特別レポート 坂口もとこさん 地中海の香りを運ぶオリーブオイル

古代にはカルタゴとして栄え、3000年近くにわたって地中海文明の交流の場となってきたチュニジア。
アラブ、ヨーロッパ、トルコなど、幅広い食文化の交差点として伝統を育んできたチュニジアを代表する食材、オリーブオイルの魅力に、フードプランナーの坂口もとこさんが迫った。

写真=鈴木革(写真家)

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搾油場で搾りたてのオリーブオイルを試飲する坂口さん。摘みたてのフレッシュな香りが口の中に広がる

「アフリカ」の語源となった国 地中海の豊かな食文化に感動

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チュニジア

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一面に広がるオリーブ畑は、チュニジアではそこかしこで目にする光景だ

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首都チュニスに住むマミさんの食卓。チュニジアの家庭料理にオリーブとオリーブオイルは欠かせない

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農園のオーナーのブゲラさんは、手作業の伝統を守りながら効率的に機械を取り入れることで、オリーブオイルの品質向上を目指している

私はフードプランナーとして、素材や商品の良さを最大限に生かした食べ方を日々提案しています。ですから、チュニジア産オリーブオイルの魅力を日本で伝えてみませんかと言われたときは、食を通してチュニジアと日本をつなぐ役目に心が躍りました。一方で、チュニジアには2015年のテロの影響で危険なイメージがあり、少し不安もありました。でも、実際に訪れてみれば、危険どころか、魅力あふれる素晴らしい国でした。

北アフリカの地中海沿いに位置するチュニジアは、古くからヨーロッパや中東、アフリカと結び付いてきた歴史的背景から、食や文化がとても豊か。魚介や野菜を生かしたオリーブオイル中心のおいしい食文化に加えて、カルタゴなどは町自体が世界遺産となるほどの美しい景色を誇り、人々はとても気さくです。

私が訪れた昨年11月は、ちょうどオリーブの収穫シーズン。美しく広がるオリーブ畑の中で緑色の実が艶やかに光り、まるで宝石のようでした。摘みたてオリーブのフレッシュな香りに感動していると、「オリーブオイルは新鮮なほど価値が高いので、収穫後3時間以内に搾油場で搾ります」と、農園のオーナー、ブゲラさんが説明してくれました。フランスに留学し、フランスのチーズ産業のように祖国ならではの産業を興したいと考えたブゲラさんは、帰国後に農園と工場を設立。現在、日本にオリジナルブランドのオリーブオイルを輸出しようとしています。

アフリカの語源となったイフリキヤは、もともとチュニジア周辺を指す地名で、一説には古代ギリシャ語で「寒さと無縁の地」を意味したともいわれます。夏は暑くて乾燥するチュニジアは、オリーブの栽培に最適で、15年のオリーブオイルの輸出量では世界第一位を誇ります。でも、そのほとんどが産地を記さずに輸出されてブレンド用に使われるため、チュニジア産としての日本での認知度は高くありません。

そこで、JICAは筑波大学のベンチャー企業や小豆島の企業と共に、チュニジア産オリーブオイルの認知度向上や商品開発などに協力しています。ブゲラさんの農園はその事業での取引先候補の一つ。「本当においしいオリーブオイルがほしいなら、ぜひチュニジア産を選んでほしい」と、ブゲラさんは力強く語りました。

美容と健康に効果抜群!チュニジア産の魅力を確認

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観光専門学校で、生徒たちにオリーブオイルを使った和食のデモンストレーションを行う坂口さん

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オリーブオイルを使った和食メニュー。トマトをたくさん使うチュニジアの人たち向けに、そうめんのつゆには刻んだトマトを入れた

チュニジア産オリーブオイルの魅力の一つが、アンチエイジングなどに有効とされるポリフェノールの豊富さ。日本と同国の共同研究によって、チュニジア産のオリーブにはポリフェノールが欧州産よりも多く含まれていることが分かったのです。チュニジアと日本の長年の研究成果を商品価値に結び付け、日本でもチュニジアブランドのオリーブオイルの認知を高めたい−。大学や民間企業と連携した協力は、今後のチュニジアの経済発展にもつながると感じました。

地元でのオリーブオイルの使い方を知るため、現地のJICA事務所で働くマミさんにチュニジアの家庭料理を教わりました。マミさんはお気に入りのオリーブオイルを農家から買い付けていて、その量、なんと年間30リットル!"メシュイーヤ"と呼ばれるチュニジアの代表的なサラダはもちろん、蒸したホウレンソウとバジル、煮込んだ羊の肉をスープごとご飯と混ぜる"ジェルバ風ライス"などにも、オリーブオイルをたっぷり使います。野菜もたくさん使うので、不思議と胃がもたれません!素材を生かして調味料を上手に活用する文化は、和食にも通じていると思いました。

その後は、海沿いのリゾート地、モナスティールにある観光専門学校で、生徒たちにチュニジア産オリーブオイルを使った和食のデモンストレーションを実施。15年までシニアボランティアが料理指導を行っていたこの学校の生徒たちは、2年間、調理やサービス業について学んだ後は国内外のホテルやレストランで活躍します。のりや麺つゆ、わさびなどの和食材は日本から持ち込み、旬の野菜や魚を中央市場で調達。チュニジア産オリーブオイルの和食での活用を実演しました。巻き寿司や和風カルパッチョ、そうめんの作り方を真剣なまなざしで聞きながら、盛り付けは個性豊かにアレンジする生徒たち。日本とチュニジアが食でつながった気がします。

チュニジアではテロ事件以降、観光業が低迷していると聞いています。でも、先生や生徒たちのやる気に満ちた表情には明るい未来を感じました。

坂口 もとこ

メニュープランナー、フードコンサルタント。国内航空会社の国際線客室乗務員として勤務後、料理研究家のアシスタントを経て、料理教室をオープン。書籍出版、食関連イベントの講師、企業や飲食店のメニュー・商品開発、食ブランディングコンサルティングなど幅広い活動を行う。「野菜ソムリエ/パンアドバイザー」(日本野菜ソムリエ協会認定)資格保有。