ボランティアレポート「本当に“人の立場に立つ”ということ」
2025.05.26
名 前:時田 絢子
隊 次:2023年4次隊
職 種:小学校教育
配属先:バラカ教師研修センター
出身地:京都府
2023年度4次隊としてマラウイ・バラカ県で活動する時田絢子です。
派遣から1年がたち、振り返ると、私が現地の人に変化を与えたことよりも、私が人間として成長させてもらったことの方がずっと大きいと感じます。この記事では、頑なだった私が、少し柔らかくなったストーリーについて書きたいと思います。
赴任当初の私は、「問題解決に貢献したい」という気概に溢れていました。独りよがりになってはいけないと認識しつつも、「問題解決してこそ国際協力だ」とどこかで思っていたからです。
「問題解決」という考え方は、良くも悪くもあるように思います。問題には原因がある、という捉え方をすることで、物事を構造的に観察し、仕組み化できます。しかし、私の場合は、問題を特定しようとするあまり日本との違いばかりが気になり、それらに批判的な態度になってしまいました。
授業時間が守られない。先生が授業中にスマートフォンでゲームをしている。カリキュラムの進度を守ることばかりが強調され、指導手法の重要性は見過ごされている。試験で点数を取ることが教育の目的となっていて、児童の全人的な成長は重視されていない…。自分の中の「こうあるべき」とのギャップから批判的になり、イライラしていました。
赴任半年後、「より良い教育を先生達に見せる」というような気持ちから、学校で音楽発表会やモデル授業を実施しました。しかし、先生達からの関心・協力を得るのが難しく、一人で走り回って一人で終えたような孤独感が最後に残りました。「マラウイは変化する気がない。」「自分は必要とされていない。」「良いことをしようと思ったのに」…そんな苦しい気持ちになっていました。そんな時、自分の態度を見直すきっかけが訪れました。
ある週末、街の粉挽き所で2人の女性に出会いました。その場の会話から、彼女たちがかなり遠方から歩いてきているようだと分かりました。
直感的に、彼女らの暮らしを見てみたいと思い、お願いして家まで一緒に歩かせてもらうことにしました。粉のバケツを頭にのせて、街を抜け、メイズ畑を抜け、土の道を歩いていきます。道はどんどん細くなり、次第に草木が生い茂るような険しい道になりました。女性たちの靴は草履です。片方の女性が立ち止まって、私に聞きました。「川を渡るけど本当に一緒に来るの?」私はもちろん「行きます。」と答えました。川に近づくと地面に岩が多くなり、急斜面で転落するのではないかと恐くなるほどでしたが、女性たちは悠々と歩いていきます。川に出ると、そこで洗濯している人たちがいました。私は泥に足が飲み込まれ、歩くのがやっとでした。計40分ほどは歩いたでしょうか。やっと家につきました。家族が出てきてくれ、一人一人と握手し、会話し、食事を共にしました。
この日、彼女らの暮らしを垣間見、それまで見てこなかったものがあったことに気が付きました。
・危険な道のりを草履で歩いて粉ひきに来るということ
・家に電気がないということ
・屋根がビニールシートと藁でできているということ
・自給自足で食事を賄っているということ
・保育園が近くにないので子どもは家にいるということ
・自分の子どもだけでなく、近所の子や親せきの子も面倒を見ているということ
私は、学校外の先生達の暮らしを知っているだろうか。
家に電気がないとしたら…。
家が脆くて頻繁に修繕しないといけないとしたら…。
生活のために副業もしないといけないとしたら…。
そんな暮らしだったら、疲労し、自己成長や授業の開発に取り組めないのは当たり前です。私が行った音楽会やモデル授業は、マラウイのために良かれと思ってしたことでした。しかし、先生達の立場から見て、それは本当に優先されるべき必要なことだっただろうか。先生達には先生達の状況と思いがあるのに、私は、自分の立場から先生達の必要性をジャッジしていたのだと気づきました。「人の立場に立つ」という言葉は良く使われますが、本当にそうすることはどういうことなのだろうかと、この出来事をきっかけに考えました。
そして、学校で起こっている問題は誰のせいでもないのだと、腑に落ちました。「先生達はすでに頑張っているんだ。」見渡してみれば、中には自分なりの工夫を加えて授業をしている先生だっています。そんな先生達に、まず伝えるべきことは、問題の指摘ではなくて、暮らしと教職を両立していることへの敬意だと気づきました。
私はこれから、審査員でも教育者でもなく、伴走者でありたいと思います。同じ場所で頑張ることで威圧感を与えず、ありのままの困難を見せてもらえる。今はこれがボランティアであることの強みだと考えています。ですから、日常の対話の中で先生達と一緒に、「簡単にできる、そしてちょっと手助けになりそうなアイデア」を発見できたらいいなと思っています。
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