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野菜栽培と食育で地域に根を張る――UNCADER-2で活動する協力隊員・稲村伊織さん

2025.12.04

カウンターパートとの一枚

ベラクルス州コアテペックの農村開発研修センター(UNCADER-2)で2024年5月から活動する稲村伊織さん。職種は野菜栽培。職業訓練高校に配属され、農業技術の指導と食生活改善を軸に、現地の人々とともに活動を続けています。

稲村さんが国際協力の道を選んだ背景には、大学時代に学んだ国際学と、農業がどの国でも営まれているという言葉に触れた経験があります。卒業後は地元の野菜栽培を主とする農業法人で1年半働き、トマトやネギを中心に多品目栽培を学びました。現場を知らなければ本当の課題は見えないと考え、実践を経て協力隊に応募。ラテンアメリカへの関心と異なる価値観の中で暮らすことへの好奇心からメキシコを選びました。

現在は農業設備が乏しい現場で工夫を重ねながら、野菜栽培の技術を生徒たちに伝えるだけでなく、食育を通じて健康意識を高める取り組みに挑戦しています。

活動の背景と現場での取り組み

着任前は、日本の小売店でよく見かけるメキシコ産の野菜のイメージから、輸出に強く、農業生産の現場も全域的に高度化しているだろうと考えていました。しかし任地のコアテペックは大企業の農場がなく、耕運機すらない手作業中心の農場が広がっています。農業の発展度は州や地域で大きな差がある――その現実に直面しつつ、稲村さんは現地の品種・栽培環境を学び、日本の考え方や作業手順を同僚や生徒へ分かりやすく伝えてきました。配属先は農業高校。野菜栽培の授業を軸に、食育へ活動を広げたのは、日本の学校給食の動画を見せたことがきっかけでした。自分にとって当たり前の栄養バランスへの意識は、学校で学ばなければ当たり前にならない。その気づきから、調理実習や教材づくり、講話を通じて、日々の食の選択を具体的に改善する小さなステップを積み重ねています。

UNCADER-2の校舎

資金が乏しいからこそ生まれた工夫

課題は資金と設備です。調理実習をやりたくても食材費が捻出できず、一時は頭を悩ませました。そこで学校で育てた野菜を販売し、その収益を食育活動費に充てる仕組みに切り替えました。野菜栽培と食育を連動させることで、学びが実践へと移り、実践が次の学びを支える循環が生まれました。栽培量も考慮し、口コミ中心の少量販売という地域のやり方に合わせて販路の拡大は計画していません。設備がなくても、計画・段取り・現場の合意形成次第で前に進めると気づきました。
さらに、調理実習で使う食材も工夫しました。高価な食材や日本では一般的なものにこだわらず、地域で手に入りやすく家庭でも再現できる食材を選ぶことで、実習後に生徒が自宅で実践できるようにしました。例えば学校で収穫した野菜を中心に、安価で栄養価の高い食材を組み合わせ、バランスの取れた献立を考案。こうした工夫により、食育は単なる授業ではなく生活に根ざした学びへと発展しています。

異文化を学び、言葉で近づく

生活面では、ゴミの扱い方や整理整頓への意識など、日本との違いに驚く場面がありました。一方で、飲食店で食べきれなかった分を持ち帰る文化や、食材を無駄にしない知恵から学ぶことも多いといいます。価値観の違いは良し悪しでなく環境の違い。接してみて初めて分かることがあるという気づきが視野を広げました。

言語面では、心理的距離を縮めるために口語的表現を積極的に使ったり、相手が言ったことをオウム返しして実践的な使い方を学ぶなど、辞書に頼るよりコミュニケーションを優先しました。間違いを恐れずに口に出すことで、半年ほどで会話の壁を徐々になくし、地域の人との距離がぐっと縮まりました。活動は人と人の間で進むため、伝わる言葉を体に覚えさせる工夫が現場を動かす鍵になっています。

食育の教材を紹介していただきました

任期終了までに目指す定着とその先

関係性が深まり取り組みの実現可能性も見えてきた今、稲村さんの焦点は定着です。自らが先導するだけでなく、カウンターパートや生徒が主体的に動ける形を目指しています。やり方を分かりやすく共有し実践者を増やすことで、任期後も続く仕組みに育てていきます。

帰国後は、ここで得た学びを日本で関わる人たちに伝えたいと話します。コアテペックで出会った人々や暮らしの中での小さな発見、現場で直面した困難とそれを乗り越えた工夫を、日本の家族や友人に届けたい。そうすることで、メキシコへの理解や交流のきっかけをつくるといった橋渡し役になりたいと考えています。

価値観は押し付けるのではなく、互いに歩み寄る。稲村さんが現場で学んだこの姿勢は、異文化だけでなく国や立場が違ってもどんな人間関係にも通じる普遍的なものです。活動の成果は数字で測れないことも多いですが、生徒が自らポテトチップスを食べる量を減らしたり、コーラを少し控えたりといった日常の小さな行動の変化の積み重ねが、健康意識を確実に前進させています。目に見えない変化を信じ、現場で一歩ずつ積み重ねること。それが稲村さんの国際協力のかたちです。

カウンターパートに収穫する野菜の説明をしている場面

インタビュー後記(インターン 増岡志歩)

実際にUNCADER-2を訪問し、先生方や高校生、同じくインターンとして UNCADER-2に滞在している大学生とお話しする機会をいただきました。皆さんとても温かく迎えてくださり、稲村さんが築いてきた信頼関係の深さを強く感じました。懸命にコミュニケーションを重ね関わり続ける姿勢が、この雰囲気を生み出しているのだと思います。畑には日本では見たことのない野菜が並び、わくわくする光景でした。今を大切に活動を続け、人と人とのつながりを何よりも重視する稲村さんの姿に胸を打たれました。

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