ゲーム感覚で学ぶ!最先端教育の可能性 教育に活用!

学校には通えても、教育の質に問題を抱える国はまだまだ多い。
最先端の教育技術で、楽しみながら子どもの学力向上に−。
インターネットを使った"eラーニング"の教材を開発する企業が、日本から世界へと挑戦の幅を広げている。

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「すらら」を使った数を数える問題に熱中するスリランカの児童

"寺子屋"スタイルの塾 必要なものはパソコンだけ

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スリランカの「SuralaJuku」スーリヤ・パールワ校。女性銀行の会員の自宅を教室として使っている

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「SuralaNinja!」という名前が付けられたインドネシア語版「すらら」。登場するキャラクターの声は現地の声優が担当している

スクリーンに映し出されたのは、小学校で行われている算数の授業の様子。先生の話を聞いているのは前列に座る数人だけで、他の児童は友達と喋ったり、走り回ったり、消しゴムを投げたり−授業は明らかに崩壊している。しばらくすると画面が変わり、今度は静かな教室で、パソコンに向かって黙々と問題に取り組む児童たちが映し出された。この2つの映像は、どちらもインドネシアの同じ小学校の様子だ。

「これは、私たちが開発したeラーニングの教材を、授業に導入する前と後の映像です。パソコンを使ったゲーム形式の学習に対して、日本に比べて他のアジアの子どもたちは明らかに反応がいいですね」。こう説明するのは、株式会社すららネットの湯野川孝彦社長だ。同社は、インターネットを通じた対話型のデジタル教材「すらら」の開発や販売を行っている。現在、日本では国語・数学・英語の教材があり、約110校の中学校と高校、そして約630校の学習塾で導入されている。

従来のeラーニングと異なる「すらら」の特長は、勉強が苦手で、授業に遅れがちな子どもに向いている点だと湯野川社長は話す。「進捗に応じてステータスが上がったり、ランキングが表示されたりというゲーム要素を多く取り入れています。また、それぞれの子どもに合ったレベルの問題を自動で出題するほか、つまずいている部分を分析・提示することができます」。湯野川社長は、こうした特長を持つ「すらら」が、基礎教育の質に課題を抱える開発途上国にも通用するのではないかと考え、海外向けソフトの開発に乗り出すことを決意。JICAの民間連携事業を活用し、2014年に事業をスタートさせた国が、スリランカだ。

スリランカでは学習塾市場が成長期を迎えており、日本のように"カリスマ講師"が教える大手学習塾も存在するという。同社は、こうした学習塾に通えない貧困層の子どもたちを対象に、「すらら」を活用した塾「Surala Juku」を開校。現地のマイクロファイナンス組織「女性銀行」と協力し、全国にある女性銀行支部の空き部屋などにパソコンを並べて、地域の子どもたちが通える教室を作った。

児童の"分かる喜び"と先生の"教える意欲"が増大

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児童を指導するファシリテーターを養成する研修。今では現地の女性自身が研修の講師も務めている

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使った教材を片付ける児童。挨拶や手洗いなど、マナーや礼儀についても学んでいる

湯野川社長に、実際に使われている算数の教材を見せてもらった。画面には先生役の忍者のキャラクターが登場し、1から5までの数字を現地のシンハラ語で繰り返し発音し始めた。「初めて数を学ぶ子もいるので、数の概念と数字の形、そして発音を結び付けるところから始めています。その後、例えば5は1と4や、2と3に分解できることをゲーム形式で教えることで、次のステップとなる繰り上がりのある足し算にスムーズに入ることができるのです」と湯野川社長は話す。

日本では小学校高学年以上が対象の教材しかなかったため、低学年用のコンテンツは、絵コンテやシナリオをゼロから作ったという。現在も児童の理解度をモニタリングしながら、教材の改良を続けている。「例えば、スリランカでは文章を読み解く力が不足している子どもが比較的多いため、文章問題には音声ボタンを付けて、キャラクターが問題を声に出して読んでくれるように改良しました」

「Surala Juku」のもう一つの特長は、貧しい地域の女性たちを"ファシリテーター"として育成し、児童の指導にあたらせていること。子どもの基礎学力向上と女性の雇用創出を同時に実現するのが狙いだ。女性たちは、同社が開催する4日間の事前研修を受けることで、教務の知識や経験がなくても生徒をサポートすることができるようになるという。

「Surala Juku」の数は順調に増えており、この1月には全国で18校に達する予定だ。また、子どもの変化に関する保護者へのアンケート調査の結果、7割以上が学校の成績が上がり、9割以上が算数を好きになったと回答した。

スリランカに続き15年から事業を行っている国が、インドネシアだ。現在、インドネシア教育大学の附属小学校2校に、インドネシア語版の「すらら」を導入している。現地では日本のアニメやゲームの人気が高く、冒頭の映像が示す通り、その効果は絶大だという。「先生も、授業中の児童の態度や学力の差に問題意識は持っていましたが、どう改善すればいいのか分からなかったのです。すららを活用することで、自信を持って子どもたちと向き合うようになりました」と湯野川社長。今後はインドネシアでも学力の変化などを調査し、将来的には貧困層向けの事業展開を目指している。

パソコンを使った新しいスタイルの学習法は、途上国の教育問題を打開する一手となるか。最先端の教育技術に注目が集まる。