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ボランティアレポート「マラウイの子供の死に立ち会って」

2025.04.07

名 前:河本 万里子
隊 次:2023-3次隊
職 種:公衆衛生
配属先:サリマ県病院
出身地:福岡県

2023-3次隊 公衆衛生としてマラウイに来て2025/1月末で無事1年を迎えることができました!1年記念に何を書こうと考えた時、楽しかったこと、充実していたことはたくさんありましたが、活動の中で良くも悪くも一番印象が強かったことを書くことができればと思いました。ボランティア1年目の私はSalima district hospitalにおける公衆衛生の活動を知っていくため、関連部署を1ヶ月毎に巡回していました。その1つにNutrition部署(栄養改善)があり、ここにはNRU(Nutrition Rehabilitation Unit)という死亡リスクが高く、24時間体制の集中的な医療および栄養ケアを必要とする乳児や子供達のための入院施設が設置されています。サリマの場合、ベッドは5床、日中・夜間の2交代制でHome craft workerという、Growth monitoring(子供の身長、体重、上腕サイズMUACを測定し、栄養状態を把握する)や治療用ミルクの用意をするスタッフが常駐しています。
ここでどんな業務が行われているのか、学ぶのを楽しみにしていましたが、見えてきたのは発展途上国や世界最貧国であることの厳しい現実でした。

NRUには毎日、小さな子供達が入院してきます。特に雨季は主食メイズの収穫前のために食糧難に近い状態になり、食べることができない子供達が増えてしまうのだそうです。日本で病院の勤務経験がない私には、この状態が多いのか少ないのか、どの程度のものなのかわかりません。栄養失調の子供達を見たこともありませんでした。

Nutritionで学ぶまではImmunizationやMaternal healthといった今まさに病気に罹っている人々と対面することがなかったため、NRUで実際に栄養失調で入院してきた子供達を見た時は、「なんだ、病院でも村に行っても元気な子供達が多いじゃない」と思っていたところに衝撃がとても強かったです。栄養失調が原因で別の感染症を発症した、あるいは脳性麻痺や発育不良などから食事が取れなくなり結果として栄養失調になってしまった等、原因は様々でしたが、栄養失調の子供達は健康体の子供達よりも一回りも二回りも小さく、腕や足回りも木の枝のように細く、お尻から骨盤周りも皮膚が余り、骨が浮き出てとても痛々しい状態でした。ニュースや教科書で見るアフリカの飢餓の子供達そのものでした。

以下の4つの写真はサリマで実際に出会った栄養失調の子供達です。

治療ミルクを飲む赤ちゃん。頭は手のひら程の大きさ、体は骨に皮膚が張り付いたような状態

治療ミルクを経口で摂取することができないため鼻からチューブを通し摂取する

母乳を卒業後、収入がなく食べ物を食べさせるのが難しくなった結果、お腹が膨らみ、お尻から足にかけて骨が浮き出してしまった2歳児

栄養失調によるOedema(浮腫)が進行した結果、皮膚が剥がれ落ちた状態

お母さん達も介護に疲れているのか、心なしか元気(生気)がなく、母親の心のケアも同時に必要なのではと思う程でした。なぜもっと早く病院に連れてこなかったのかと何度も聞きたくなりましたし、実習中の学生が「ママ!しっかりして、ちゃんと説明を聞いて!!」と大声で注意したこともありました。
私がNRUスタッフとしてできることは治療ミルク提供のお手伝いやGrowth monitoringに限られていましたが、それらを実施しながら毎日子供達と顔を合わせていると、外国人の珍しさがお母さん達にも良い意味で受け入れてもらえ、心を開いて会話をしてくれるようになり、少しずつお母さん達の表情が明るくなり、NRUにいる間に生き生きしていくのを感じた時は嬉しくなりました。

しかしNRUは死亡リスクの高い乳児や子供を受け入れる場所、ケアをしていた2歳の子供の容態が急変し亡くなってしまった時は本当にショックでした。栄養失調で抵抗力が下がっており、感染症と脱水症状(おそらく低酸素状態も)により亡くなったとのことでしたが病院には有効な治療薬も、もしかしたら医師側の技術も不足しているのか、状態だけ確認して何もしていないように見えてしまい腹立たしくも感じました。日本なら救えたはずとやはり思ってしまいます。病院とはいえ、治療できる医療者がいない、薬が無いとなってしまうと、無いものは無いでそれ以上の救う手立ては打ち切られてしまい、それで終わりなのです。子供は言葉を発せず静かに亡くなり、お母さんは立会いできず、看病していたお婆ちゃんが泣いていました。亡くなった子供の周りにはハエや小さなゴキブリが集まり出します。そしてほんの1時間後、同じNRU内でその子が亡くなる場にいた別のお母さんと子供が同じベッドを使っていました。患者は次々来て、ベッドも足りないのです。この後、お婆ちゃんが亡骸を背負って村まで帰るとのことでした。マラウイで直面する初めての死です。

でもそんな状況でもそんな状況だからこそ栄養失調の子供達を生みださないために日々活動しているHSA(Health Surveillance Assistant)という病院スタッフもいます。一例ですが、管轄するエリアで栄養失調を未然に防止することを目的に、村在住のボランティア達と協力して、村の子供達の年齢・体重・MUAC(上腕の周囲)を一斉調査し、体重が軽く、MUACが予防的に13cm以下の子供達を対象に食事指導と毎日の食事の提供を行います。その12日後にどれだけ体重とMUACが増加して、適切な成長の手助けができているかを確認します。

子供達の一斉調査の記録(上ノート)と、そこから栄養失調のリスクがある子供達をピックアップした記録(下ノート) とても見やすく整理されたデータ!

該当する子供とお母さん達を集め、栄養食(ポリッジ等)の作り方を実演するクッキングデモンストレーション。実際に出来たポリッジを子供達に食べさせ、これを12日間続ける

この活動はこのHSA自ら行っており、自身の管轄エリアで栄養失調の子供を生み出さないという意思を感じました。私も公衆衛生隊員として、現状を受け止め、そして彼のようにコミュニティに目を向け、日々の活動がマラウイのお母さんや子供達の健康増進に繋がるように努めていきたいと気持ちを新たにしました。

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