【マレーシア海外協力隊の素顔に迫る!ボルネオ島から、森林と未来をつなぐ架け橋に】
2025.10.03
マレーシアには、産業人材育成・環境保全・社会福祉を中心に、様々な活動を行うJICA海外協力隊を派遣しています。今回はマレーシアのボルネオ島北部に位置し、豊かな自然と多様な文化を有するサバ州で環境保全に取り組む海外協力隊の早川さんにお話を伺いました。環境教育に携わってきた知識と経験を活かしながら、楽しく元気に活動を広げる早川さんの挑戦に迫ります。
ー まずは自己紹介と、協力隊員に応募したきっかけを教えてください!
私は2024年12月からマレーシアのサバ州に派遣され、林業・森林保全の分野で活動しています。派遣先はサバ州林業開発公社(SAFODA*)です。
*SAFODA
とは
Sabah Forestry Development Authorityの略称で、サバ州における森林保全や森林開発を担う公的機関。森林資源の管理、再植林活動、環境教育など多岐にわたる業務を行っている。
協力隊に応募したきっかけは色々あります。幼い頃タイに住んでいた経験から、自然や動物のことがずっと好きでした。そして大学時代でも環境保全を勉強したり、過去のJICA海外協力隊の話を見たり聞いたりして、協力隊に応募したいなと思っていました。私が通っていた大学は、これまでに多くのJICA海外協力隊を輩出していて、協力隊経験者がよく大学に来て講演してくださいました。そうした発信に触れるうちに「私もやってみたい!」という憧れを抱くようになりました。
実は、協力隊への応募は今回が2度目です。最初は大学院在学中に応募したのですが、その時は教えることができるものも少なく、残念ながら不合格でした。そのため協力隊を一時諦め、札幌市の円山動物園で、環境教育の普及活動に携わっていました。そこでは、例えば、「なぜホッキョクグマの数が減っているのか」といった地球環境問題を子どもたちにわかりやすく伝える取り組みをしていました。
そんな中、自分の将来を改めて考えるようになり、次のステップに進むべきか悩んでいました。実はちょうどそのタイミングで、母校が偶然SAFODAと連携協定を結ぶことになり、「これはチャンスかもしれない!」と思って再度協力隊に応募したら、運よく合格できました!
ー 現地ではどのような活動をしているのですか?
主に3つの活動に取り組んでいます。
まず一つ目は、環境教育です。SAFODAからの要請で、地域の子どもたちに環境の大切さを伝える活動をしています。たとえば「ごみはリサイクルできる」ということを遊びや実践を通して教えるほか、昆虫を採取して標本を作り、学習に役立てる取り組みを行っています。さらに、公園に来てくださる方々へ「どんな動物が見られるのか」「その動物にはどんな特性があるのか」を紹介する看板を設置したり、前任の隊員が作成した動物図鑑に新たに確認された動物を追加したりするなど、来園者が自然について学びながら楽しめる環境づくりを進めています。
二つ目は、GIS(地理情報システム)の活用です。具体的には、森の中にどんな樹木があるのか、どの場所にどんな動物が生息しているのかをデータとして記録しています。現在活動しているSAFODA エコフォレストパークは、現時点(2025年10月)ではまだ一般公開されていませんが、将来的に開園する構想があります。その際には、来園者が「どのルートを歩けば目的地に着けるのか」「どこでどんな樹木や動物を見られるのか」といった情報を地図を通じて直感的に理解できるようにし、自然をより楽しめるようにサポートすることを目指しています。さらに、森林管理の分野では、森林吸収量を把握するためのインベントリ調査にGISを応用しています。木の胸高直径や樹高といったデータを現場で簡単に収集し、二酸化炭素の吸収量を推定できるアプリケーションを開発し、森林保全を効率的に進める取り組みを行っています。
三つめは、観光への展開です。SAFODA エコフォレストパークが将来一般公開された際に、多くの人が訪れたくなるような場所にすることを目指しています。単なるハイキングの場ではなく、「学びながら歩く」体験を提供できるよう、GISを活用した地図や環境教育の展示を組み合わせています。さらに、植林活動やエコツアーといった体験型アクティビティを取り入れ、散策ルートや解説パネルの整備なども進めながら、「エコフォレストパークに行ってみたい」と思える観光拠点づくりを進めています。
これら3つの柱を通して、自然の価値を引き出し、学び・保全・観光をつなぐ公園づくりに取り組んでいます。
*環境教育の一環で、子どもたちと野菜スタンプを楽しむ早川さん
*ペットボトルのキャップからキーチェーンを作るアクティビティの成果品
ー これまでの経験を活かす上で、心掛けていることはありますか?
「教える立場になりすぎない」ということを意識しています。文化や価値観が違う中で、「教える」という姿勢だと、どうしてもトップダウンになり、相手も受け入れにくくなります。
なので私は「提案」という形で伝えるようにしています。相手が納得してくれて、自然に広まっていく流れができると、結果的により良い活動につながると感じます。
加えて、わたしは誰とでも気軽に話せるタイプで、あまり深く考えずに思ったことを口にしてしまうことも多いんです。でも、そうした何気ない発言が、意外と活動につながることがあります。たとえば、上司とご飯を食べながら「こういうことができたら面白いですね」と話していたことがきっかけで、世界環境デーに合わせて「SAFODA-JICA Friendshipイベント」を開催することになりました。
イベントではJOCVのネットワークを活用して、ほかの任地からも隊員が駆けつけてくれました。日本の空手を教えるブースや、カブトガニやマングローブについて学べるブース、アップサイクルや葉っぱアートを楽しめるブースなど、文化紹介から環境教育まで幅広く体験できる内容になり、地元の人や子どもたちが「楽しかった」と言ってくれたのが本当に嬉しかったです。
*SAFODA-JICA Friendshipイベントでの記念写真
ー 今後の目標を教えてください。
以前はこのSAFODA エコフォレストパークで、JICAや日本企業(Fujitsuさんなど)が協力して植林活動を行っていましたが、現在はその活動が終了しています。今後は私自身が中心となり、日本とマレーシアをつなぐ架け橋となって、この森を紹介するツアーなどを実現したいと考えています。
Q
ー最後に、協力隊に応募しようか迷っている方へメッセージをお願いします!
もし迷っているなら、まず挑戦してみてほしいです。悩んでいる時間がもったいないくらい、現地では想像もしなかった出来事やハプニングがたくさん起こります。その経験は必ず自分を成長させてくれるはずです。悩むよりも一歩踏み出してみましょう!
聞き手:早川さんの元気で気さくな性格が印象的で、職場の人たちとも自然に素敵な関係を築きながら活動の幅を柔軟に広げている様子が伝わってきました。動植物への愛から、その知識や経験を活かしてパワフルに活動する姿は、周囲へのやさしさとなって人々、そして環境にも広がっているように感じられました。
語り手:早川史織さん
聞き手:JICAマレーシア事務所インターン 岩村篤 吉村紫織
scroll