特別レポート 広瀬 アリスさん シルクサリーが織り成す絆

女優として大活躍の広瀬アリスさんが、今年6月、インドを訪れた。衣類の生産が盛んなインドから、美しいシルクづくりを支える長年の日本の協力と、そこで受け継がれる人々の思いをリポートする。

写真提供:久野真一/JICA

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ヒンドゥプール村の桑畑で地元の農家や青年海外協力隊らと共に

2度目の途上国、いざインドへ

私にとって初めての開発途上国は、昨年訪れたフィリピンです。路上で暮らす子どもたちやゴミ処理場の周りに広がる街に住む人々の厳しい現実を知り、日本から飛行機でほんの数時間移動しただけで、こんなにも違う世界があることにショックを受けました。けれど、そのような状況を改善しようと現地の人々に寄り添って活動する多くの日本人の方々と出会い、自分にもできることがあるのではないかと考えるようになりました。帰国後、日本の企業と協力して作ったチャリティーTシャツは、そんな思いから生まれたものです。

2度目の途上国となった今回の訪問先はインド。洋服の高級素材であるシルクづくりと、それを通じた農家の自立と発展を、長年、日本が支援しているそうです。昔から日本とつながりが深いと聞き、訪れるのがとても楽しみでした。

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隣のカルナタカ州の養蚕農家で活動する青木隊員にもインタビュー

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アンドラ・プラデシュ州

シルク生産を支える日本の協力

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山中隊員とカイコの飼育塔で餌やり体験

首都デリーから飛行機で約3時間、南インドのベンガルール(旧称バンガロール)からさらに車を走らせること3時間。たどり着いたアンドラ・プラデシュ州のヒンドゥプール村には、美しい桑畑が広がっていました。ここは、青年海外協力隊の活動現場です。私も撮影などで、シルクの洋服や小物を身に着けることがありますが、インドの女性にとって、伝統衣装のシルクサリーは晴れ着の一つ。結婚式や食事会などで着ています。

近年、インドは優良なシルクの生産に苦戦しています。シルクは、カイコが繭になるときに口から吐き出す繊維。日本は上質な繭の生産を助けるため、1991年から2007年までの16年間、インド南部にJICA専門家を派遣して協力を続けてきました。現在は技術のさらなる普及のため、青年海外協力隊が専門家の方々の思いを引き継いで、農家さんたちと一緒に活動しています。

「一列に並ぶ桑畑や、少ない水で効果的に給水できる灌漑用のパイプも、日本人専門家の技術指導に基づいて整備されたものです」。山中優生隊員と青木望隊員がそう教えてくれました。上質なシルクを作るためには、カイコが食べる桑の葉を丈夫に育てることも大切なのだそうです。葉が青々と茂る美しい桑畑も、長年の協力の証なんですね。

桑畑の隣には飼育塔があります。実は、私は虫が苦手なのですが、カイコの餌やりにも挑戦しました!専門家が指導する以前は、桑の葉を1枚ずつちぎって与えていたので途方もない作業だったそうです。ですが、カイコの飼育棚に桑の枝ごと載せて餌やりする方法を専門家が導入したことで、作業効率が上がり、女性たちも作業しやすくなったといいます。

青木隊員は、「日本の技術の高さは農家からも認められています。私たちの話に皆、快く耳を傾けてくれるのも、日本が信頼されているからなのでしょうね。相互に敬意と信頼が根付いています」と力強く語ってくれました。

農家さんとの活動は、時間やお金の使い方に関する価値観の違いから苦労することも多いそうですが、根気よく丁寧に時間をかけて説明することで、理解し合えるようになってきたといいます。

「バラバラに作業していた私たちを優生(山中隊員)がまとめてくれた」という、農家リーダーのスリダルさんの言葉に、かつての専門家の思いが、今は協力隊員を通して農家の方々へ伝わっているのだと感じました。

首都で出会った日本とインドの絆

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デリーメトロの女性専用車両に乗車。混雑しているが快適だ

その後、ベンガルールでサリー屋さんを訪れ、試着してみました。この一着に隊員や農家の方々の思いが詰まっているのだと思うと、温かい気持ちになりました。私たちが普段身に着けているものには、多くの人が関わっていて、いろんなストーリーがあるんです。そのことを、もっと多くの人にも知ってもらうため、自分が見聞きしたことを日本で伝えていきたいと思います。

さらに、今回の訪問では、日本の協力としてインドで一番有名だというデリーメトロに乗車する機会もありました。デリーメトロは、人口増加による交通渋滞、大気汚染への対策として、JICAが1997年から整備に協力している都市鉄道です。乗ってみると、日本の地下鉄に似ていて、とてもきれいで驚きました。日本の協力で女性専用車両も導入されています。普通車両との間には警備員もいて、万が一、男性が乗車した場合には、罰金が課されるのだとか。女性が安心して乗車できますね。移動の自由が増えたことで、女性たちの社会進出にもつながっているそうです。

これからも女優という仕事を通じて、ファッションやフェアトレードなど、身近なテーマから話題を広げ、同じ年代の人たちに国際協力の現場やさまざまな活動を伝えていきたいと思います。

HIROSE ALICE(ひろせ ありす)

女優。1994年12月11日静岡県生まれ。代表作品に2014年TBS『ルーズヴェルト・ゲーム』、映画『銀の匙 Silver Spoon』など。2016年公開の『探偵ミタライの事件簿 星龍の海』ではヒロイン役として出演。2015年から妹の広瀬すずさんと「なんとかしなきゃ!プロジェクト」のメンバーとして活動中。