~第13回美弥子所長が聞く ~
2025.03.31
JICAでは研修員受入事業を実施しており、国づくりの担い手となる開発途上国の人材を「研修員」として受け入れ、技術や知識の習得、制度構築、ネットワーキング等をバックアップしています。 研修員受入事業のうち、受入期間が1年以上の研修を長期研修としています。長期研修で来日した研修員は、大学院に入学し、修士/博士課程での学業を通して、母国の開発に寄与するための総合的かつ高度な技術や知識の習得を目指します。
・長期研修参加者
Dr. Souphany HEUANGKEO (ラオス公共事業運輸省運輸局 道路旅客運輸課次長)
・ファシリテーター
小林 美弥子(JICAラオス事務所所長)
小林美弥子所長(以下、美弥子所長):なぜJICAの長期研修に応募されたか教えてください。
Dr. Souphany HEUANGKEO 氏(以下、スパニーさん):私はラオス公共事業運輸省で勤務をしており、JICAの技術協力プロジェクト「ビエンチャンバス公社運営能力改善プロジェクト」に公共事業運輸省の担当者として関わっていました。その際に日本の運輸交通についてより深く学びたいと考え、また、これまで交通分野の学位を取得していなかったため、JICA長期研修に応募しました。横浜国立大学へ留学(2020~2024年)し、都市イノベーションの博士号を取得することができました。
スパニーさん(右)と美弥子所長(左)
美弥子所長:長期研修参加にあたり、家族や職場からは反応はいかがでしたか。
スパニーさん:家族のことは心配だったものの、自分の成長、そして国に貢献するためにやり遂げたいという思いが強くあり、夫に相談したところ、留学に対して賛成してくれ、また子どもの面倒も見ることを快諾してくれました。また、最初は2年間の修士号取得の研修を申し込もうとしたところ、職場の上司からは、せっかくのチャンスだからと博士号を勧めてくれました。もっとも私自身が、3年間ラオスを離れることに心配な部分もありました。そのとき、大学の指導教官となる中村文彦教授も家族の事情を考え、なるべくラオスでの研究の時間を多く確保できるように配慮いただいたことも長期研修参加にあたり大きな後押しとなりました。また、研究2年目に妊娠したのですが、そのときJICAに相談したところ、研修期間を1年延長するなど柔軟な対応をしてくれたことは博士課程取得において大きなポイントとなり、JICAにも深く感謝しています。
美弥子所長:家族、上司、指導教官、そしてJICAもスパニーさんの研究を後押ししたということですね。博士課程を取る過程で思い出に残っていることを教えてください。
スパニーさん:当初は、1年目は日本で、2、3年目はラオスで研究するという計画でしたが、1年目に新型コロナが流行し、結果的にオンラインでの授業となり、ラオスで研究することになりました。博士課程在籍中とはいえ、日中は勤務先の仕事をしなければならず、家に帰れば育児、子どもが寝てから勉強と本当に大変でした。それでも、毎週1回、多くの論文を読み、ポイントを英語で発表をしました。この時期は大変でしたが、この経験を経て自分自身、大きく成長することができました。
また、マレーシアの学会で発表する機会も思い出に残っています。この学会にラオスから参加したのは私一人であり、ラオスの代表として発表できたことは貴重な思い出です。このような学会で発表することは、大学教授等、様々な方とのネットーワークづくりにも大きく貢献します。このような場で知り合った方とは今でも繋がっています。
大学で発表するスパニーさん
美弥子所長:仕事、育児、研究と一人三役をこなしていたのですね。さて、博士号を取得後、現在の仕事にどのように役に立っていますか。
スパニーさん: 博士号を取得するときに多くの論文を読み、学会等に参加することで、分析スキルや都市交通の課題についての理解を深めること、そして視野を広げることができました。現在もJICAや他ドナーを含む様々な公共交通プロジェクトに関わっていますが、以前よりもプロジェクトの内容を深く理解することができるようになり、加えて各プロジェクトの専門家と議論をし、これまで以上に多角的かつ専門的な視点から意見を述べることができるようになりました。
今後も、この専門知識と経験を活用し、ラオスでの効率的かつ公平な公共交通システムの発展に貢献したいと考えています。
博士号を授与されたスパニーさん
現在もJICA技術協力プロジェクト「ルアンパバーンにおける持続可能な都市開発・交通管理プロジェクト」に取り組むスパニーさん
美弥子所長:JICAでは、女性の「研修・留学生事業の女性の割合」について指標改善に向けた取り組みを行っていますが、より多くの女性の方にJICAの研修に参加してもらうためのアドバイスをいただけますか。
スパニーさん:ラオスの公務員でも女性の管理職割合を30%としていますが、なかなか実現できていません。私も多くの女性に様々な研修に参加し、特に日本に行って欲しいと考えています。日本に研修に行くことで、勉強以外にも、日本での生活・文化や働き方を学ぶことができます。これは私自身が経験したことであり、他の方にも同じ経験をして欲しいと考えています。
しかし、ラオスの多くの女性は英語が不得意、研修をやり遂げる自信がない、家族を置いていけない等の理由でなかなか一歩を踏み出すことができません。英語の事前研修、また家族の研修同行、研修の付加価値の発信などがあると良いのかなと感じます。
美弥子所長:ラオスでは英語が一つのネックになっている点は事実かと思います。一朝一夕に解決できるものではなく、長期的な取り組みが必要な部分ですが、一方、JICAでは国別研修というラオス語で研修を受講できるスキームもあるので、短期的には、まず国別研修での女性の参加率を増やしつつ、研修におけるジェンダー主流化を目指したいと考えています。
また、ラオスにおいてJICA長期研修で博士号を取得した女性はスパニーさんが第一号なので、是非ロールモデルになっていただきたいと考えています。スパニーさんにラオスのリーダーに向けた研修・留学推進セミナーの講師をつとめていただき、より多くの女性が活躍できる社会実現に向けた旗振り役になっていただきたいと思います。
スパニーさん:是非、やらせて下さい!
フィリピンでの国際会議に参加し公共交通システムについて発表をしたスパニーさん
JICAでは、ラオスにて副大臣・局長等の行政官として活躍しているリーダーを対象として、将来の国家運営に日本の知見を活かしてもらうため「社会経済発展をもたらす指導者のためのリーダーシップ強化プロジェクト」を通じて研修を実施しています。行政のリーダーは、ラオス人民革命党の幹部のため、「党幹部研修」と呼称しています。本研修は、2017年に開始されて以来、今回で通算5回目であり、今年度は、2025年2月24日から3月5日まで、21名が来日し、日本の政治と行政、地方自治、行政改革、公務員人事制度等幅広く学びました。
今回は、本研修参加者に、研修での学びについてお話をお伺いしました。
・研修参加者
Ms. Ammaly CHANTHAPHONE:大統領府 国際関係局局長
Ms. Sane XAYASENG:ラオス女性同盟 女性研修センター長
・ファシリテーター
小林 美弥子(JICAラオス事務所所長)
美弥子所長:まずは、お二人のお名前と現在の仕事内容について教えてください。
Ms. Ammaly CHANTHAPHONE(以下、アムマリーさん):現在、国家主席府にて国際関係局長を務めており、 二国間関係部門 、多国間関係部門、 国際協定・平和条約部門 の3つの部門の責任者です。
Ms. Sane XAYASENG(以下、サンさん):女性同盟の女性研修センターの責任者を務めています。訓練センターは、女性関連の業務を担当する職員の研修・研究、計画策定などを行っています。各省庁やビエンチャン都・県で働く女性連盟の職員や会員に対して、職業訓練やその他の研修を実施しています。また、伝統工芸など文化保全にも力をいれており、ラオスの多様な民族の女性たちが活躍できるように努めています。
左からサンさん、美弥子所長、アムマリーさん
美弥子所長:今回の研修では、日本の国家公務員制度や地方自治について、人事院や総務省の元局長級の方々と交流したと聞いています。日本のどのような取組みをラオスで活かすことができるとお考えですか。
アムマリーさん:日本の公務員制度について、その種類と採用・育成・評価の方法等を学びました。日本における公務員制度の透明性や組織管理の方法を参考に、ラオスの行政組織の効率化を図ることができそうです。日本の行政管理やリーダーシップ育成のノウハウを活かし、ラオスでの公務員研修を強化したいと考えております。
サンさん:国家公務員で女性の採用・登用を拡大している点も学びました。人事管理や行政管理の方法が役に立ちそうです。
美弥子所長:その他、印象に残っている研修内容はありますか?
アムマリーさん:地方視察先の長野県は美しい自然に恵まれ、善光寺には日本国内外から多くの観光客が訪れていました。ラオスにも多くの寺院があるので、寺院を中心とした観光モデルを作り、地方経済の発展のモデルにしていきたいと思いました。また、長野県ではブドウやミカンなどの果物の栽培が豊富であり、多くの売り上げがあることを知り、果物の生産によりラオスの農業分野における発展について考えることができました。また、「道の駅」での販売方法も地域経済の発展に寄与することができるモデルだと思いました。
サンさん:私も長野県での現地視察が印象に残っています。千曲川氾濫域の視察を通じて、河川流域の関係者全員が協働して治水対策を推進する「流域治水」の重要性・有効性を学びました。また農業分野では、農業農村振興計画について、実際の取り組みを学ぶことができました。特に現状に即した戦略計画の策定方法を学ぶことができ、これは私たちが現在取り組んでいる戦略や開発計画策定に直接役立つものでした。
美弥子所長:お二人とも長野県での研修がとても印象に残っているということですね。ぜひ、日本の地方における観光や農業の実践、また、日本の公務員制度における女性の採用・登用についても課題や教訓を含めて、今後、ラオスの取り組みに活かしていってください。
事前に日本における観光や道の駅について座学の研修を受けた
善光寺で住職から観光について話を聞いた
道の駅で地域の特産品の販売方法を学んだ
道の駅で販売される長野県産のみかん
美弥子所長:3月8日は国際女性の日でした。皆様の職場で女性の活躍について教えてください。
アムマリーさん:私が勤務する国家主席府では女性同盟の代表を務めており、ラオス全体の女性同盟の執行委員会の一員としても活動しています。国家主席府では、多くの女性が役職に就き、指導的な立場についています。国内では、多くの女性が教員や医師として活躍をしており、医療・教育の現場を支えています。民間企業でも女性経営者の数は増えており、ラオスは全体として女性が活躍している社会だと考えています。
サンさん:私は女性同盟で働いているということもあり、多くの女性が管理職としても活躍しています。それぞれの職員が、ラオスで女性が活躍できる社会を築いていくために、女性の社会参加がしやすくなるように、男女平等の社会を築けるように、多くの女性の声を聞いてそれを政策に反映させることができるように取り組んでいます。
美弥子所長:国際女性の日にあたり、何か企画等を行いましたか。
アムマリーさん:女性の活躍は大切なものとして考えており、若手職員とベテラン職員との交流会を開催しました。ベテラン職員からこれまでの苦労や経験等を聞くことのできる機会を作り、若手職員の女性にも女性が活躍することのできる社会を皆が協力して作っていくことの重要性を伝える機会となりました。
サンさん:女性同盟では、女性の社会参加を啓発するために「女性の日」にはウォーキングイベント等を開催しています。また、これまで多くの女性の努力によって女性も活躍できる社会が少しずつできていることを知ってもらうために「すべての女性と少女のために:権利、平等、エンパワーメント」をテーマとしてセミナーも開催しています。
美弥子所長:ラオス社会での女性の活躍は、日本も見習うべきことが多いと思います。今後ともラオスと日本が協力して、学び合っていきたいと思います。
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