何かが起こるからこそ人生は面白い:谷口隊員の物語



2024.11.27
メキシコ・ケレタロ州にある国立高等専門学校ケレタロ校(以下CONALEP)でメキシコの自動車産業向けの供給を支援している谷口隊員は、海外協力隊への挑戦を決めたきっかけなど、興味深い話をしてくださいました。エンジニアとしての経験や考えが、彼の人生の決断にどのような影響を与えたのか、そしてメキシコの将来や発展に対する期待についても語っていただきました。
― 谷口隊員が海外協力隊になろうと思ったきっかけについて教えてください。これまでの経験をどのように活かすことが目的でしたか。
谷口隊員
谷口隊員:会社員時代から協力隊に興味がありましたが、制度や活動内容についての知識は無く、単に興味があるという段階で留まっていましたが、ずっと頭の隅にはありました。博士号を取得した後に就職した会社では累計9年間アメリカ駐在を経験し、国境をこえるということはそれほど高くないハードルであると感じました。
自分の開発した製品の世界市場の開拓や日本での工場建設、また米国で失敗したプロジェクトの再開などを会社員時代に経験し、49歳で会社を退職、コンサルタント業務を行っていました。コンサルタント時代にはヘッドハントされ企業の立て直しや売却などに関わるなど、様々な経験を積んできました。そこで得たのは、経験そのものではなく、多様な問題の解決に必要な方法論です。また臨機応変で柔軟な思考と果断な実行力の重要性も感じました。このような考えを全く経験のない教育分野で生かそうと現在努めています。
その後、60歳を過ぎたころに一線を退き、次のステップを考えていた時に、それまでの知見を生かせる場として海外協力隊を候補として選びました。その後、2015年からザンビアに派遣され、2年間のボランティア活動を行いました。
―ザンビアではどのような活動をされましたか。
谷口隊員:ザンビアは世界最貧国の一つで、自国の産業が育っていない状況です。そうしたところで、知的財産権のお手伝いや起業家の支援などをしていました。2年目からは失敗したプロジェクトの立て直しなど責任ある活動を任され、任期中の10か月間でプロジェクトを完成させて面白かったです。
―失敗したプロジェクトを立ち上げるのは相当な労力がかかりますよね。
谷口隊員:そうですね。でも私は会社員時代からあえて大変な状況になっているプロジェクトを立て直すという方が性に向いていると思っています。アメリカ駐在時代も半導体事業の立て直しを行い、成功させたときの達成感を味わいました。新しいことに挑戦することや、問題を解決する喜びを求める姿勢もあります。何事も怖がらず、「ああなったら面白い」という前向きな姿勢を持ち続けることが重要だと考えています。
ー現在のCONALEPでの活動内容を教えてください。
谷口隊員:CONALEPはケレタロ州に5つのキャンパスがあり、日本でいえば高等専門学校のような位置付けです。自動車関連技術や機械加工、化学工業、メカトロニクスなどの産業に関する知識の習得だけではなく、調理や配膳、原価計算といった食品関係の分野の指導も行っております。現在私は日系企業との連携を強化するというミッションがあります。
一つの課題として、生徒たちの両親が貧困層が多いため、卒業できるのが半分程度であることです。教育がいかに重要なものであるかと、子どもだけでなく親にも認識してもらうことが必要だと実感しています。
配属先のCONALEPケレタロ校
― 自動車産業の発展が目覚ましいメキシコ・バヒオ地区ですが、谷口隊員から見て今後どのように発展していってほしいと思っていますか。
谷口隊員: メキシコの自動車産業は非常に活気があり、その発展が続くことを期待しています。しかし、単なる経済成長だけでなく、地域社会や環境にも配慮した発展が重要です。持続可能な成長を促進し、地域住民の生活水準向上にも貢献することが望まれます。
また、今後メキシコが中南米でリーダーシップをとり、他の中南米の国々を支援することができたら面白いのではないかと思っています。メキシコが中南米の国々を見ることは、日本がタイ、ベトナム、インドネシアを捉えるのと似ています。中南米は日本から見ると資源が豊富ですが、いずれは枯渇します。第一次産業だけでは国民全員が豊かになれません。
― ケレタロ州での生活について、気に入っている点と不便に思う点を教えてください。
谷口隊員:ケレタロ州での生活は、地元の人々の温かさや親切さに触れることができ、非常に心地よく感じています。また、ケレタロ州の美しい景色や風景も魅力の一つです。食べ物の好き嫌いがないため、地元のメキシコ料理を存分に楽しむことができ、特に不満を感じることはありません。お肉が安くて美味しく、週に1度ステーキを自宅で焼いて食べることが楽しみであり、健康の秘訣かとも思っています。ただし、スペイン語の不自由さや文化の違いによるコミュニケーションの壁は、時に不便を感じることがあります。
― 最後に、JICA海外協力隊を目指す方へのメッセージをお願いします。
谷口隊員:新しい挑戦を求める心を持ち続けてください。経験や年齢に関係なく、誰もが新しい世界を発見し、貢献することができます。そして、問題に直面した時には、怖がらずに前向きな姿勢を忘れずに。何かが起こった方が後々人生を振り返った時に面白いと思えるように。
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