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海外協力隊隊員インタビュー 井戸方子さん

2024.06.02

オアハカ市の郊外にあるオアハカ州経済開発局(SEDECO)に、経営管理職種のボランティアとして派遣されている井戸方子さん。着任から3ヶ月が過ぎた今、同局が2年前に立ち上げた中小企業支援プロジェクト「エメトリカ・セントラル」推進の即戦力として、より一層の活躍が期待されている。

先住民文化が豊かなオアハカ州は、ビーチリゾートやサポテカ文明の巨大遺跡も擁しており、国内外の観光客から絶大な人気を誇る。中小企業や外資系企業の誘致数は格段に少なく、個人事業主が圧倒的に多い。同プロジェクトでは、企業の事業レベル評価(5段階)を行った上で、各レベルに応じた効果的な支援を目指している。570もの自治体があるため、州全域で浸透させるには膨大な時間や作業を要するが、2024年3月現在、250の自治体をカバーしている。商品としては、地酒のメスカル、チョコレート、「タペテ」と呼ばれる織物など、民芸品や食品が多い。最近の成功事例として、パイナップル農家の生産・販路拡大がある。

井戸さんを今回の応募へと駆り立てたのは、持ち前の「好奇心」。高校生の時に米国シカゴの大学が提供する約1ヶ月間の自然科学系のプログラムに参加したことで、日本とは異なる環境や文化への興味が高まり、大学時代には、カンボジアでのボランティア活動やアフリカのルワンダで5ヶ月間のインターンシップ(日本人オーナーのタイ料理屋の経営・マーケティング業務サポート)を経験。旅行でヨーロッパも訪れた。多様な文化や価値観のもとで生きる人々と接する体験を重ねるうち、海外にもっと長く腰を落ち着けて、その国のことをより深く知りたいとの思いを抱くようになった。

早稲田大学の創造理工学部・経営システム工学科卒。データの統計分析や最適化、情報処理やシステム構築といった工学系の科目に加えて、マネジメントやマーケティングなど経営に関することも両軸で学んだ。卒業後はNTTデータに入社、日本が抱える課題などに対して新規事業を考える仕事(コンビニや食品スーパーなど小売分野でITを使った新規事業の計画や実証実験など)に携わる中で、海外で新規事業の発展に取り組んでみたいという新たな意欲が芽生えた。

新規事業開発系の職種ではモンゴルやウズベキスタンからも募集があったが、メキシコを第一志望に選んだ。日本企業が数多く進出し、日本との繋がりも深いことが決め手となった。日本の勤務先は、今回の井戸さんのチャレンジを2年間の休職という形で快く送り出してくれたそうだ。

海外経験が豊富な井戸さんだが、オアハカでは職場での共通言語になるはずだった英語がほとんど通じないという想定外の現実が待っていた。また、着任から間もないある朝、オフィスの建物の入口がデモにより塞がれていて中に入れず、急遽テレワークになるというハプニングも。
「先週も月曜日から水曜日までデモだったのでテレワークでした。数カ所でデモがあるので、道路が封鎖されてオフィスに辿り着けないんです(笑)」と今では動じることなく日常の一コマとして受け入れている。

良い面での驚きは職場に子供を連れてきてもよいこと。職場には女性が多く、学校がない夏休みなど子連れ出勤が増える。
「母親が会議中の時は、手の空いた同僚が相手をしてあげたりして、母親が働きやすい環境がいいなと思います」
「スペイン語はまだ初心者中の初心者です」という井戸さんだが、翻訳機能を使ってスペイン語で言いたいことを事前に全部パワーポイントに盛り込んで準備したり、イラストやオフィスのホワイトボードを活用したりと、日々工夫しながら職場でのコミュニケーションを図っている。
「全員オアハカの人でオアハカ愛も強いので、この地域をもっと良くしたいとみんなよく話していて、熱い人たちですね(笑)」

ひとりで進められる作業も多く、プログラミング言語など互いに見れば分かるので、着任以来、アンケートの回答から得た企業のデータを蓄積・閲覧できる仕組みづくりや各企業とのコンタクトをよりスムーズにするための顧客管理ツールのカスタマイズ導入など、主にデーターベースを効率的に利用するためのシステム開発系の仕事を任されている。成果が目に見えて分かるため、上司からも喜ばれているが、井戸さんは「言葉の壁」を超えた先に広がるやりがいと可能性−より直接的なビジネス支援への貢献−を見据えて、語学学校に通いながらスペイン語学習にも励んでいる。

「ちょっと村に行って人と話すだけでも、この人たちのためにやっているんだなと感じます。まだまだこれからですが、みんなとても親切で優しくしてくれるので、恩返しをしたいという気持ちを強く感じています。大きなテーマとしては、オアハカの事業者や中小企業を育てていくというのがあるので、それに対して自分がやりたいこと、できそうなことを提案して、向こうの人たちを巻き込みながらやっていく。やはりこちら側が動いていかないといけないと思っています」

井戸さんにとっての青年海外協力隊の魅力とは、「現地にどっぷり浸かって、そこに住む人々と共に彼らが抱える課題を本気で考え、行動できること」。視野が広がり、自分の可能性も広げられる実践での学び合いの場がそこにはある。
「オアハカでは文化や自然、人とのつながりが大切にされていて、あくまでもそれを保ちながらビジネスを発展させていくことが大切で、これからたくさんのことを学べると思っています。2年間の任期中に得られる知見は、日本の、特に地方創生の分野で活かせるものだと思っているので、(帰国後は)関連の仕事にチャレンジしていきたいです」

インタビュー後の井戸さん

経済開発局のミリアム・サアベドラ経済開発・発展担当副局長、イリス・マルドナド・クラスター開発ディレクター、日々タッグを組んでいるアントニオ・ラミレス社会経済担当主任と

オフィスのホワイトボードが日々大活躍

経済開発局の敷地内で開かれていた物産展

オアハカの街角でおしゃべりに興じる人々

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