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JICAカイゼン・5S研修を通して広がった実践と日系としての原点

2026.03.03

JICA研修の際の写真

 メキシコの中央高原地帯に位置するアグアスカリエンテス州に住むIrene Tachika Ohara 氏は、アグアスカリエンテス市内の日系企業に勤める日系人1(3世)である。2024年にJICAの日系研修「改善と5S」に参加し、トヨタ生産システム、5S活動の進め方、問題解決の進め方などを学んだ。現在は勤務先Neturen México S.A. de C.V.だけでなく、様々な企業や団体に対して日本で学んだ「カイゼンと5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」を普及する活動を続けている。
 また、日系企業が多く進出している同州では日本語学習の需要が高く、日本語教師としても20年近く活動を続けており、特に日本独自の労働文化を紹介する講義は人気が高い。本インタビューでは、日系人としてご自身のルーツや日本との繋がり、JICAとの関係などを深堀りする。

(¹1887年に初の日本人移住者がメキシコ南部のチアパス州アカコヤグア市に到着したと言われており、以降今日までメキシコ国内の様々な週において、日系人コミュニティが拡大してきた。アグアスカリエンテス州は国内でも有数の規模が大きな日系人コミュニティが存在する街である。)

日系3世としての歩みと日本とのつながり

 Irene氏はメキシコ生まれの日系3世。祖父母は約100年前に日本からメキシコへ移住した。Irene氏の祖父母は世界大戦中に、在墨日本人がメキシコシティへ集住させられるという歴史も経験している。
 母方の祖父は、本来メキシコへ渡る予定ではなかったが、先に渡航した兄を探すために送り出され、そのまま同国に残ることになったという。父方の祖父母は日本で結婚後にメキシコへ移住した。家族の歴史を語るその姿からは、日系人としてのルーツへの深い思いが伝わってくる。
 1996年から2006年までの10年間は、茨城県の複写機製造工場やDVD部品工場で勤務し、日本語と日本式のものづくりを学んだ。帰国後も日本との縁は続き、2013年には国際交流基金の研修で再来日。2024年には日系人を対象としたJICAのカイゼン・5S研修に参加した。

「日系人として、自分のルーツや移民の歴史を知ることはとても大切なこと。日本に行くたびに、そのつながりを実感します。」

製造業30年の経験と「カイゼン」

 現在は日系企業で事務アシスタントとして勤務する傍ら、19年にわたり日本語講師としても活動。さらに、カイゼン・5Sの研修講師やプロジェクト監督として、メキシコ内の日系企業で働くメキシコ人労働者へ講義を行う活動を通じて活躍している。
 製造業での経験は30年以上。現場では「カイゼン」という言葉を日常的に耳にしてきた。日本の現場で体系的且つ網羅的に学び直すこと、それが応募の大きな動機だった。

「毎日のように“カイゼン”という言葉は聞いていました。でも、実は深く理解しているわけではなかったのです。だからこそ、JICAという信頼ができる機関を通じて正式に学びたいと思いました。」

体感した「カイゼン」の本質

 JICAの研修の中で特に印象に残っているのは、レゴブロックを使ってカイゼンの効果を体験する演習であった。まずは、バラバラになったレゴブロックの中から、時間を測りながら思い思いの方法でショベルカーを組み立てる。次に、5Sを適用して作業時間を計測。もう一度、方法を改善して再び測定する。理論だけでなく、実際に手を動かしながら改善のプロセスを体感する。
 さらに、日本企業の経営哲学や経営者の人生観を学ぶ講義も強く印象に残っている。ブラジルやペルーから参加した日系人の体験談も心に残った。

「理論を学ぶだけでなく、実際にやってみることで理解が深まりました。とても実践的でした。また、他国の日系人から移住の歴史や体験談を聞き、各国の日系社会についてより理解が深まりました。」

学びを“現場”へ、そして“人”へ

 研修を終え帰国し、Irene氏は、製造現場での工具整理や作業スペースの最適化、書類やデータのデジタル化、オフィス環境の整備等、学んだ内容を積極的に実践している。
 Irene氏が講師として行っている「カイゼン」に関する研修では、理論を伝えるだけでなく、受講者自身が職場で改善プロジェクトを設計し、数週間かけて実行・報告する仕組みを取り入れている。

「“カイゼン”という言葉は知っていても、本当に意味することは何なのか、実践してみて初めて理解ができた、と受講者の皆さんは言ってくれます。
カイゼンは業務だけにとどまりません。自宅のクローゼット、キッチン、パソコンのファイル整理にも応用できます。カイゼンは働き方だけでなく、生き方も整えてくれます。」


 一方で、課題もある。受講者となる企業ごとに文化や体制が異なるため、導入方法をそれぞれの企業風土に調和するように工夫する必要がある。また、オンライン研修では対面のような体験型演習が難しいという制約もある。それでも、「カイゼン」の精神は確実に広がっている。

「迷っているなら、挑戦してほしい」

 最後に、JICAとこれから研修への応募を考える人へのメッセージを尋ねた。

「JICAの研修は、内容だけでなく運営やサポートも本当に素晴らしいです。問題が起きてもすぐに対応してくれます。安心して学べる環境でした。迷っているなら、ぜひ挑戦してほしい。これは仕事のスキルだけでなく、人生にとっても大きな経験になります。私は、今までの経験を今後の参加者支援やボランティアとして還元したいと思っています。」

 日系3世としてのルーツ、日本での労働経験、そしてJICA研修。それらはすべて一本の線でつながっている。改善とは、小さな一歩の積み重ね。そしてその積み重ねは、人と人、国と国を結ぶ力にもなる。 Irene氏の歩みは、カイゼンが単なる生産性向上の手法ではなく、文化と価値観を共有する架け橋であることを示している。

・編集後記
 JICAが行う研修は、日本の技術や知見を世界に広げるだけでなく、参加者の日本との繋がりができる点に大きな意義があると感じた。特に日系人の方への研修は、参加者同士の交流を通して、自身のルーツを見つめなおす素敵な機会でもあるのだと改めて理解できた。インタビューに協力してくださり、貴重な体験を共有してくださったIreneさん、本当にありがとうございました。

(JICAメキシコ事務所 インターン:三浦友里江)

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