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ボランティアレポート「痛みを知るただ一人であれ」

2025.08.11

名前:榎本大祐
隊次:2024年度1次隊
職種:小学校教育
配属先:カゾンバ小学校
出身地:福岡県

こんにちは。マラウイで小学校教育隊員として活動している榎本です。前回は私のマラウイでの「相棒」を紹介しました。今回は私の日々の活動について紹介します。

【活動内容について】
私は、マラウイ北部にあるカゾンバ小学校で活動をしています。要請内容は、現地の教員と協力して算数の授業をすること、教材を作成すること、教員への研修の実施することです。
日々の活動では、STD5およびSTD6(日本の小学5・6年生に相当)を対象に、毎日算数の授業を行っています。

(日々の授業の様子)

【胸を打たれた出来事】
活動を始めてから約1年が経ちますが。その中で私が最も胸を打たれた場面を紹介します。
マラウイの多くの小学校では、子どもたちは教科書を持っていません。そのため、教師の話や黒板に書かれる内容が、学習のほぼ唯一の手がかりとなっています。
私が担当している算数の授業でも例外ではなく、黒板に書いた問題しか子どもたちは解くことができません。しかし、算数の力を身につけるためには、繰り返し練習することが大切です。そこで私は、子どもたちが自由に使える、自分なりの「計算ドリル」を作ることにしました。

 (任地で手に入るものを使って作成した計算ドリル)

とはいえ、「果たして本当に子どもたちが使ってくれるのだろうか」と、正直なところ不安もありました。というのも、何を隠そう私自身、子どもの頃は算数が苦手で、計算ドリルなど親の仇のように感じていたからです。しかし、この写真を見てください。

使い方を説明し、教室にドリルを置いてみたところ、子どもたちは我先にと問題を写し始めました。その光景を目の当たりにして、私は深く胸を打たれました。子どもたちの「学びたい」という強い気持ちがまっすぐに伝わってきたからです。
しかし、ここでひとつ強調しておきたいことがあります。教科書がない、もちろん計算ドリルなどもないからと言って、彼らが「不幸」であるとは決して言えないということです。子どもたちは毎日、本当に眩しいほどの笑顔と元気を見せてくれます。そして、とても楽しそうに毎日を過ごしています。その姿に私のほうが力をもらう毎日です。

(学期に一度、私服で登校するカジュアルデイ。お気に入りの服を着て、はいポーズ)

【心に響いたフレーズ】
私はこの体験を通じて、ある歌の一節が思い浮かびました。それは、米津玄師さんの楽曲『M八七』(映画『シン・ウルトラマン』主題歌)の中にあるフレーズ、「痛みを知るただ一人であれ」という言葉です。
私は日本で生まれ育ち、今はマラウイの小学校で教育に携わっています。「学びたい」という強い思いを持つ子どもたちと接する中で、物がないという現実と、それでも前向きに学ぼうとする姿勢とのギャップに、言いようのない感情を抱きました。もしかするとこれは、日本とマラウイという異なる社会を知る私だからこそ、感じることのできた“痛み”なのかもしれません。
ただ、この“痛み”は、決して「かわいそうだ」と哀れむような感情ではありません。たとえ物がなくても、子どもたちは日々を本当に笑顔で過ごしています。しかし、日本から来た私にとっては、計算ドリルがある生活が当たり前でした。そして、私がそのドリルを作ったことで、彼らの「学びたい」という気持ちがより鮮明に見えたということも、また紛れもない現実です。
この“痛み”とは、日本とマラウイという異なる社会のあいだにあるギャップから生まれたものであり、両方を知る私にしか感じることのできない、個人的な痛みなのだと思います。
そして、この“痛み”は、マラウイだけで終わらないのだろうとも感じています。任期を終えて日本に帰国したとき、今度はマラウイでの経験を通して、新たに日本社会の「痛み」を見出すことがあるかもしれません。

【おわりに】
私は今、異なる社会から来た者として、「痛みを知る存在」でありたいと思っています。決してウルトラマンのようにかっこいいヒーローにはなれないかもしれませんが、ボランティアとして、教師として、そして痛みを知る一人として、目の前の子どもたちのためにできることを精一杯取り組んでいきたいです。
そして、日々の素晴らしさを教えてくれて、笑顔や元気をくれ、私の存在を受け入れてくれている同僚の先生方や、なにより子どもたちに少しでも恩返しができればと願っています。

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