ボリカムサイ県へのJICAの支援について ~第16回美弥子所長が聞く~
2025.06.27
ボリカムサイ県は、ラオス中部に位置しており、首都ビエンチャンに隣接した交通の要所です。首都ビエンチャンからラオス南部やベトナムに行く際には、必ずボリカムサイ県を通って行くことになります。また現在、メコン川対岸のタイのブンカン県とをつなぐ第5友好橋が建設中で、今年中に開通する予定となっており、往来の活発化が見込まれています。
ボリカムサイ県で有名なワット・パバート寺院の大仏塔
ベトナムとの国境
今回、ボリカムサイ県副知事を表敬訪問し、ボリカムサイ県におけるJICAの取り組みや、今後の開発計画・ニーズについて意見交換を行いました。
小林美弥子所長(以下、美弥子所長): JICAは、ボリカムサイ県でも、これまで様々な分野で協力をしてきました。今年はJICA海外協力隊60周年となり、これまでラオス全国に1098人のJOCVをラオスに派遣しています。ボリカムサイ県では、現在、JICA海外協力隊員3名が活動をしています。
またJICAは、水道、保健、教育、法整備、森林分野で協力を展開しており、多くの分野でボリカムサイ県も対象に含まれています。特に技術協力「水道事業運営管理能力向上プロジェクト(以下、MaWaSU3)」では、同県がパイロット県の一つになっています。教育セクターでは、無償資金協力での県教育研修センターの建設も予定しています。本施設の建設により、ボリカムサイ県での教員研修を通じ、教育の質向上を図りたいと考えています。
左から3番目が美弥子所長、4番目がカムヴェン副知事
カムヴェン・パンニャヌヴォン副知事(以下、カムヴェン副知事):本日は、ボリカムサイ県にお越しいただきありがとうございます。JICA海外協力隊は、着任時に表敬訪問に来てくれ、道ですれ違った時にも挨拶をしてくれるなど、ボリカムサイ県の一員として活動をしてくれています。また、MaWaSU3の活動の一環として、今年10月にボリカムサイ県公共事業運輸局と水道公社の職員が日本で研修を受けることになっており、日本の技術を学び、ボリカムサイ県の水道分野の発展に寄与して欲しいと考えています。新しく建設予定の県教育研修センターでは、JICAの技術協力により整備された算数教科書・指導書も活用して、研修の質の向上に期待しています。
美弥子所長:ボリカムサイ県での重点分野やニーズを教えてください。
カムヴェン副知事:特に農業分野が大切です。ボリカムサイ県ではいろいろな作物を栽培していますが、加工品として販売することがまだできておらず、作物の安全性の確認にも課題があります。新しい農業技術を導入して生産性・安全性を高めると共に、農産品を加工できるようにしていきたいと考えています。その他、観光開発、水道や道路等のインフラの整備も重要と考えています。
美弥子所長:今年度、新規技術協力プロジェクト「フードバリューチェーンモデル」が開始する予定です。また、これから無償資金協力「植物防疫・農作物品質検査所整備計画」の調査も始まります。農林省と協力し、生産性の高い農産物の選定や、輸出に必要な検査機関の整備に向け、ボリカムサイ県とも協力していくことができればと考えています。
現在、ボリカムサイ県には、子ども文化センター、水道公社、青年同盟に3名の隊員が派遣されています。今回、水道公社で活動する江端一徳隊員と青年同盟で活動する吉野慎太郎隊員の活動先を訪問しました。
【水道公社での活動について 】
美弥子所長:最初に、隊員になったきっかけと現在の活動内容を教えていただけますでしょうか。
江端一徳隊員(以下、江端隊員):大学院で研究をしているときにネパールのJICAプロジェクトに関わることがあり、その経験がきっかけとなっています。その後、愛知県の豊田高専での勤務経験も積み、これまでの研究・教育経験を海外で活かしたいと考えました。
現在、水道公社では、水質検査の方法等を同僚に伝えています。飲料水として使用するためには23項目の検査をする必要があり、その検査方法や水質検査後のデータの管理方法等を伝えています。
美弥子所長:江端さんは、技術協力「MaWaSU3」とも連携されていますよね。
江端隊員:同分野の協力隊員と立ち上げた水質分科会に所属しつつ、分科会の隊員とともに、MaWaSU3と連携しています。他県で活動する分科会の隊員とともに、浄水場で使用する薬品の性能試験や水質管理手法について議論したり、現場の水道公社の実際の様子をMaWaSu3の専門家に伝えたりしています。
美弥子所長:是非、技術協力プロジェクトとも連携してラオスの水道分野に貢献してください!
他にこれからラオスでやってみたいことはありますか?
江端隊員:ボリカムサイでナイトマーケットを開催したいと考えており、同じ任地と隊員と日本のおにぎり作りなどいろいろ企画をしています!!
水道公社訪問時の様子、一番右端が江端隊員
水道公社の職員と水質検査方法を一緒に確認する
【青年同盟での活動について 】
美弥子所長:最初に、隊員になったきっかけと現在の活動内容を教えていただけますか。
吉野慎太郎隊員(以下、吉野隊員):私は愛知県豊田市に住んでいました。豊田市にはデトロイト市の姉妹協定があることから、いつかは海外で活動をしたいと考えていたため、JICA海外協力隊に応募しました。
現在は、青年同盟でパソコンと日本語を教えています。日本語の授業では日本語だけでなく、日本文化も授業を通して知ってもらいたいと考えています。パソコンは、文書作成ソフトや表計算ソフトなどだけでなく、写真編集ソフトの使い方も教えたいと考えています。
美弥子所長:先ほど、日本語の授業を見学させていただいたときには、生徒の皆さんは楽しそうに、また一生懸命発表していましたね!
これまでのボリカムサイでの生活で印象に残っていることはありますか?
吉野隊員:ロケット祭りが印象に残っています。ロケット祭りは雨季の恵みを祈ってロケットを空へ打ち上げる壮大な行事です。 地元の人々が手作りした巨大ロケットが、爆音とともに青空へと舞い上がる瞬間は圧巻でした。
美弥子所長:協力隊員は日本とラオスの懸け橋です。任期終了後は、日本でラオスの文化・社会の魅力を伝えていってください。
日本語を指導する吉野隊員
生徒と一緒におにぎり作りをする吉野隊員
Nam Ngiep1 Power Companyからお声掛けをいただき、ボリカムサイ県にあるナムニアップ1ダムを見学させていただきました。ナムニアップ1水力発電所は、メコン川の支流であるナムニアップ川に位置するダム式水力発電所で、関西電力が開発段階から建設・運営を主導してきた海外電力事業の1つです。今回、関西電力から出向されているNam Ngiep1 Power Company 社長の土居隆之氏にお話しを伺いました。
土居隆之社長(以下、土居社長):ナムニアップ1ダムは高さ167mを誇り、ラオスにおける重力式コンクリートダムの中で最も高く、日本で最も高い黒部川第四発電所のダム(186m)に匹敵します。関西電力では、このナムニアップ1プロジェクトを、第二の「くろよん(黒部川第四発電所)」(※)と称して、海外電力事業の代表例の1つになっています。「くろよん」をご存知無い外国の訪問者の方々には、その形状や高さ、さらに構造物としての長寿命性から「ラオスのピラミッド」と紹介しています。因みに、ラオスでのダム建設の背景には、現在関西電力の常務を務めている多田隆司氏が2000年からJICAの電力専門家としてラオスに派遣されていたことがあります。彼の派遣中、ラオス国内の水力候補地点を分析する中でナムニアップ1地点が有望と認識していたことが、この海外電力事業展開の一つのきっかけとなりました。
※黒部川第四発電所建設は、当時は世紀の難工事と言われ小説・映画・ドラマ「黒部の太陽」の舞台となった。
JICA専門家時代の関西電力多田常務(左から3番目)とラオス電力公社職員
ダムを180度回転させるとピラミッドのように見えます
美弥子所長:本プロジェクトを通じて、御社が「くろよん」で培った建設工事や設備管理にかかる技術力が ラオスの人々に伝わっていると思いました。多田常務がかつてJICA専門家としてのラオスで活動されていたことがきっかけで、このようなラオスで重要な電力プロジェクトに繋がったというのも、JICAの一員として嬉しいエピソードです。
ダム建設による住民移転への配慮についても学ぶことができました。移転村には、学校や診察所も設置されており、住民の多くがモン族とのことで、彼らが大切にする風水をもとにした各戸建ての方向などにも細やかに配慮されている状況を拝見しました。
土居社長:ダムの建設によって影響を受ける人々の生活については弊社も細心の注意を払っています。移転村での生活が移転前の村での生活より良くなるように、今でも移転村の住民を対象に農作物栽培や家畜飼育のトレーニングを続けており、これまで栽培してこなかった果物なども栽培することができるようになっています。また、弊社の社員も移転村のお祭り等に参加し、積極的に交流をするようにしています。
美弥子社長:ラオスは、メコンのバッテリーともいわれ、水力発電はまだまだ大きなポテンシャルがあると思っています。引き続き、JICAとも情報交換・連携しつつ、ともにラオスの電力セクターの発展を進めていきたいですね。
土居社長:そうですね。ぜひ、またボリカムサイまで来てください!
Nam Ngiep1 Power Companの皆さんと。左から3番目が土居社長、4番目が美弥子所長
発電機のシャフト
※参考 (関西電力のホームページ)
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