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- Always Go Extra Miles 常に一歩先へ JISR修了生Baraa氏
Baraa Aldarkazanly氏(バラー・アルダカザンリー氏、以下バラー氏)は、シリア出身の大阪の商社に勤務するビジネスマンで、JISRプログラムの第1期修了生です。JISR研修員は、母国の状況からプログラム修了後も就職をして日本に滞在を続けるケースが多いですが、バラー氏もその一人です。彼は九州にある立命館アジア太平洋大学(以下APU)の修士課程でビジネス・マネジメントを学び、現在は越境eコマースサービスを提供する大阪に本社を置くZenGroup株式会社で活躍中です。ZenGroup株式会社(https://zen.group/)は2014年に設立され(当時ゼンマーケット合同会社)、日本商品のオンライン購入代行サービス「ゼンマーケット」を開始しました。現在世界各国をマーケットに19か国語に対応し事業を展開しています。今回は大阪の会社を訪問し、バラー氏に加え、ZenGroup株式会社のCEOとバラー氏の上司にもお話を伺いました。
左:バラー氏 中央:ZenGroup株式会社CEOのSurovyi氏 右:バラー氏の上司のBaumgärtner氏
ZenGroup株式会社のミッションは何ですか?社員にどういう能力を求めていますか?
代表取締役 Viacheslav Surovyi氏(以下CEO)
日本での学生時代に、母国ウクライナに帰るといつも日本のお土産を買ってきてほしいと頼まれていたことから、越境EC(eコマース)サービスを思いつきました。日本製品は世界中でとても人気があります。世界の多くの人々が購入したいと思っていますが、実際そのうち約5%の人々しか購入できていません。
海外の人が日本の商品を買おうとすると、壁がいくつかあります。まずは言語の問題。日本語のウェブサイトの内容を正しく理解して購入するのは、日本語が分からない人にはかなり難しいです。次に流通・通関の問題です。国境を越えて売買するには複雑な通関手続きや、アクセスが容易でない場所や前例のない場所への輸送リスクなど多くの課題があります。また支払いの問題もあります。クレジットカードを持っていない人々の支払い方法や、国によって異なる消費税の扱い等、支払い手続きが複雑です。こういった事柄を我々が代行し、サービスを多言語で提供することで、世界の人々が日本の商品をスムーズに購入できるようサポートしています。
同時に我々のこの事業は、販売する側にとってもメリットがあります。少子高齢化により日本市場が縮小しているため、特に中小企業の製造業者が海外マーケットを求めてeコマースを始めることが多く、そういった企業が海外展開の際に直面する障壁を取り除くようなサポートをすることで社会に貢献しています。将来的に日本の越境eコマースのシェアを5%から20%へ成長させたいと考えています。
わが社はアメリカや中国のような大きなマーケットだけでなく、小さな国々も含め、できるだけ多くの国の顧客をサポートしたいため、現在19の言語に対応しており、30か国から集まる多国籍のスタッフが日々働いています。わが社では、多国籍の環境でそれぞれ異なる慣習や文化を尊重しつつ働ける人材を求めています。また、顧客対応だけでなく新規マーケットの開拓やオリジナル商品の開発も行っているため、言語能力に加え、的確に効率よく仕事ができる能力が必要です。
「必要な事の一歩先を自主的に行うバラー氏の姿勢がとても印象的」と話すCEOのSurovyi氏(左)
バラー氏は会社にどのように貢献していますか?
購入代行事業部マーケティング課チームリーダー Anita Baumgärtner氏(以下チームリーダー)
バラー氏は一人でアラブ圏のマーケットをゼロから開拓しました。アラブ圏には多くの国々がありますが、それぞれの国で、人々はどんな商品を購入したいと思っているのかを調査し、またその商品を効率よく確実に届けるための最適な輸送路と支払い方法を調査・提案してくれました。アラブ圏は方言が多様で、支払い方法も多様です。彼はそれぞれに最適な顧客対応を行い、アラブ圏の人々が日本のマーケットから欲しいものを見つけてスムーズに購入できる、その道筋を作ってくれました。また、バラー氏は広報でも活躍しています。スマホはマーケティングの手段として特にアラブ圏では重要で、彼はスマホ画面に合うように設定したウェブサイトのコンテンツ作成も行いました。彼の主な仕事はアラビア語のオンライン広告の作成で、最適な広告媒体の調査から結果の分析まで一人でこなしています。大変な作業ですが、よくやっています。彼の頑張る姿は他のチームメンバーにも良い刺激と影響を与えていると思います。
CEO
入社面接と言えば、質疑応答があるだけと普通はそう考えます。しかしバラー氏は違いました。彼は入社面接の時、アラビア語圏のマーケティング調査レポートを発表したのです。必要とされる事のその一歩先を自主的に行う、その姿勢がとても印象的でした。そういうプラスアルファのことを行ったのは彼が初めてで、即戦力になると確信しました。
自由な社風が伺えるZenGroup株式会社のラウンジ
バラー氏の強みは何でしょうか。
チームリーダー
バラー氏は、あらゆるタスクを自主的・合理的に現実的なタイムラインで行うこと、調査を的確に行うことに優れています。また、業務に対し情熱を持って向かう姿勢や、学ぼうとする姿勢、そして新しいことを始める力も強みですね。例えば、記事を書く技術や、サーチエンジンの最適化などについて自らオンライン講座を受講し業務に活かしたり、カスタマーサービスに関する分析を率先して行ったり、社内プレゼンを行ったりするなど、向上心に溢れています。
これは少し前のことです。アラビア語でのマーケティングを会社として行うのは初めてだったので、ウェブ上の設定が右から左に文字を書くアラビア語に対応しておらず、コードを書き換える必要があったのですが、その複雑な作業を彼は一人で行いました。ウェブデザインを改良したり、Google Formを使った顧客満足度調査の回答数を増やすため、回答者にインセンティブを与える方法を始めたり、彼は常に何かしら新しいことを始め、一歩先へ物事を進めています。
仕事中のバラー氏
今の仕事について
バラー氏
まず初めに、神への感謝の言葉を述べさせてください。ここにいられること、物事がうまく進んでいること、家族と一緒に安全で自立した生活を営むことができていることに感謝します。
ZenGroup株式会社は、越境ECサイトのアラビア語圏のマーケティングを主に担当しています。とても興味深い仕事で、自分が努力することで、企業の成長に直接貢献している実感があります。JICAの奨学金プログラム(JISR)のお陰で、日本に来られて、APUの経営管理研究科で学ぶことができ、生活費まで提供してもらえました。このように、私の人生に価値ある転機をもたらしてくれた奨学金プログラムに携わるすべての方々にとても感謝しています。
就職活動は簡単ではありませんでしたが、来日当初からそれを認識しており、修士課程の間、学業に励むとともに、就職を見据えた活動にも取り組んでいました。その間、有名な日本の大企業でインターンシップを経験しましたが、この経験はその先の就職活動にプラスに影響したと思います。APUでは、特にキャリアオフィスが就職活動を助けてくれました。最終的に自分でLinkedInを使って、アラブ圏へのマーケティング拡大を担当するアラビア語のできる人材を探しているとの広告を見つけ、その会社に応募しました。それが、今私が働いているZenGroup株式会社です。日本においてアラビア語が活かせる貴重なチャンスだと確信したので、絶対内定を勝ち取りたいと思い、1週間かけてアラブ圏マーケットについて調査をし、入社面接でその調査結果を発表しました。名刺も自分で作って面接官に配りました。そして内定を獲得し、以来アラブ圏のマーケティングの責任者としての役割を担っています。もちろん家族親族のサポートがあったからこそですが、素晴らしいJICAの支援に加え、神の思し召しがあってこそ、今の自分があると思っています。もちろん成長しようと努力すること、常に一歩前へ進もうとする姿勢が成功のカギだと思います。
APUでの経験は、現在の仕事にどのように役立っていますか?
バラー氏
APUでMBAを学んだ期間は、学業はもちろんのこと、日本の文化や慣習について知る機会となりました。就職活動をする際に日本文化について知っておく必要があるので、APUでの学びは大きく役に立ったと思います。また、東京で複数回開催されたJICA主催の就労支援セミナーで、ビジネス・スキルを学べたのはよかったです。実際企業に応募する時に、面接の仕方や履歴書の書き方等の知識は、とても役に立ったと思います。ビジネス・マネジメントについては、APUに入学する前から既に基礎知識はありましたが、常に高度な内容を学ぼうと自ら努力しましたし、日本語もできる限り勉強しました。
仕事でどういう時に嬉しいと感じますか?
バラー氏
会社はフレックス制を導入しており、午後4時に退社できるのでワーク・ライフ・バランスを保てる点が素晴らしいと思います。家族と過ごす時間を持てるので、仕事も頑張れます。いわゆる長時間労働はない良い環境です。
ZenGroup株式会社に入社した頃、初めてデジタルマーケティングを担当しました。インフルエンサーとのコラボなどSNSと連動した広告宣伝方法などです。たくさん新しいことが学べて、とてもよい経験になりました。その頃、Googleを使った広告を私が打ち出したのですが、いつまでも閲覧数ゼロの状態が続いたことがありました。なぜそうなったのか不安になり、原因を探ると、私のミスで、広告をアクティベート(作動)していなかったということが分かりました。これは私の会社での最初の失敗でした。しかし、会社のスタッフや上司は私の失敗そのものについて咎めることはなく、失敗の経験から学べばいいと言ってくれたことが印象に残っています。お互い学んでいこうという雰囲気が会社にはあります。こういう点が仕事をしていて充足感を感じることです。
JISR生へ熱いメッセージを送ってくれたバラー氏
JISR生へのメッセージ
バラー氏
・まず日本語をしっかりと学びましょう。日本で生活していくならば、日本語を学ぶこと、日本で仕事を得るにはそれしかありません。特にビジネス専攻であれば、ビジネスの場面でコミュニケーションを図れるよう日本語は必須だと思います。
・JICAは奨学金等を提供してくれますが、その安泰な3年間にあぐらをかいてしまってはいけません。この3年間は、次の人生の大きなステップへの準備期間と考え、自らその次に向かって努力をすべきです。何もしないで誰かが助けてくれるのを待っていてはいけないのです。
・自分を信じましょう。生活や学業、就職活動その他にも様々困難なこともあると思いますが、自分の力を信じて進んでください。
JISRに応募しようとしているシリア人へのメッセージ
バラー氏
・JISRプログラムは日本に来ることができるという意味で特別な奨学金プログラムです。シリア危機で困難に直面するシリア人にとって、より良い安全な場所での生活が保障されるのは貴重なことです。ただし、その機会から全てを得られると期待してはいけません。JICAや日本からのサポートに頼りすぎず、自分自身の計画とそれを達成するための戦略をもって、この機会を有効に利用することが大切です。貴重な機会を自分の人生を切り拓くために活かせるよう、計画をもちつつ、ぜひ応募してください。
オフィスを紹介するバラー氏(右)、CEOのSurovyi氏(中央)、バラー氏の上司Baumgärtner氏(左)
編集後記
前向きでエネルギッシュ。明るく外交的で温かい。バラー氏からそのような印象を受けました。彼は人生のどの側面やどの局面にも「常に一歩先へ」行くことを心がけていると話していました。JISRという日本で勉強する機会を得て、そこで立ち止まるのではなく、常にその一歩先へ進む努力をされてきたことがよく分かりました。そしてその努力は今も続いています。バラー氏の今後のご活躍を祈念します。
この度のインタビューに快く応じて下さったZenGroup株式会社のCEO Surovji氏と、バラー氏の上司Baumgärtner氏に御礼を申し上げます。
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