【マレーシア海外協力隊の素顔に迫る!工夫と応用力で届ける電気技術】
2025.10.02
マレーシアには、産業人材育成・環境保全・社会福祉を中心に、様々な活動を行うJICA海外協力隊を派遣しています。今回はマレーシア・ペナン州で産業人材育成や企業との連携に取り組む海外協力隊員の小倉さんにお話を伺いました。電気・電子機器の知識を活かしながら、工夫と応用力で活動を広げる小倉さんの挑戦に迫ります。
ーまずは自己紹介と、協力隊に応募されたきっかけについて教えてください。
2024年5月から、マレーシア・ペナン州にある日本マレーシア技術学院(JMTi)に派遣されています。ここでは電気・電子機器分野の知識を活かして、産業人材育成や日系企業との関係拡大に向けたアドバイザー的な活動を行っています。
協力隊に応募したのは私が59歳の時でした。60歳を迎えるにあたって「何かおもしろいことができないか」と漠然と考えていたとき、電車の中吊り広告で「協力隊募集中」の文字を見かけました。協力隊といえば"アフリカ"、というイメージが強かったのですが、調べてみるとマレーシアで自分の専門分野を活かせる職種があることを知り応募することにしました。
日本では半導体業界で技術職やマーケティング職を経験してきましたが、その経験が今、学生や教員に技術を伝える際の基盤になっていると感じています。
ーJMTi
ではどのような活動をされているのですか?
ひとつは、産業人材の育成です。マレーシアでは「IR4.0(第4次産業革命)」という国家戦略が掲げられており、AIやIoTなどの先端技術を取り入れることで、産業の競争力を高め、製造業や経済全体の発展を目指しています。このIR4.0の実現に向けて、JMTiの教員たちと「どのように人材を育てていくべきか」を一緒に考えながら取り組んでいます。
もうひとつは、企業との連携構築です。JMTiは日本の技術協力を受けて1998年に設立された高等教育機関ですが、現地の日系企業や地元企業の間ではまだ十分に知られていないのが現状です。そこで企業に積極的にコンタクトを取りJMTiの認知度を高めることで、学生のインターンシップや就職の機会を広げる活動を行っています。
*現地の日系企業を訪問
ー活動の難しさを感じるのはどんな時ですか?
特に難しいと感じるのは、活動の自由度が高いということです。派遣の基となる要請書はありますが、実際の活動内容は配属先と相談しながら定義し具体化していく必要があります。学校という組織は、私がいなくても日々の運営が回っていきます。だからこそ「自分がここにいる意味」を常に考え、彼ら自身では気づきにくい価値を提供することが求められるのです。
協力隊は「指示待ち人間」では務まりません。もちろん、誰もが「お役に立ちたい」という思いを持って参加していますが、それを実現できるかどうかは、自分自身の能力やスキル次第です。自ら動いて「相手に足りないものは何か」「自分には何ができるのか」「逆に自分に足りていないのは何か」などを考えながら工夫して行動することが大切です。
また学校は未来を先取りする場というよりは、むしろ基礎を学ぶ場所です。これは企業活動の本質である「潜在価値の探索と具現化(まだ見ぬ世界への挑戦)」とは異なります。このベクトルの違いから企業的な手法で新しいアイデアを持ち込んでも、教員たちに響かないことがありました。
そこで私は、自らアイデアを試作し、**実物で示す**ことを積極的に試みています。IoTに関しても、YouTubeで学びながらESP32やRaspberry Piといった小型IoTデバイスを使って実際に動く機器を制作し、デモンストレーションを行っています。これにより具体的なイメージを共有し、さらに「YouTubeで学ぶ」といった実践的な学習方法も紹介しています。
ーやりがいを感じる瞬間は?
基本的には、毎日が楽しいですよ。私は技術が好きで、人と関わることも好きなのだと思います。ここでは会社生活ではありえないような出来事も起こりますし、予想外の展開にも遭遇します。そんな「非日常な日常」に毎日ワクワクしながら過ごしています。
*IoTを一緒に習得している様子
ー最後に、協力隊に挑戦しようか迷っている人へメッセージをお願いします!
まずはとことん悩んでいいと思います。そのときに大切なのは、2つのこと。
ひとつは、人と会話すること。悩みを言葉にすることで自分の考えが整理されて、本質が見えてくることがあります。もうひとつは、決断して一歩を踏み出すこと。協力隊に応募するかどうかに関わらず、次に踏み出す一歩を大切にしてほしいと思います。
聞き手:小倉さんのお話を伺い、協力隊の活動は技術支援にとどまらず、「自ら考え、形にする挑戦」そのものなのだと実感しました。技術への情熱と人との関わりを楽しむ気持ち、その両方を大切にする姿が印象的でした。
語り手:小倉秀樹さん
聞き手:JICAマレーシア事務所インターン 岩村篤、吉村紫織
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