インクルーシブスタジアムの実現に向けて岡田武史元サッカー代表監督に聞く~第22回美弥子所長が聞く~
2026.01.08
ラオスでは、無償資金協力でチャオ・アヌウォン・スタジアムの改修計画を進めており、2026年10月に完工予定です。本案件は、障害のある方もない方も子どもも、高齢者も、みなが共にスポーツを楽しめるインクルーシブスタジアムの実現を目指しています。完成後のスタジアムの活用にいかすべく、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏をラオスにお招きし、インクルーシブサッカー教室や講演会の開催、教育スポーツ省関係者との協議を実施しました。 現在、岡田氏が代表取締役会長を務める株式会社今治.夢スポーツ(FC今治)は、愛媛県今治市にあるアシックス里山スタジアムを中心とした里山エリアの賑わいづくりに取り組んでおり、その経験を通じて多くのアドバイスをいただくことができました。
今回の「美弥子所長が聞く」では、インクルーシブ社会の実現に向けた取り組みやその根底にある想いについて、岡田武史氏をお招きし、トークショーの形でお話を伺いました。
小林美弥子所長(以下、美弥子所長):サッカー選手、監督としてご活躍された後、2014年末にFC今治のオーナーとなられ、クラブを運営する株式会社今治.夢スポーツの経営に参画された経緯について教えていただけますか。
たくさんの在住日本人の方に集まっていただきました。
岡田武史氏(以下、岡田さん):スペインなどのサッカー強豪国にはそれぞれのサッカーの型があり、それを16歳まで型を身に着けるように徹底的に指導し、それ以降は主体性を伸ばすという育成スタイルを取っています。日本には、そのような型がなかったので、主体的にプレーできる自立した選手と自律したチームを育てることを目的としたサッカー指導の方法論の体系として、岡田メソッドを作りました。この岡田メソッドを広げることを考えたときに、既存のチームで監督として伝えるよりも、一からチームを作ってみたいと思うようになりました。そこで、知り合いの紹介を通じて、四国リーグのアマチュアチームオーナーとなりました。
美弥子所長:2014年にFC今治のオーナーになられたときには、6人でのスタート、岡田さんご自身も自ら車にポスターを貼ったり、ビラ配りなどをされたとお聞きしました。また、サッカーをする競技場として運動公園しかなく、地元の拠点としてサッカースタジアムを建設するところから始められたと聞いています。
岡田さん:最初は、3.8億円ほどの小さなスタジアムを作りました。今治市から土地を無償で貸してもらえたものの、それ以上のお金はなかったので、地元の建築士に相談し、山を削り、谷を埋めて、土手をスタンドにすることにしました。スタジアムの建設中には、サッカーを見ているのは200人くらい。そこから徐々に興味を持ってくれる方々を増やして、仮設スタジアムで始めた時には、2,000人くらいの方がサッカーを見に来てくれました。多くの方々に足を運んでもらう、その動機は何なのかと考えてみました。街では、歩いていてもほとんど人に出会うことがありません。ところが、サッカー場に行くといろいろな人と出会うことができる。そこで新しい絆ができたりする。人との出会いや新しい繋がり、サッカーの試合が面白いこと以外の要素も必要だということに気づきました。
スタジアムにいるすべての人の心が震え、感動し、心躍る、心温まる絆ができることを、スタジアムのビジョンにしていこうと決めました。FC今治は、村上水軍にちなみ、世界に羽ばたくというブランディングをしています。全員で海賊の姿でお客さんをお迎えしたり、お笑いのステージを開催したり、子ども向けのふわふわドームや迷路を設置したり、フードコートやマルシェを設けたり、スタジアムの周りに、たくさんのワクワクを散りばめること。たくさんのアイデアで、サッカーを知らない人が来ても、試合を見なくても、たとえ試合に負けても「楽しかった」「また来るよ」と思ってもらえるようなスタジアム作りを目指しました。おかげさまで、このスタジアムのオープニングには、満員となる5,200人のお客様に来ていただくことができ、その後も街の人々が集う場となっています。
美弥子所長:この成功が、現在のアシックス里山スタジアムに続いているのですね。
岡田さん:FC今治が、日本プロサッカーリーグ2部リーグ (J2)に上がるために、もう1つ、より大きなスタジアムを作ろうということになりました。今治市が、無償で土地を提供してくれ、設計図もでき、工事業者も決まりました。しかし、スタジアム建設には40億円必要でした。それを工面するには、ストーリーが必要でした。そこで、「バリ・ヒーリング・ビレッジ(「今治の癒しの村」)というストーリーを考えました。ICTの発達により、AI任せの生き方が可能になる時代が訪れる中で、目に見えない資本、数字で表せない価値をもったスポーツや芸術は人間性を回復する場として必要性を増す。失敗したところから這い上がって成長したり、誰かと助け合って絆ができたりすることは、幸せの1つです。これを提供できるのが、目に見えない資本であるスポーツであり、文化と考えました。本来、駐車場にするべきところを、里山エリアとして障害者の通所施設やカフェを作り、土手は全部畑にして、葡萄を植え、ワインを作り、その他ドッグランも作りました。心が疲れた人々も、ここを訪れると癒され、人間らしさを取り戻すことができます。スタジアムの周りは、どんどん緑豊かになって、心のよりどころとして、365日人が集まる里山のような場所を作るという理念を掲げました。こういった夢を語って共感がうまれ、結果としてスタジアム建設費用42億円を集めることができました。
2025年6月にはスタジアムを管理する教育スポーツ省大臣(当時)と職員がアシックス里山スタジアムを視察しました。
美弥子所長:JICAでは、現在、チャオ・アヌウォン・スタジアムを建設しており、障害のある方もない方も、子どもも高齢者も、みんなが楽しむことのできるインクルーシブスタジアムを目指しており、また、スタジアムを中心とした街作りをしていこうと考えています。岡田さんが、地域に根差したスタジアム、FC今治の運営にあたって大切にしていることはありますか。
岡田さん:FC今治は、日本を、物質的な成長だけではなく、文化的な成長によって、皆が幸せに生きていく世界最先端の国にしていくということを企業理念にしています。私たちは経営の素人の集まりでしたが、11年間つぶれずに経営ができてきました。それはなぜかと考えたとき、企業理念、ミッション・ステートメント、プロミスという行動指針に沿って、全ての行動をしてきたことが根本にあると、こう思っています。
インクルーシブ社会を目指すという点からは、「共助」の社会を作っていくことが大切であると考えています。小さな集団であれば、高齢者や障害者も、皆で助け合いながら、一緒にやっていくことができます。しかし、集団が大きくなっていくと、高齢者や障害者のような方々になかなか光が当たらなくなってしまいますが、それを防ぎ、コミュニティの皆で一緒に生きていく、「共助」が大切であると思っています。
岡田さんにも建設中のスタジアムを見ていただきました
美弥子所長:JICAも、チャオ・アヌウォン・スタジアムの完工に向け、「インクルーシブスタジアム」という理念を具体化していくために、関係者一同がビジョンを共有していくことが重要と考えています。岡田さんの理念の共有や、「共助」の大切さは、チャオ・アヌウォン・スタジアムの今後の方針にも合致し、とても参考になりました。チャオ・アヌウォン・スタジアムを「みんなのスタジアム」として長らくラオスの人々に愛されるよう準備を進めていく予定です。
岡田さん:ラオスは、食事も美味しく、人も穏やかであたたかく、とても良い国だという印象を持ちました。2024年から学園長として関わっている「FC今治高校里山校」の生徒が2026年にスタディツアーでラオスを訪問したいと思っています。自身の子や孫にどういう社会を残せるのか、次世代の育成はなにより大切です。チャオ・アヌウォン・スタジアム含め、今後もラオスとの人々との縁を大事にできればと思っています。
美弥子所長: 次世代の育成がなにより重要な点、心から同感です。2026年のFC今治高校里山校の皆さんのラオス訪問もお待ちしています。今後も、アシックス里山スタジアムを一つのモデルとして、ビエンチャンで「みんなのスタジアム」をみんなで作っていきたいと思います。
岡田さん:「共助」、次世代育成を進めていきましょう!
質問:組織におけるコーチングについて助言をいただけますか。
岡田さん:組織において、選手(部下)に対しては、主体性が大事と考えています。3つの質問を投げかけてみてください。①どうしたの?②それで君はどうしたいの?③何か手伝えることはある?と。放任ではなく、「寄り添う」「見捨てない」「相手を信じる」ことを前提とし、相手に自己決定させる、当事者意識をもたせることが大切であると考えています。 ただし、主体性だけでなく、集団(組織)として共通の目的をもち、落としどころを明確にすることがポイントです。全員が仲良しではなくてもよく、共通の目的を達成するためにお互いを認め合うことが大切です。トップに立つリーダーは、勝つために、目的を達成するために皆に好かれることを求めない。トップに立つものは孤独です。「小善は大悪に似たり」。割り切り、覚悟が大事です。
12月23日に特定非営利活動法人アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)の協力の下、インクルーシブサッカーイベントを行いました。開催にあたって、日本知的障がい者サッカー連盟顧問の津島直樹氏にも協力いただきました。
このインクルーシブサッカーイベントでは、教育スポーツ省の職員、身体障害者、ろう者、視覚障害者、知的障害者、JICA職員も含めて多くの方々が参加し、ウォーキングサッカーを行いました。それぞれできることと、できないことがありますが、皆でサッカーを楽しむことができました。最初は遠慮がちにプレーをしていましたが、障害のあるなしにかかわらず、段々と気持ちが本気になっていき、全力でプレーをし、白熱した試合となりました。
このインクルーシブサッカーイベントを通して、コミュニティの皆が一緒にスポーツを楽しむことができることを、実体験をもって知ることができました。
この度、JICAラオスのインクルーシブ・スタジアム関連イベントとして、12/23(火)にビエンチャンの武道センターにおいて、インクルーシブフットボール教室を開催いたしました。
大きな目的として以下の事を考えて行いました。
①障害の有無に関わらず混ざり合える共生社会の実現に向け、サッカーを通じて障害者と健常者との相互理解の機会をつくる。
②障害者とサッカーとの出会いの機会を創出することで、障害者のスポーツ参加を促進し、障害の有無に関わらず、誰もがスポーツを日常に感じ、スポーツの「楽しさ」を享受できるようにする。
本教室には知的障害、身体障害(上肢欠損、下肢欠損や車いす利用)、聴覚障害、視覚障害、精神障害、脳性麻痺など様々な障害のある方々が参加し、健常者と一緒に「まぜこぜウォーキングフットボール」「まぜこぜフットボール」を楽しみました。
障害があっても、スポーツに掛ける情熱は健常者と変わりません。障害者の皆さんの積極的なボールへのチャレンジは一緒にプレーするコーチやパートナーたちの動きを活発にしていました。
同じフィールドでプレーすることで、参加者同士が自然に交流し、障害への理解を深める貴重な機会でした。
※株式会社今治.夢スポーツ(FC今治)のホームページでも今回のイベントの様子等を紹介していただきました。
ラオスでインクルーシブサッカーイベントの参加並びにサッカー教室を実施
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