【マレーシアのJICA海外協力隊の素顔に迫る!外に出て見えた日本・異国で紡ぐ日本語と文化】
2025.09.19
マレーシアには、産業人材育成 ・環境保全・社会福祉を中心に、理数科教育や日本人の強みを生かせる分野としてスポーツなど、様々な活動を行うJICA海外協力隊を派遣しています。今回はそんな隊員の中から、日本語と日本文化の発信を通してマレーシアと日本をつなぐ、山岸さんの歩みをご紹介します。
ー簡単な自己紹介をお願いします!
2024年11月からマレーシア・クアラルンプールにあるマレーシア日本国際工科院(以下MJIIT)に派遣されています。MJIITはJICAが長年支援してきた工学系の高等教育機関で、現地では日本語の授業を担当するほか、日本文化を発信するイベントも企画・開催しています。
ーJICA海外協力隊員になったきっかけについて教えてください。
実は最初のきっかけは、大学で日本語教育を学んでいたときに先生から声をかけていだいたことでした。思い切って「挑戦してみよう」と考え、大学院に進学して半年がたつタイミングで休学し、マレーシアに来ることを決めました。正直、まさか自分が海外で活動することになるなんて思ってもみませんでした(笑)。でも高校時代に吹奏楽部の演奏旅行でマレーシアを訪れた経験もあり、その時にできた友人もいたので、「これはご縁かもしれない」と思えたんです。
ーMJIIT では具体的にどのような活動をしているのでしょうか。
主に3つの授業を担当しており、日本語能力試験(JLPT)対策、MJIITの教職員向けの授業、大学院生の選択科目など、幅広いレベルの学習者を教えています。授業は大変ですが、学生がJLPTに合格した時は自分のことのように嬉しくなりますね。
また日本の文化を紹介するためのイベント企画・準備・開催にも取り組んでいます。さらに、自分自身もマレー語を学んでいるのですが、「時制がない言語だから、学習者はこういうところでつまずきやすいのか」といった気づきがあり、教えるうえでとても役立っています。
学生とは授業外でも、食事に行ったり、カラオケや映画を一緒に楽しんだりもします。中には友人のように親しくしてくれる人もいて、そういったつながりが活動を支えてくれていると実感しています。
生徒に折り紙を教える山岸さんの様子
ー活動の中でのやりがいや、大変だと感じることはありますか?
日本語が身近にない環境で教えるのは初めてで、正直いつも手探りです。授業を英語で進める難しさもありますし、生徒が時間に遅れて来ることも珍しくありません。赴任当初は慣れない環境ならではの失敗もありました。たとえばイベントを企画した際、うっかりイスラム教のお祈りの時間に重ねてしまって、誰も学生が来なかったんです。慌てて「ごめんね」と謝ったのを覚えています。それ以来、活動の中で、マレーシアやイスラム教の文化をより気にするようになりました。
またマレーシアは、他の途上国と比べて環境が整っているからこそ、「自分らしく何を付け加えられるか」を常に考えています。折り紙も定番の鶴だけでは飽きられてしまうことがあるため、季節のモチーフや水引を取り入れるなど工夫しました。活動を通じて「日本文化ってなんだろう」と改めて考えるようになりました。
学生が日本語を学ぶ理由も様々で、日本や日本語そのものに興味を持つ人もいれば、就職のため、あるいはアニメや音楽といったポップカルチャーがきっかけの人もいます。それぞれの動機に触れるたびに、「日本はこういうふうに見られているのか」と新しい発見があり、まさに"外に出ることで内を知る"感覚を実感しています。
ー将来はどのようなことに取り組みたいですか?
やっぱり、日本語教育に携わりたいですね。私は、幼いころから先生になりたいという夢を持っていました。大学生時代には、国語科の教員免許を取得し、子供の教育支援をするNPO団体でもアルバイトしていました。将来は、JICA海外協力隊として培った貴重な経験と大学院で深める日本語教育の専門的な知識を活かし、日本語教育の発展に寄与していきたいです。
ー現地の方とのつながりで驚かされることはありますか?
一番驚かされるのは、マレーシア社会における日本の浸透度ですね。現地の人々と関わっていく中で、多くの人が日本語や日本文化を知っていることに気づかされました。その背景には、漫画やアニメをはじめとする日本のポップカルチャーの人気が大きく影響しています。日本文化がマレーシアの社会に受け入れられていることを実感するたびに、とても嬉しく思います。
もちろん困難もあります。特に授業での日本語の細かいニュアンスの説明はとても難しくて...(笑)。例えば、「~するそうだ」と「~するらしい」、「~かもしれない」などですね。日本人の私たちでも微妙な違いを説明するのに一歩立ち止まってしまうのに、日本語母語話者ではないマレーシア人に一気にすべてを教えてしまうのは負担になりますよね。だからそんな時は完璧さよりも学習者のレベルや反応に合わせて、少しずつ理解を広げてもらう工夫を心がけています。
ー協力隊に応募しようか悩んでいる人へのメッセージ
JICAの海外協力隊制度は、働きながら国際社会に貢献できる、留学とは異なるかけがえのない経験を得られる制度です。近年は日本人にとっては地元を離れること自体が大きなハードルとなっていますが、協力隊には充実したサポートがあるため、日本とは180度異なる世界に安心して飛び込むことができます!国際協力がまた新たな表情を見せてくれ、日本と相手の国の関係を新たな視点から捉えられるようになるはずです。今置かれている環境で築かれてきた価値観は大きく揺さぶられ、世界をより広く、多角的に捉えるきっかけになるでしょう。迷っている方には、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。
聞き手(インタービュー後の感想):
その言葉には、実体験に裏打ちされた確かな説得力と、山岸さんらしい温かい情熱が込められていました。これから協力隊員を志す方にとって、このメッセージは大きな後押しとなるに違いありません。
語り手:山岸友真さん
聞き手:JICAマレーシア事務所インターン 岩村篤、吉村紫織
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