カンボジアで「水道法」が公布:JICAの協力による水道法策定は世界初

2023年3月13日

民間水道事業者への立入検査の様子。水道法施行により水道水の品質と安全性を確保し、人々の健康と衛生環境の改善が見込まれます。

国民議会での水道法案審議の様子

カンボジア王国の水道法(Clean Water Management Law)が、2023年3月11日に公布されました。JICAの協力で水道法が策定されるのは世界で初めてです。カンボジア水道法は、きれいで安全で安定した給水サービスが適切な料金で提供されることにより、カンボジアの全ての人々の生活水準と公共の福祉の向上を目指すための枠組みを定めています。

カンボジア政府が水道の基本法の制定という行政の根幹部分への支援をJICAに依頼したのは、両者が長年の協力を通じて築いてきた信頼関係の証です。それを実現したのは、厚生労働省、北九州市上下水道局、日本水道協会、大学・研究機関等の協力を得て継続的に派遣してきたJICA専門家の粘り強い協力でした。

「水道事業人材育成プロジェクト(フェーズ 1 ~フェーズ 3)」(2003~2018年)では、プノンペン水道公社を始めとするカンボジアの水道公社や地方都市の水道局の人材育成を支援しました。特にプノンペン水道公社は給水サービスと水道事業経営の劇的な改善を達成し、「プノンペンの奇跡」と呼ばれています。そのほかの水道公社や水道局も黒字化し、カンボジアの給水サービスは大きく改善されました。これらの成果を踏まえ、JICAは法制度や規制などの水道行政全般を強化するため、「水道行政管理能力向上プロジェクト」(2018~2023年)を実施し、水道行政を所管する工業科学技術革新省の人材育成に協力しています。

水道法の策定は2004年に開発パートナーの支援により試みられましたが、当時のカンボジアの社会には上手く受け入れられず、国会承認に至りませんでした。その後、安全・安定・廉価な給水サービス・水道行政を行う上での基本的枠組みがないまま、家族経営を含む大小の民間水道事業体が急増しました。

そのような中JICAはカンボジア側からの強い期待に応え、2014年に水道法の策定への協力をスタートしました。協力にあたっては、カンボジア人の言葉・感覚にあった法律となるようクメール語で起草し、日本人専門家との議論にも、クメール語から英訳したものを活用しています。また現地の法律事務所と契約した法律の専門家による助言、アジア各国の水道法を比較した情報の提供、厚生労働省や北九州市上下水道局、日本水道協会の支援による日本の水道法(1957年公布)を参照した助言、関係者からの幅広い意見の収集及び法案への反映など多様な協力を行いました。

こうして2017年に水道法の原案が作成され、省庁間調整や法制審議会での審議を経て、この度公布に至りました。工業科学技術革新大臣は、“この法案は、JICAの支援で作成されたもので、上水道セクターにおける重要な最初の法律である”と報告しました。フン・セン首相からもカンボジアの発展に常に寄り添ってくれた日本政府と日本の人々に深く感謝するとのコメントがありました。

JICAは今後も、水道法の理念と規定に基づき、カンボジアのすべての人々がきれいな水と安全で安定した給水サービスを適切な料金で享受できる日を目指して、カンボジアの水道分野の関係者の能力向上に協力していきます。