JICAベトナム事務所 小林新所長からのご挨拶
2025年4月1日に国際協力機構(JICA)のベトナム事務所長に着任した小林 洋輔と申します。
ベトナムへの赴任は今回で2回目になり、最初の赴任は2005~2009年の約4年間でした。帰国後も、本部において港湾及び気候変動分野の円借款や故・森嶌昭夫先生が1990年代半ばに立ち上げられた法制度整備支援などの対ベトナム協力に携わる機会もございましたが、現地に身を置いて業務にあたるのは15年以上ぶりとなります。
この間、ベトナムの社会・経済は大きく変化しています。一人当たりの国民所得は2008年の1,000米ドルから2023年の4,110米ドル(世界銀行)まで4倍となり、数年後には上位中所得国入りする見込みです。高等教育を受ける国民の割合も20%(2008年)から45%(2022年)まで増え(UNESCO)、健康保険加入率も57%(2009年)から93%(2023年)に伸びています(越・保健省)。
また、日本との関係についても、2009年の「戦略的パートナーシップ」が2014年の「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」を経て2023年に「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされるなど、大きく進展する中、ベトナムに進出する日本企業の数も950社(2008年)から2,394社(2023年)、在留日本人も7,036人(2008年)から18,949人(2023年)にそれぞれ大幅に増えています(日・外務省)。
こうした中、JICAが日本政府の開発協力政策の下で実施する対ベトナム協力も変化・発展し続けてきております。一例をあげれば、日本・ベトナム双方の関係者の方々の長年の努力が実り、ベトナムにとって初となる地下鉄がホーチミンで開通しました。こうした新たなインフラの整備に加えて、人材育成の分野でも、2014年に日本とベトナムの友好と結 束の象徴として日越大学が創設され、現在、幅広い関係者の連携と協力の下、1,000人を超える学生がベトナムと世界で活躍できる人材となるための教育を受けています。また、日本の各地で働くベトナム人労働者の方々の数が57万人(2024年)を超える中、労働者の送出プロセスにおける人権保護などといった新たな分野の協力にも注力しています。さらに、企業との連携においては、2010年に導入された企業提案型事業に累計233社もの日本企業が参画されているほか、海外投融資の案件数も15件(2025年)に上っています。以上は様々な変化・発展の一部にすぎませんが、これまで想定できなかったような複合的な危機にベトナム、日本、そして世界が直面する中、日本政府の政策の下でさらに新たな協力にも挑戦していく必要があると考えております。例えば、着任直後、自然災害が頻繁に発生する北部山岳地帯のソンラー省に対する協力の現場を訪れましたが、気候変動の影響で今後さらに脆弱な立場に置かれる可能性がある方々一人ひとりの生命・生活・尊厳を守るための協力のあり方について、これまでの枠にとらわれない検討を進めなくてはならないと痛感しました。
こうした変化や発展の一方で、「人づくり」と「心のふれあい」を通じた「国づくり」への貢献の姿勢はいつまでも変わりません。現在、その最前線で40名以上の海外協力隊員や50名近くの長期専門家の方々が幅広い分野で活躍されています。また、日本のNGO、大学、自治体などの方々もベトナム各地で住民の方々の生活の向上等に大きく貢献する協力を草の根レベルで展開されています。こうした様々なパートナーの皆様に安心して現場でご活躍いただくためにも、皆様にご協力をお願いしながら安全・健康管理を徹底してまいります。
最後に、2023年6月に改定された開発協力大綱の重要な視点の一つは「環流」です。JICAが実施する開発協力が、ベトナムの社会・経済の発展はもちろんのこと、日本の地方創生など、日本国内の課題の解決にも貢献することを目指して、ベトナムと日本の幅広いステークホルダー間の対話や連携の促進にもしっかりと貢献してまいりたいと思います。
2025年4月21日 JICAベトナム事務所長 小林洋輔
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