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【マレーシア海外協力隊の素顔に迫る! かつて自分がかけて欲しかった言葉を、複雑な背景を持つ子どもたちへー多民族社会で育む"寄り添う心"】

2025.09.22

 マレーシアでは、産業人材育成 ・環境保全・社会福祉を中心に、様々な活動を行うJICA海外協力隊を派遣しています。今回は、複雑な背景を持つ児童を対象に、芸術やスポーツ、文化交流などの活動を展開し、安心して過ごせる居場所の提供をしている児童センターなどの複数の施設で活躍する齋藤 さんにお話を伺いました。児童センターで子どもたちと笑顔を分かち合いながら、心の寄り所づくりに取り組む海外協力隊員の齋藤 さんの挑戦をお届けします。

ー簡単な自己紹介と協力隊になったきっかけについて教えてください。

 2024年8月からマレーシアに派遣され、マレーシア・クアラルンプールにある児童センターや少年少女更生施設(実際には日本でいうところの児童養護施設に似た性質も持ち合わせている場所) 、少年院などにいる子どもたちと日々向き合っています。実は今回のマレーシア派遣が自分にとって初の海外経験なんです(笑)
 渡航前は、静岡県の定時制高校で国語教員として働いていました。私は子どものころ、裕福ではない家庭で育ち、お金の面で苦労した経験がありました。そのため、定時制に来る経済的に恵まれない子どもたちの気持ちが分かる部分があり、生徒に自然と寄り添うことができたんです。しかし、自分自身に海外経験がなかったため、海外にルーツを持つ生徒の「マイノリティの気持ち」を理解することの難しさを感じていました。
 そのような時にJICA海外協力隊の存在を知り、日本語教育や青少年への教育活動に挑戦したいと思うようになりました。実際にマレーシアで活動をはじめ、自分が「マイノリティの立場」になることで、生徒たちが抱いていた心細さや孤独感を、初めて実感をもって理解できるようになりました。

ー 協力隊として具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

 私は主に3つの場所で活動しています。ひとつ目は7歳から18歳までの子どもが通う児童センターです。センターはクアラルンプールで治安のよくないエリアの子供に安全な居場所を提供するために作られ、家庭環境や出自などが多様な子供が放課後集まることのできる場所となっています。私はそこで日本語を教えるほか、けん玉やだるま落としといった日本の遊びを一緒に楽しんでいます。ふたつ目は、中高生くらいの子どもたちが暮らす更生施設です。ここには孤独を抱えている子や、軽犯罪を犯してしまった子たちがいます。そして最後は少年院です。ここでは体育祭や文化祭などの大きなイベントなどがある際に、彼らを巻き込んでイベントを行っています。

ー 生徒や子どもたちと関わる上で心掛けていることはありますか?

 無理に背景を深掘りしないことを大切にしています。
どの場所の子どもたちも、それぞれに複雑な事情を抱いています。だからこそ私は、「今この瞬間を子どもたちと一緒に楽しむこと」を心がけています。 そうすることで子供たちに笑顔が生まれるんです。

*子供たちと同じ目線でたこ焼きの作り方を教える齋藤さんと熱心に聞く子供たち

ー印象に残っているエピソードを教えてください。

  特に心に残っているのは、3つの施設が一緒になって開催した合同の体育祭や文化祭です。初めての試みだったので準備は本当に大変でしたが、すべて成功に終わったときは本当にうれしかったです。
 体育祭の後のアンケートには、「こういう活動を継続してほしい。施設間同士の結びつき、絆を強めてくれると思うから」と書かれていて。また子どもたちから「次はいつするの?」と矢継ぎ早に聞かれたときは、胸が熱くなりました。自分の取り組みが子どもたちの心に届き、力になれているのだと実感した瞬間でした。

ー今後はどうしていきたいでしょうか?

 「かつて自分がかけてほしかった言葉を、今度は誰かに届けたい。」これが私のこれからの目標です。
 日本にいるマイノリティの子どもたちや、学校という限られた枠組みの中で苦しんでいる子どもたちに、もっと寄り添える存在になりたいと思っています。私自身、商業高校に通っていた頃は、「大学進学や教師になる道は難しい」と言われる環境にいました。だからこそ、当時「先生に寄り添ってほしかった」「こういう言葉をかけてもらえたら嬉しかった」という思いが強くあります。今はその気持ちを原動力に子どもたちに笑顔を届け、一人ひとりの可能性を心から信じてあげたいと思っています。
 また、マレーシアでの経験を通して、「異文化理解」と「共生社会」の大切さを深く実感しました。多民族社会の中では、言語や文化の違いを“壁”にするのではなく、尊重し合う姿勢が自然に根づいています。一方で日本では異文化に触れるきっかけが少ないですよね。だからこそ、まずは「知ること」から始めることが大切だと思います。完全に一つになることは難しくても、異文化を知り体験することで、「違って当然」と認め合うことはできるはず。そのメッセージを、まずは自分の身の回りから少しずつ広げていきたいです。

ー協力隊に応募するか悩んでいる人へのメッセージをお願いします!

 「迷っているなら、やったほうがいいと思います!」外に出てみないとわからないことが、世界には本当にたくさんあります。旅行でも得られる経験はありますが、協力隊の活動のように“地域に根ざして人と関わる”からこそ見えてくる景色や学びがあります。そうした経験は、きっと自分自身の大きな財産になるはずです。

聞き手(インタビュー後の感想)

 実体験に裏打ちされた言葉の一つ一つからは教育者としての真摯な姿勢と齋藤さんの温かい情熱が伝わってきました。そのメッセージはこれから協力隊を目指す人々の背中を押すだけでなく、「違いを認め合う社会」を考えるきっかけにもなるに違いありません。


語り手: 齋藤 周作さん
聞き手: JICAマレーシア事務所インターン 岩村篤、吉村紫織

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