【マレーシアJICA海外協力隊の素顔に迫る!】学習障害者の「自分らしく」を守る協力隊!
2026.10.21
JICAは、産業人材育成・環境保全・社会福祉などを含め、様々な活動を行うJICA海外協力隊をマレーシアを含む各国に派遣しています。今回はマレーシアのスランゴール州の「United Voice」という学習障害者当事者団体でマーケティングと商品開発をしている下萩隊員に、JICAマレーシア事務所インターン生がお話を伺いました。
Q. 下萩さんの自己紹介と、United Voiceがどのような組織か、その中でのご自身の活動について教えてください。
A. 2026年5月からJICA海外協力隊として活動している下萩と申します。協力隊での活動予定は2年間です。United Voiceは、マレーシア初の学習障害者の当事者団体として、セルフアドボカシー(社会にある不平等やバリアを指摘し、対等な権利を求めていくこと)を大事にしながら活動している団体で、企業への障害平等研修を行ったり、ソーシャルエンタープライズ(社会的企業)として雇用プロジェクトを行ったりしています。雇用プロジェクトでは、カフェ運営、クッキーなどのお菓子の販売、さをり織り*の商品を作製し、販売をしています。
*(自分らしさを自由に表現する日本初の手織り技術)
普段の活動では、雇用プロジェクトで作製している商品のパッケージデザインなどを通した販売促進や商品開発、SNS運用とTLT*クラス(ライフスキルクラス)を担当しています。
*The Living Toolkitの略称。
(お菓子のラッピングの仕方を教えている下萩隊員)
Q. 世界にはたくさん国がある中で、なぜ“マレーシア”だったのですか?
A. マレーシアだからというわけではなく、United Voiceでの活動に関心があり、要請内容で選びました。要請内容が前職での経験と似ているところがあり、障害者の方と関わりながら、彼らが作った商品の販売促進に取り組めるというところに惹かれました。
(TLTクラスにて本の整理の仕方を教えている下萩隊員)
Q. United Voiceでの一日のスケジュールを教えてください。
A. 日に活動内容は異なりますが、8時半に出社し、カフェ運営に使うコーヒーマシンの点検を確認します。コーヒーの粉が適切な量かを確認し、実際にエスプレッソを淹れて味に問題がないかも確かめます。
また、現在はトレーニング中であるものの、水曜日と金曜日はTLTクラスが開講されており、10時から1時間半の授業を担当しています。金曜には2コマ行うこともあります。TLTクラスは新しく始まったクラスであり、事前準備として「どう教えるか」といった進め方のマニュアル作りもカウンターパートと相談しながら行っています。その後は、残った時間でUnited Voiceとして販売する商品開発やパッケージデザイン作成、SNS運用などにも取り組んでいます。
(TLTクラスにて足跡ジャンプゲーム)
Q.具体的にはクラスでは何をしていますか。
A. この間はセロハンテープの使い方を教えました。「刃先は危ないですよ。台を押さえて、親指と人差し指でテープを掴んで引っ張って、切る時にちょっとツイストさせましょう。貼る時にぐしゃぐしゃにならないように両手で持ってこうやって貼りましょう」のような感じで教えたりしています。
Q. 「これがいいんだよな~」と思えるマレーシアの文化や習慣を教えてください。
A. マレーシアの方の人柄が大好きです。先日、マレーシアの独立記念日(Merdeka)のパレードを見に行った際には、隣にいた方が気さくに話しかけてくださり、一緒にパレードを楽しみながら内容を説明してくださいました。初対面でも自然に交流できる親しみやすさがあり、困った時にはすぐに手を差し伸べてくれる優しさに、いつも助けられています。
また、職場では率直に意見を交わしながらより良い活動を目指そうとする風土が根付いています。異なる考えを伝えることも失礼にはならず、お互いへの信頼があるからこそ建設的な議論ができることに好感を持っています。
Q. 活動の中で、「この仕事をやっていてよかった」と強く感じた瞬間はありますか?
A. メンバー一人ひとりの才能が形になっていく瞬間です。United Voiceにはアーティストとして活躍するメンバーもおり、私が提案したアイデアが商品やデザインとして実現されることがあります。また、「動物の絵を描くことが好き」といったメンバーそれぞれの個性や得意分野が広く知られ、多くの人に関心を持ってもらえることを嬉しく感じています。
(マレーシアで使われるオンライン決済「Touch’n Go」とメンバーのコラボ作品)
Q. マレーシアでは、知的障害や学習障害のある方々は社会からどんなイメージを持たれていると思いますか?日本と比べて違いは感じますか?
A. United Voiceは当事者団体であり、個々人の特性を理解した上で、彼らのいいところを伸ばすことへの熱意をとても感じます。ただ、障害者に対しての認識の部分は日本も同じかもしれませんが、周りの話を聞いていて、まだ理解が追いついてない部分はあるように感じています。
Q. 実際に活動していて、「ここは変えていく必要があるな」と感じる場面はありますか?
A.国からのサポートがもう少しあればと、感じることもあります。当事者や家族の方が自分から行動しないと支援が受けられていないのが現状で、日本でいう利用料みたいなものもないので、団体を運営していく上で困難があるようです。
Q. そうした“社会の壁”に対して、United Voiceとしてはどんなアプローチをしているんですか?
A 外部に対しては、企業向けに障害平等研修の実施をはじめ、さまざまな団体を訪問し、ワークショップなどを開催、バザーへの出店など通じて、活動への理解を広げる機会づくりに取り組んでいます。
United Voiceが何より大切にしていることは、まずメンバー一人ひとりに目を向けることだと感じています。そのため、メンバー向けにセルフアドボカシーのワークショップを行ったり、月に一回イベントを行ったりしています。私自身はまだUnited Voiceとして、社会に対してどのようなことが行えるのかまでは模索しているところとなりますが、私が何かを行うというより、私が関わっていくことで相乗効果が生まれれば嬉しいと考えています。今はメンバーやUnited Voice自体に焦点を当てながら、取り組んでいきたいと思っています。
Q. マレーシアに行くと決めたとき、ご家族や周りの友達からはどんな反応がありましたか?
A. 私自身がずっと海外に行きたいということを周りの人たちは知っていたので、「ああやっとだね」という感じでした。
Q. よかったです(笑)念願の海外で暮らしてみて、実際にマレーシアの人から「日本って意外とこう見られているんだ!」と驚いたことはありますか?
A. 基本的には好印象なイメージを持たれているという印象です。アニメ、日本食、寿司とかなど、良いイメージを持たれていると感じており、日本人だとわかると喜んでくれることが多いです。「ありがとう」とか、「こんにちは」とか、日本語を話しかけてくれる方が多く、うれしいと感じています。
(雇用プロジェクトの様子。インターン生の私たちにも日本語で声をかけてくださいました!)
Q. オフの日は、マレーシアで何をしてリフレッシュしていますか?
A. オフの日の外出することが多いです。カウンターパートの方に生鮮市場に連れて行ってもらったり、パーティーがあったら呼んでもらったりしたこともありました。観光地に訪れることもあり、今はもっとマレーシアを知りたいという気持ちが大きいです。
Q. 今までの活動を通して、「これは日本に持って帰りたい!」と思った考え方や価値観はありますか?
A. 先ほども少しお話しましたが、人柄とかフレンドリーさと考えています。見知らぬ人でもすぐ声をかけてくれ、困っていたらすぐ助けていただけます。みなさん、オープンなところがあり、かつしっかり意見を持っていて改善していく雰囲気がいいと感じています。
Q. これから挑戦したいこと、次に目指したい姿はありますか?
A. 活動自体がまだ始まったばかりですが、自分の意見ばかりにならないようにと常に考えています。商品開発などでアイディアを出しつつ、同僚がどのように考えているのかを大事にしていきたいです。一緒に働く仲間が求めているところとのマッチングだと考えており、その点はずっと大切にしていきたいと考えています。
(United Voiceの製品を持つ下萩さん)
Q. 最後に、国際協力に興味はあるけど一歩踏み出せずにいる日本の若者に、一言お願いします!
A. 来て、挑戦。一歩踏み出したら楽しいことがたくさんありつつ、大変なことも多分にあります。ただ、2年経験するとおそらく全然違う自分になると感じています。まだ赴任して時間は経っていないので、半分願望のところもありますが、パワーアップした自分になれると思います。職種も色々選択できますので、ぜひチャンスを掴んでください。自分の好きなこととできることを組み合わせて考えるとよいと思います。
感想: 取材後に私たちも皆さんが作った製品を購入しました。(さおり織りのコースターと南国風の可愛いキーホルダー)
そしてメンバーのみなさんが活動の中で大切にされているセルフアドボカシーを体感し、現場の雰囲気もとても温かく、みなさんの魅力や才能が伝わってくる時間でした。下萩さんのお話を通して、United Voiceの取り組みをより身近に感じることができました。
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語り手: 下萩隊員
聞き手: JICAマレーシア事務所インターン
佐藤美友 山田のぞみ