所長あいさつ

20年ぶりにパキスタンに帰ってきました。前回の駐在では、1999年10月の軍事クーデターの直後に赴任し、今回は2022年4月、パキスタン建国史上初の首相不信任案による政権交代直後に着任しました。政治の季節にイスラマバードに降り立つ縁を感じ、それがパキスタンの日常であることをあらためて認識しつつ、着任後2か月が経ちました。

パキスタンはこの20年間でどのように変わったのでしょうか。首都イスラマバードを眺めてみると、新空港が完成、市内を走るバス高速輸送システム(BRT)ができ、車・オートバイ等車両の数は激増、女性ドライバーも目につくようになり、ショッピングモールは市民で賑わいを見せ、宅地開発の波、新たなゴルフコースが完成する等、開発の波は着実に押し寄せ、人々の生活は豊かになっている印象を受けます。ところが、パキスタン人の友人は、「おかえりなさい」と歓迎してくれる一方、「20年前は良い時代だった…」と口々に言うのが気にかかります。国際協力に携わる一人として聞きたい言葉は、「20年前よりもよい生活ができるようになった」という言葉なのですが。

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パキスタンは人口2.2億人を有し、その6割が30歳以下で平均年齢23歳といわれる若い大国です。ポテンシャルの大きさは疑いありませんが、発展の土台となる教育、保健・医療等の社会指標は概して低く、ジェンダー指標は世界でも最低水準にとどまっています。ポテンシャルを活かすためには、教育、保健・医療、水・衛生、農業・農村開発等分野の人的資本への取り組みが急務であるとともに、同時に質の高い成長を見据えた産業育成・投資環境整備への取り組みも不可欠です。地政学的観点からは、パキスタンはインド、中国、アフガニスタン、イランという隣国に囲まれていることから、地域の安定のためにパキスタン自身が安定的に成長していくことも重要です。

現首相は「パキスタンは自立した国となるために今がまさに転換点」という認識を示し、国民に呼びかけました。JICAは、パキスタンが目指す目標に到達できるよう、パキスタンの人々、開発パートナー、企業等との協働による開発協力の一翼を担い、人々が協力の果実を一日も早く実感できるよう弛まぬ前進を続けていきます。私の夢は、今回の駐在を終え10年後に再びパキスタンを訪れた時、友人達から「おかえりなさい。パキスタンの生活は10年前よりもよくなったよ!」という声を聞くこと、そして彼らの子供たちが幸せに暮らしていることを見ることです。そのシーンを目にするとき、日本とパキスタンの友好関係はより固い絆で結ばれているであろうことを確信して。

パキスタン事務所
所長 木下 康光