2025年3月にJICAタイ事務所長として着任しました。
開発協力を通じた日本とタイの関係は長く、1954年に21人のタイからの研修員を日本で受け入れたことに始まり、昨年2024年にはタイ向け開発協力は70周年を迎えました。現在では近代的な都市の佇まいとなっているバンコクですが、ここで使われている上水道の70%、街中を走る都市鉄道の25%はこれまでの日本の開発協力による支援で整備されたものである等、わが国の開発協力はタイの発展と人々の生活の向上に貢献してきました。また、タイの東部臨海地域の開発においても、開発の過程ではレムチャバン港や工業団地等の主要なインフラ整備に円借款が活用され、タイの経済をけん引する産業集積地帯が形成されたことで、本邦企業を含む海外からの投資の呼び水にもなってきた歴史があります。
一方、現在のタイの名目GDPは5,148億米ドル(2023年)で、ASEAN第二の経済大国、メコン地域で最大の経済規模の中進国となっておりますが、少子高齢化による労働人口の減少、労働生産性の伸び悩み等を背景に中進国の罠に陥っています。また、気候変動や洪水被害等への脆弱性への対応、バンコクと地方との収入格差の解消、そして、我が国以上のスピードで進行するタイ社会の高齢化への対応など、タイは持続的な発展のためにまだ多くの課題を抱えています。
これまでの長い協力の歴史とその中で育まれたソフト・ハードの両面にわたる協力の成果、またそれによって構築された信頼関係は、日本とタイの良好な2国間関係や、タイの人々の親日感情の形成にも寄与してきましたが、今後も開発協力を通じてさらにタイの持続的な発展を支援しつつ、タイと日本の多層的な関係強化を支援していくことが我々JICAの使命と考えています。
タイがこれまでの発展を遂げてきた中で、日本とタイの関係性も深化・発展しており、共に学び、共に協力の成果を享受するという双方向性の強い関係となってきました。そうした中、タイは近年OECD(経済協力開発機構)への加盟を志向する等、国際社会の中でも責任ある中堅国としての地位を築く段階となっており、開発協力においても援助の受益国であると同時に、わが国とともにメコン地域やASEANを中心とする周辺国に支援もする、日本の援助の頼もしいパートナーともなっています。
近年、日本の開発協力の役割も進化しています。特に、2023年の開発協力大綱の改定に伴い、従来型の相手国のための援助という枠にとどまらず、地域の安定や、また、共創によって学びあい、その成果を日本を含む他国・他地域にも還元することによって、より幅広い国際益のためにODAを活用する方針が打ち出されています。日本との関係が深いASEANでも中進国へと成長し、先進的な課題に直面している開発途上国も多くなってきていますが、そのフロントランナーであるタイにおいて、これまでの長い協力を礎として築かれた信頼を活かしつつ、日本国内外のパートナーの皆様とも協力して、開発協力を通じたタイとの新しい関係づくりと、タイと協力した地域への貢献を進めて参ります。
2025年3月
JICAタイ事務所長
作道 俊介
scroll