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世界難民の日に寄せて~JISR修了生がつなぐ日本とシリアの架け橋~ Japan Bridgeインタビュー

JICAで実施している、「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」は、「シリアの平和構築及び内戦終了後の復興、シリアと日本の架け橋となる人材育成」を目的に、シリア危機により就学機会を奪われたシリア人の若者に教育の機会を提供しています。2017年から受け入れを開始し、7年が経過しますが、JISR修了生は50名以上に上ります。修了生の多くは、プログラム修了後に日本で就職し、それぞれの道で日々頑張りながら、JISRの目的の1つであるシリアと日本の架け橋としての活動にも取り組んでいます。

その中でも今回はJISR修了生を中心としたJapan Bridgeの活動を紹介いたします。Japan Bridgeでは主にトルコ・シリア地震の被災者支援を行っています。Japan BridgeとJICAは2024年2月に、トルコ・シリア地震の写真展とトークイベントを共催しました。写真展では、Japan Bridge 所有の地震に関する写真やシリアの子どもたちが描いた絵を約2週間にわたり展示しました。2月10日のトークイベントは、約40名の方々に参加いただき、アットホームな雰囲気の中開催されました。トークイベントでは、JISR修了生のアナス・ヒジャゼィさんと現在JISR第5バッチ生のカレド・アッサフさんに登壇いただき、シリアや地震の被害、Japan Bridgeの活動をご紹介いただくとともに、参加者との間では活発な質疑応答も行われました。

このイベントで中心的な役割を担ったメンバーのうち、アナス・ヒジャゼィさんとサラメ・イスカンダルさんにお話を伺いました。

お話を伺ったJISR修了生

サラメ・イスカンダルさん

JISR2バッチ生として2018年に来日。
創価大学大学院工学研究科を卒業後、株式会社BonZuttnerにて最高技術責任者として活躍。

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アナス・ヒジャゼィさん

JISR3バッチ生として2019年に来日。
創価大学大学院工学研究科を卒業後、アクセンチュア株式会社に勤務。

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Japan Bridgeではどのような活動をされていますか?

アナスさん:

Japan Bridgeは、2023年2月6日に発生したトルコ・シリア地震をきっかけに、JISR修了生を中心とした、日本に住むシリア人で構成されています。目的は、2点あります。1点目は、被災したシリア人支援のため募金を集め、持続的な解決策を提供することです。具体的な活動としては、被災した家族が居住可能な住宅を建設することです。2点目は、イベント実施を通じて、シリアの人々の経験や声を日本の方々に届け、シリアで起きていることを知ってもらうことです。

現在は、約20,000ドル(約315万円)の寄付が集まり、4世帯が居住可能な住宅の建設を進めています。また、私たちにとっては住宅建設だけが成果ではなく、これまでシリアと縁がなかった方々とつながるイベントの開催も成果の1つです。これまでに山形市や調布市等で10回ほどイベントを開催してきました。

イスカンダルさん:

Japan Bridgeには、現在約40名のメンバーがいます。この中で、半年毎に運営委員会のメンバーを投票で決めることとし(自薦他薦を問わず)、決定した運営委員会のメンバーが中心となり、Japan Bridgeの活動を積極的に行っています。

そして、私たちはグループとして活動しているので、議論する際は必ずメンバー全員に意見を聞き、方針を決めるように心がけています。

Japan Bridgeを立ち上げたきっかけ(活動のきっかけ)は何ですか?

アナスさん:

トルコ・シリア地震をきっかけに、イスカンダルさんの発案で始まりました。地震が起きたとき、私たちは何もできないことに対するもどかしさを感じていました。

イスカンダルさん:

何かしなければならないという思いで皆に呼びかけ、何ができるのかを意見を出し合った結果、Japan Bridgeの結成が決まりました。

このJapan Bridgeという名称はJISRプログラム(JISR)に影響を受けたものです。JISRはシリアと日本の架け橋という意味が込められており、とても象徴的です。そしてJapan BridgeメンバーのほとんどはJISR修了生ですので、皆がシリアと日本の架け橋になることに使命感を抱いています。

日本での留学経験や就業経験はJapan Bridgeの活動に役立っていますか?

イスカンダルさん:

もちろんです。日本での生活や仕事、文化などが、私たちにどのように物事を進めていくかを教えてくれました。そして、それらはJapan Bridgeの立ち上げから日々の打合せ、そしてプレゼンテーションの作成にまで生かされています。

アナスさん:

シリアと日本には大きな違いがあります。それは日本人がとても計画的で整然としているという点です。私はシリアでは勤勉だと言われてきましたが、就職後間もなく、日本人の同僚の働き方と比べて、自分が一番怠けものだと感じました。ただ、この経験により、自分が日々成長できていると思っていますし、Japan Bridgeでの活動にも確実に良い影響を与えています。私だけではなく、JISR生はみな、日本での就学、研究、就労、友人関係等を通じて得た「日本式」の経験を活かして、自分にできる最大限の努力をしています。

Japan Bridgeは当初、「シリア式」のやり方で始まりました。「シリア式」というのは何かが起きた時に、人が集まり、募金をし、それで終わりといった一時的なものです。しかし、日本らしい計画性や組織的なやり方を取り入れることで継続的な活動となり、私たちらしい活動になっていると思います。

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インタビューの様子(左:イスカンダルさん、右:アナスさん)

Japan Bridgeの活動でのやりがいや、苦労したこと、印象に残っている出来事についてもお話しいただきました。

イスカンダルさん:

私にとって印象的な出来事は2つあります。1つ目は、2023年3月11日に恵比寿で開催したJapan Bridgeとして初めてのイベントです。私たちが伝えたかったことが観客の皆さんに理解され、リアクションをしてくれたことが嬉しかったですし、素晴らしいイベントでした。2つ目は2月に開催したJICAとの共催イベントです。イベントの準備は大変でしたが、当日はとても良い会が開催できたと感じており、やりがいを強く感じたイベントでした。特に、Japan Bridge のメンバーと共にステージに登壇したことは印象的です。

アナスさん:

私にとってやりがいを感じる瞬間は、新しい人たちに出会えた時です。JICAとのイベントでは、開始時から観客がたくさん来ていたことに、とても驚きましたし、嬉しかったです。また、イベントの際は観客が何を思っているのかがいつも気になりますが、今回は、初めてJapan Bridgeのイベントに参加してくださった方から、シリアの状況を詳しく知るための質問が出て、自分の伝えたかったことが伝わっているとわかり、非常に嬉しい瞬間でした。 私がイベントで一番伝えたかったことは、私たちシリア人のことを忘れないでほしいということです。2011年のシリア危機から10年以上が経ち、メディアで見かけることが少なくなくなった今でも、現地では教育も受けられず、苦しんでいる人々がおり、シリアの問題はまだ続いています。

活動するうえで苦労していることは、人間関係です。特にシリア人は集団行動に慣れていないため、人と一緒に仕事をすることは非常に大変なことです。シリアでは学校でさえ、グループワークなどはなく、すべてが個人作業です。なぜかというと、シリアでは徒党を組むことが政権批判と捉えられかねないからです。他方、各人は自分を強く持っており、個人で素晴らしい成果をあげることができます。

イスカンダルさん:

その個々人の強みをグループとして生かしていくことができれば、より強力に成果やインパクトを残すことができます。そのため、各人の強みからいかに良い影響を引き出し、一丸となってJapan Bridgeの目標に向けて取り組むかという点が重要になってきます。

アナスさん:

その他挑戦したいこととしては、これまでJISRプログラムやシリアと縁がなかった一般の方々との関係づくりです。今のところ、どのようにアプローチしていけばいいかわからずアイデア出しから始めるところですが、もし良いアイデアがあったら教えて欲しいです。

2月のイベントでは、集まった募金の半分を2024年1月1日に発生した石川県の能登半島沖地震の義援金として寄付されましたが、どのような思いがあったのでしょうか?

イスカンダルさん:

シリア人であっても日本人であっても、地震で苦しんでいるのは同じ人間です。日本の地震についても、シリアの人々への被災支援と同じように考えているとメンバー内で意見が一致し、寄付を決めました。

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トークイベントの様子(左:アッサフさん、右:アナスさん)

今後のJapan Bridgeとしての活動計画を教えてください。

アナスさん:

まずはJapan BridgeをNPO団体として登録することに、より力を注ぎたいと考えています。NPOとして団体登録が出来たら、自分たちの銀行口座を開設することが可能となります。現在は別団体の寄付口座をお借りしているので、自分たちの口座を持つことで、寄付金の流れを可視化し、より団体としての透明性を保ちたいと考えています。その後、また積極的にイベントを開催していきたいとも思っています。また、その他、シリアにいる人たちに就労につながるような教育や研修の機会を提供したいと考えています。例えば、IT研修を実施することで、彼らにオンラインで働くチャンスを与えたり、職業訓練を行うことで手に職をつける等、彼ら自身で収入を得られることを目指しています。

さらに、今後は日本人も巻き込んで活動を行っていきたいと考えています。活動に参加してくれる日本人を探すのは容易ではありませんが、現在、メンバーとして活動に参加可能な熱意のある日本人を探しています。参加してくれる日本人メンバーに協力してもらいたいこととしては、日本語のネイティブチェックはもちろんですが、それ以上に、日本人としての視点を与えてもらうことに期待をしています。

私たちは日本で活動しており、募金やアドボカシー活動の主な対象は日本人ですので、日本人の視点で活動内容を助言してもらうことは非常に有益であると考えています。その他にも、私たちは皆シリア人のため、少々怠けがちになってしまうのですが、日本人が加わることで、気が引き締まり、より活発な活動につながることを期待しています。

Japan Bridgeの活動に興味を持った方はどのように参加できますか?

イスカンダルさん:

Japan Bridgeのウェブサイトにメールアドレスを掲載していますので、まずはそちらにご連絡をお願いします。Japan Bridgeでは、二ュースレターやSNSで活動内容の発信やイベント情報の提供などを行っていますので、そこからイベントへの参加が可能です。

日本人がシリアのためにできることはありますか?

アナスさん:

日本人にできることはたくさんあり、大きな違いをもたらすことができます。まず、経済的支援は重要な点ではありますが、全員が金銭的に余裕があるわけではないと思います。最も重要なのは、シリアやシリアの問題について、できる限り多くのことを自ら学ぶことだと思います。本などから学ぶのではなく、シリア人やシリアに身近な方々と話してほしいです。

日本在住のシリア人は、金銭面や仕事、言語等、非常に多くの課題を抱えていますが、それ以上に彼らのほとんどは日本人の友人がおらず、日本社会での孤立を感じています。そのため、どんな些細なことでもいいので、彼らと話してほしいです。私は日本人の同僚や友人、出会った方々には、「できることをしてください」と伝えています。何かをしようとしなくてもいいのです。例えば、毎日笑顔で「おはよう」と挨拶してくれる人がいるだけでも、その日は明るい一日になりますし、それは、お金以上の価値があります。

シリア人の友達が出来たら、是非シリア料理を教わってほしいです。シリア料理を知ったら、他の料理は食べられなくなるくらい、美味しいですよ!

最後の大切な点は、「ally(アライ)」です。つまり、私たちの味方になってほしいです。何もできなくても、シリア人を知り、彼らと時間を過ごし、シリアの問題を理解し、他の人に広めていただきたいです。

イスカンダルさん:

シリアのこと、シリア以外の国のことにももっと関心を持って欲しいと思っています。

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Japan Bridge活動の様子

最後にお二人に今後の夢や目標を伺いました。

イスカンダルさん:

Japan Bridgeとしての目標は、募金など他人からの支援だけではなく、組織として収入を生み出し、活動を持続可能なものにすることです。

私の個人的な夢は、人々の生活を前向きに変えることができる影響力のある存在になることです。 例えば、シリアの人々が日本に留学し大学や語学学校で学ぶことを可能にする、JISRプログラムや日本の国費外国人留学生制度(注1)のような奨学金を創設したいという夢があります。

アナスさん:

Japan Bridgeとしての目標は、Japan Bridgeがシリアの人々にとっての居場所となるため、持続可能な組織とすることです。私は日本で、組織力や企画力、勤勉さを学び、「日本=製品が良いところ」というイメージを持っていました。このように私たちが感じている日本の良い部分を、Japan Bridgeの活動を通じてシリアの人々にも感じてほしいですし、シリアと同じように日本のことを好きになってほしいです。そのためには、イスカンダルさんが言うように、Japan Bridgeを持続可能な組織にしなければなりません。このことはJapan Bridgeの活動のためだけでなく、Japan Bridgeというグループ自体のためにも必要です。そして、持続的な活動への参加を通じて、メンバーのモチベーションを保ちたいと考えます。このようにして、私は、Japan Bridgeの成功に貢献していきたいです。

私の夢は200個くらいあるのですが、個人の目標としては、もっと多くの人たちとの触れ合いを通じて、人々の心を動かしたいです。日本人やその他の外国人にとって、シリアやシリア人に対するイメージは非常に悪いと思います。例えば紛争などのイメージを連想されることが多いと思います。私は様々な活動を通して、周囲の人々に理解され、素晴らしいシリア人ですねと言われることがありますが、そうではないのです。私よりも素晴らしい方々はたくさんいます。そのため、日本や世界の人々のシリア人に対する先入観をなくし、シリア人の本当の姿を知ってほしいのです。そのためにも私はシリアと日本をつなぐメッセンジャーになりたいです。

シリアでは、今でも多くの苦難に直面している人々がいます。私もこれまで大変な苦労がありましたが、JISRプログラムで日本に来ることができ、教育を受け、日本で就職できたことはとても幸運でした。この幸運が、私たちだけではなく、シリア現地の方々にも訪れてほしいです。将来的には、私たち全員でシリアに戻り、一緒にJapan Bridgeの活動を行いたいと思っています。私たちは、JICAや企業、様々な団体等との日本で得たつながりや経験を故郷シリアに戻り、生かすことで大きなプロジェクトができると考えています。そのプロジェクトには、シリアで目にする度に感動していた、日本のみなさんからの支援の証である、「From the People of Japan(日本国民からの援助)(注2)」を付けると決めています。これは、日本のODAによる支援は国民からのものであることを示しているのです。

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橋を表現するお二人(左:イスカンダルさん、右:アナスさん)

(注1)海外から優秀な留学生を受け入れることにより、国際交流・友好親善の促進及び諸外国の人材育成に資するとともに、日本の大学等の国際化の進展、それを通じた教育研究力の向上、ひいては社会全体の国際化・活性化に貢献し、日本と世界の発展に寄与することを目的とする制度です。
(参考:文部科学省
国費外国人留学生制度について」 (外部サイト))

(注2)日本の政府開発援助(ODA)では、開発協力を通じた我が国の支援を被援助国において広く周知するため、「From the People of Japan(日本国民からの援助)」と書かれた日章旗ステッカーを、日本の供与した各種機材への貼付や建築物のプレートのデザインなどに使用しています。
(参考:
外務省「(ODA)海外における開発協力広報」 (外部サイト))

編集後記

インタビューを通して、Japan Bridgeや個人の活動の原動力に、内戦や地震で被害を受けたシリアの方々への深い思いがあることを知ることができました。また、能登半島沖地震への寄付にも見られるように、シリア人だから、日本人だからではなく、同じ人間として手を差し伸べるといった考え方等に学ぶ点も多く、シリアに関するニュースを目にすることが少なくなっている今こそ、シリアの実情を知り、伝えていくことが大事だと感じました。

JISR生として来日した、お二人のシリアと日本の架け橋としての今後益々の活躍を祈念しています。

参考

Japan Bridgeのemail:info@japan-bridge.org

関連リンク

Japan Bridgeウェブサイト