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- JISR第7バッチ 広島から新たな船出
2024年7月26日、JISR研修員に日本語研修を提供する広島大学森戸国際高等教育学院にて日本語研修修了式が執り行われました。JISR第7バッチ研修員が修了証書を受け取り、8カ月間に及ぶ日本語研修を笑顔で締めくくりました。研修員は10月より日本各地の大学院で新たな研究生活をスタートさせます。
ゆくゆくは日本での就職を目指す研修員たち。日本で暮らす上で必要な「言語」という武器を手にするべく奮闘してきた8カ月間は、決して平坦な道のりではありませんでした。来日してからどのような歩みを続けてきたのでしょうか。
6名の「7バッチファミリー」
遡って2023年冬、ヨルダンから3名、レバノンから3名がそれぞれ東京に到着し、JICA本部でのオリエンテーションを終えて広島にやって来ました。JISR第7バッチの研修の幕開けです。来日後時間を共にしてきた6名は、すぐに打ち解けた様子でした。
授業での日本語の学び合いは勿論のこと、慣れない日本の生活の中では助け合いが不可欠です。役所や銀行の必要書類を揃えるのにも一苦労。身分証のコピーをとるために、コンビニエンスストアに足を運び、コピー機の使い方を一緒に学んでいました。また、イスラム教徒の研修員は食にも苦労がつきものです。日本で売られる食品の多くは、豚肉や酒などが使用されているからです。担当者が研修員に付き添い、皆でハラルフード(イスラム教で食べても良いとされる食べ物)の専門店に足を運んだこともありました。
日本での生活が始まって間もない頃、ある研修員は「僕たちは全員家族みたいなものです」と話してくれました。家族と初めて離れて暮らす研修員もおり、日本で同じ目標に向かって奮闘する同志の存在は何よりも心強かったことでしょう。
研修員は一緒に色々な経験をしてきました。
日本語学習の試練
JISR研修員の履修するコースは「日本語集中コース」と呼ばれ、毎日10時半から16時過ぎまで日本語を集中的に勉強します。学習難易度の高い日本語を8カ月で習得するのですから、休んでいる暇などなかなかありません。帰宅後も課題や自主学習に取り組み、朝から晩まで勉強します。
膨大な学習量と進度の速さにくじけそうになることもしばしばありました。授業の後に疑問が残ることもあります。そんな時は、先輩の出番です。広島大学に通う第6バッチ研修員が、一年前に勉強した内容を丁寧に教えてくれました。
週末も学習に時間を割くことがほとんどですが、時には気分転換に外出することにも意味があります。研修員数名で宮島を訪れた際には、実際に日本語を話す機会がたくさんあり、現地で出会った方に褒めてもらえたと言います。ある研修員は、その時のことを振り返り、「まだまだ授業では自分の進歩を感じるのは難しいが、少しずつ進んでいるのだと感じた」と話し、モチベーションが上がった様子でした。教室内のみに留まらず、外の世界で進歩を自覚することも、大きな学びの一歩です。7バッチ研修員の滞在するひろしま国際センター(HIP)では、様々なイベントが開催されます。そうした外部イベントにも参加しながら、日本への理解を深めてきました。
効果的な学びを求めて、自主学習の方法にもそれぞれが工夫を凝らしていました。図書館に籠って集中できるスペースを確保したり、難しい漢字はスマートフォンのアプリを活用して読みを覚えたりする研修員もいれば、「にほんごわいわい」と呼ばれる東広島市で提供されている無料の日本語教室でネイティブである日本人の力を借りて練習する研修員もいました。時に悩み立ち止まりながらも、各々の学習ペースで一歩一歩進んできた8カ月でした。
森戸国際高等教育学院での日本語授業の様子
HIPのイベントで福富ダムを訪れ、ダムの仕組みを学びました。
いざ、成果発表会
いよいよ修了式の日を迎え、JISR第7バッチは日本語の成果発表に臨みました。題目は、料理、エネルギー、紛争、富士山、日本の季節等多岐にわたりました。準備したスライドをスクリーンに映しながら、10分間の持ち時間で発表を行います。写真やアニメーションの視覚効果を駆使し、洗練されたスライドに仕上がっていました。
「桜」の発表では、桜に込められた日本人の感性が繊細に表現されていました。「シリア料理と日本の料理」と「富士山とヘルモン山」は、日本とシリアの2国間の対比が非常に興味深い発表でした。日本語研修と並行し、4月から研究生として大学院での研究にも励んできた研修員は、自身の専門分野である「バイオマス発電エネルギー」について分かりやすく説明しました。ある研修員は、来日するまでの人生を振り返り、「シリアの紛争を越えて 私の人生の旅」として軌跡をまとめ上げました。
それぞれの発表を終えると5分間の質疑応答に移ります。原稿は無く、学んだ語彙や文法を総動員して即興で答える必要があるため、研修員にとって緊張の瞬間です。学院長から、「日本の薬膳のような効果をもつシリア料理はありますか」という質問が投げかけられました。発表者は、「ヨルダンではタイムが有名です。ヨルダンの料理は焼いたり揚げたりします。でも、(タイムは)生で食べると良いです」と見事に回答していました。
やや緊張の面持ちながらも堂々と発表を終え、最後にご指導下さった先生方からメッセージが贈られました。教室での出来事を回想して笑いが起きるなど、終始和やかな雰囲気でした。公私ともに研修員をサポートくださった先生の思いが溢れる場面もありました。涙を堪え、少し声を詰まらせながら一人ひとりの研修員との思い出を語る先生の姿には、これまで二人三脚でご指導下さった日々と、ご指導にかける思いが垣間見えました。研修員も感謝の面持ちで先生を見つめていました。
先生方や仲間たちに見守られ、修了証書を授与します。
成果発表会のスライド
発表の様子。この日の為に練習を重ねてきました。
新天地へ
これから研修員たちは日本各地に分かれ、10月にはそれぞれの大学院に入学し修士号の取得を目指していきます。ここが本当のスタートラインです。
「言語は、新たな世界を作ります。」先生から研修員へ、修了式で贈られたはなむけの言葉です。何度も壁にぶつかりながら日本語学習に挑戦してきた彼らは、それぞれの新天地で人の輪を広げ、自分の輝ける世界を築いていくことができるはずです。これからも学び続け、世界を広げながら、それぞれのストーリーがまた紡がれます。
修了証書を手に記念撮影。次なる挑戦が始まります。
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