ラオスにおける援助機関との協調について~第31回美弥子所長が聞く~
2026.09.30
援助協調とは、開発途上国への支援をより効果的・効率的に行うために、開発途上国政府と開発パートナー(各国政府、国際機関、NGO等)が情報共有や役割分担を行いながら連携・協力することをいいます。なお、援助を行う機関や国を指して「ドナー(donor)」という表現が用いられることもありますが、開発途上国と共に開発課題の解決に取り組む対等な協力関係を重視する観点から、「開発パートナー(Development partner:DPs)」と呼んでいます。近年は、開発ニーズが多様化・複雑化する一方で、多くの国でODA予算が限られる傾向にあり、限られた資源を有効に活用する観点からも、援助協調の重要性はますます高まっています。
今月の「美弥子所長が聞く」では、ラオスにおける援助協調についてご紹介します。
ラオスでは、JICAなどの二国間援助機関に加え、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、AIIBなどの国際開発金融機関、さらにUNDPやWHO、UNICEFなどの国連機関、そして多くのNGOが、開発パートナー(DPs)として活動しています。
これらのDPsとラオス政府との政策対話や支援方針の調整を行う枠組みが「Round Table Process(RTP)」です。RTPでは、ラオスの国家社会経済開発計画(NSEDP)の進捗や課題について協議するほか、保健、教育、インフラなど10の重点分野で、それぞれのセクター別作業部会(Sector Working Group:SWG)が設置されています。日本は保健、インフラ、薬物分野のSWGで共同議長を務めており、JICAも保健とインフラ分野では、その活動を支援しています。なお、年に一度、毎年11月頃、財務大臣を議長、UN代表を共同議長として、ラオス全体の開発の方向性を議論する「Round Table Implementation Meeting(RTIM )」が開催されています。昨年(2025年)はSonexay Siphandone 首相による開会の挨拶を踏まえ、Saleumxay Kommasith 副首相を議長、David McLachlan-Karr 国連代表(UNDCO)を共同議長として 5 年に 1 度の第 14 回ハイレベル・ラウンドテーブル・ミーティングが開催され、Thongloun Sisoulith 国家主席への報告会も実施されました。
このように、ラオスではRTPを中心に多くのDPsが連携しながら開発課題の解決に取り組んでいます。さらに、個別の事業を進めていくにあたっても、他の援助機関との協力や情報共有、役割分担を進めており、より大きな開発インパクトの創出を目指しています。
ハイレベル・ラウンドテーブルの様子
美弥子所長も発言
教育分野では、ラオス教育スポーツ省とともに、UNICEF、EU、オーストラリア大使館、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、そしてJICAなどのDPsや「教育のためのグローバルパートナーシップ (Global Partnership for Education: GPE)」などの国際基金が協調して協力を行っています。
とても活発に教育セクター作業部会(Sector Working Group: SWG)が開催され、SWGのもとに設置されている、教育セクターのガバナンス強化を主題とするフォーカルグループ5(FG5)では、JICAが共同議長として参画し、教育スポーツ省の政策調整能力の向上及び援助機関の連携強化に努めています。
連携の具体例として、UNICEFラオス事務所とJICAラオス事務所は、更なる「共創」を進め、今後の外部資金や財政支援の獲得に向け、教育分野における現地レベルの覚書を、2026年8月25日に締結しました。これは、UNICEF本部とJICA本部との間での、保健、栄養、教育、水と衛生、気候変動/防災・減災、パンデミックを含む人道危機への備えと対応などの分野での覚書(2019年8月28日に締結、2025年8月20日に再締結)に基づく、現地レベルでの具体的な連携を進めていくものです。
今後、この覚書をもとに、ラオスでは、JICA技術協力プロジェクトで開発した算数教科書の一層の普及、JICA海外協力隊の連携派遣、GPE等の外部資金の活用などを促進していく予定です。
関連リンク:
UNICEF and JICA Strengthen Cooperation on Education in Laos(現地メディア報道)
UNICEFとJICA、ラオスの教育開発推進に向けた覚書を締結(JICAラオス事務所FB)
UNICEF Laos on X (UNICEFラオス事務所 X)
8月25日に覚書に締結しました
UNICEFとサラワン県の幼稚園を一緒に訪問しました
保健分野では、ラオス保健省を中心に、JICAをはじめとして、世界保健機関(WHO)、UNICEF、UNFPAなどの国連機関や、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、ルクセンブルグや韓国など、多くのDPsが協調して協力を行っています。その調整を行う中核となるのが保健セクター作業部会(Sector Working Group: SWG)です。2004年から日本大使とWHOラオス事務所長が共同議長を務めています。SWGは、政策レベルから技術レベルまで複数の会合で構成され、保健分野を取り巻く様々な課題やその解決の方向性について協議し、政府への提言を行う重要な枠組みです。JICAは、保健政策アドバイザーの派遣を通じて、ラオス保健省の政策立案・実施を支援するとともに、保健人材育成、保健医療サービスの質向上、保健財政強化などの技術協力を他のDPsと連携して推進しています。援助協調により各機関の強みを生かしながら、2030年までのユニバーサルカバレッジ及びSDGs達成に向けた強靭な保健システムの構築に尽力しています。
2025年9月30日に開催された、保健セクター作業部会(政策レベル)
森林分野においても、JICAは、GCF(Green Climate Fund:緑の気候基金)をはじめとする国際的な資金メカニズムやDPsとの援助協調を積極的に推進しています。近年では、2015年~2018年にかけてJICAが協力してきたREDD+事業(現場の森林保全活動)により排出削減したCO2約1,468万トンの成果として、GCFから約6,150万ドルの資金動員を実現しました。
2026年8月24日、ラオス政府とJICAとの間でSubsidiary Agreement(SA・付属協定)を締結し、GCFの資金を活用した成果支払事業であるGovernance, Forest Landscapes and Livelihoods – Southern Laos Project(ラオス南部における持続可能な森林ランドスケープ管理プロジェクト)が始動。保全林・保護林・地域住民を1つのランドスケープ(景観)単位として一体的に管理し、森林景観管理と地域住民の生計向上を一体的に支援していきます。さらに、ドイツ、世界銀行(WB)、国連食糧農業機関(FAO)、UNDP等の関係機関とも政策対話や情報共有を重ね、森林保全、気候変動対策、持続可能な農村開発の相乗効果を高めています。このように援助協調を通じて、外部の資金を獲得したり、限られた資源を効果的に活用しながら、ラオスの森林セクターの持続的発展に寄与しています。
2026年8月24日のSA署名式の様子
技術協力での森林バイオマス調査の様子
― 援助協調から「共創」へ ―
今回のテーマは、「援助協調」です。ラオスでのスタディツアーで多くの学生の皆さんから質問を受けるテーマですので、主に学生の皆さん向けに発信したいと思います。援助協調、その本質はシンプルです。一つの国、一つの機関だけでは解決できない課題に、それぞれの強みを持ち寄り、重複を避け、ともにゴールを達成するために向き合う。そして、その成果を一人でも多くの人に届けることです。
現場の声を、政策を動かす力に
ラオスでは毎年、政府とDPsが一堂に会し、国家社会経済開発計画(NSEDP)について議論するRTIM(Round Table Implementation Meeting)が開催されます。この場でJICAが大切にしているのが「現場力」です。専門家やコンサルタント、JICA海外協力隊が、実際に学校、病院、浄水場や、農村などでラオスの人々とともに働く日々の中で見えてきた課題や変化。その具体的な「現場の声」を、私たちは政策対話の場へ届けています。一昨年、厳しい経済・債務状況の中で社会セクターへの予算が抑制されている中、JICAは、“Back to Basics.”, “Investing in human capital is investing in the future.” 「人への投資は、未来への投資」と訴えました。
昨年は、日本の「米百俵」を紹介しました。目の前の米を消費するのではなく、将来を担う人を育てる学校づくりに使う。厳しい時だからこそ、社会や国の土台を支える人々への投資を止めてはならない、というメッセージです。重要なのは、これがJICAだけの声ではなかったことです。多くのDPsが同じ問題意識を共有し、制約を受けている社会セクターへの予算や人員配置の重要性をともに発信しました。その結果、それまで多くのボランティア教員や看護師が無給で働いていましたが、正規職員となることができました。
一つの声では難しいことも、多くの声が重なれば、変化を生み出す力になる。 これこそ、援助協調の一つの意義だと思います。
JICAの成果を、もっと大きな力へ
もう一つの援助協調の形が、JICAが積み重ねてきた成果を、他のパートナーの力と掛け合わせることです。例えば、GCFから約6,150万ドル(約97億円)の資金を動員した事業。その価値は、単に大きな資金を獲得したことだけではありません。JICAが長年の技術協力を通じて培ってきた専門性、現場経験、そしてラオス政府との信頼を土台に、外部の資金を呼び込み、より大きな開発効果へとつなげたことに意味があります。
UNICEFとの連携も同様です。RTIMでのJICAの発言をきっかけに当地UNICEF代表と対話が始まり、長年の技術協力や協力隊の活動への信頼、そして「人」と「人」とのつながりが、今年8月の連携MOCへと結実しました。今後はGPEなどの外部資金活用も視野に入れ、より多くの子ども達へ開発成果を届けていきたいと考えています。
JICAの強みは、資金力だけではありません。長年の協力を通じて築いてきた「人」と「人」とのつながり、現場に根差した知見、そして信頼があります。技術協力や協力隊が蒔いてきた一つひとつの種を、そのプロジェクトだけで終わらせない。DPs、国際機関、大学、民間企業、NGOなど、多様なパートナーの知恵、技術、資金と掛け合わせ、より大きく育てていく。そして、その成果をラオスの一人でも多くの人に届けていく。
「JICAが担う協力」から「パートナーとの『共創』による協力」へ。開発インパクトを最大化し、より多くの人々に届けていきます。私は、このような「共創」を、これからもJICAラオスの協力の柱にしていきたい。