タイトル:「ウズベキスタン国就学前教育におけるインクルーシブ教育実践強化プロジェクト」の成果

2024.09.20
日本の知見を活用しつつ、現地の文脈に即した特別支援教育・インクルーシブ教育を実践すべく、現職教員研修の制度的基盤の確立を目指した「ウズベキスタン国就学前教育におけるインクルーシブ教育実践強化プロジェクト(SPISE-UZB)」は終盤を迎えています。関係者のこれまでの努力により、研修トレーナーが育成され、実践的な研修プログラムや教材・評価ツールが開発され、障害のある幼児が学ぶ幼稚園教員向けの教員研修プログラムと、小学校教員向けの教員研修プログラムに、これらの新しく開発した研修内容が導入されました。これらはウズべキスタン政府が行う公式な現職教員研修として、プロジェクトの終了以降も実施されていくことが関係者間で合意されました。
また、本プロジェクトで研修教材の開発、研修実施、研修後フォローアップなどの活動を実施してきたことにより、教育現場で教員や子どもの変化が生まれています。
幼稚園・小学校を問わず、指導方法、教材開発とその活用法など、多岐にわたって教員の変化が見られています。例えば指導方法については、以前は障害のある子どもに対して、教員がすぐに支援してしまう場面が見られていました。プロジェクトによる研修やフォローアップを経て、教員たちは「子どもたちにまずは課題に取り組ませる。そして待つ」ことで子どもの自己決定と自立を促すように変化しています。また、個々の子どもの支援ニーズ、理解度を教員が把握し、集団授業の中でも、質問内容や与える課題を個々の児童に応じて変えるなどの配慮が見られています。教材については、特に知的障害・発達障害のある子どもに対して、1
日の活動や、各授業の活動のスケジュールを視覚化し、見通しをもたせる工夫がなされています。
子どもの変化については、例えば、教員が子どもの達成すべき目標を簡単なものにすることや指導方法を工夫することで、子どもが教員の指示を理解し、それに沿って学ぶことができるようになったケースが報告されています。またある児童は、小学校入学当初は学校では発話がない、発表ができない、文字を書こうとしないという状態でしたが、今では隣席の友達と話をしたり、手伝ってくれることを受け入れたり、教員の補助を受けて黒板に解答を書いたりすることができるようになりました。さらに、障害のない児童が、障害のある児童の身の回りのこと、学習面でのサポートを積極的に行うようになったことも報告されています。
最後に、プロジェクトの開始時には、当初の計画には無かったインパクトも生まれてきています。一例を紹介すると、プロジェクトが新たに開発した研修の講義の1つである“個別の指導計画(Individualized Educational Plan: IEP)”で用いたIEPフォーマットを用いて、これまで作成されていなかったIEPを作成する学校が確認されていることです。これは、ウズベキスタン政府がフォーマットを2023年に全国の地方教育事務所に試験的に配布したものであり、通常の学校において特別な教育的ニーズのある児童一人ひとりの学びを確保するインクルーシブ教育の推進に寄与すると考えられます。
※IEPとは、特別支援ニーズのある児童に対して、教育課程などを踏まえ、児童一人ひとりのニーズに応じて適切な指導を行うため、指導目標・内容などを具体的に記した指導計画です。
このように、本プロジェクトが3年間で蒔いた種から多くの芽が育ちつつあります。これもウズベキスタン政府関係機関、先生方、子ども、そして保護者の方々の熱心な取り組みと協力・支援のおかげであり、感謝を申し上げたいと思います。本プロジェクト終了後も、より良いインクルーシブ教育/特別支援教育を推進するため、ウズベキスタン政府が教員研修の実施を含め、これらの芽を着実に育て、活用して頂くことを心より期待します。
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