特別インタビュー 堂本暁子 前千葉県知事・ジャーナリスト

あらゆる人が 力を合わせて 災害に強い社会を

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意思決定の場に不在の女性 対策が偏るリスクに

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2016年4月1日、仙台市にて。東日本大震災からの復興に向けて女性の意見を取り入れ、より生きやすい社会を目指す

私が千葉県知事を務めていたときに、全国の都道府県知事会でとある調査をしました。各都道府県の災害備蓄の決定に、どれだけ女性が関わっているかを調べたのです。その結果はゼロ。衝撃的でした。

その後、同様の調査を、市町村に対して行いました。女性が決定に参加している市町村はやはり少なかったのですが、参加している場合にはたいてい、新生児用のバスタブ(ベビーバス)や高齢者用のオムツ、妊産婦が必要とする品物など、女性、乳幼児、高齢者などさまざまな人たちにとっての生活必需品が備蓄リストに加わっていたのです。より生活に密着した女性の視点が、そうしたニーズに注目したのでしょう。

非常時には普段はなかなか見えない社会の不平等や差別がむき出しとなり、ゆがみがあらわになります。災害・紛争時における平等を考えることは、普段の社会全体を考えることでもあるのです。紛争や災害などの異常事態は、しばしば男性が中心となって解決すべき問題と捉えられがちですが、危機的な状況に効果的に対応するためには男女が力を合わせて取り組むことが不可欠です。このことについて、私たちは阪神・淡路大震災のときから繰り返し声を上げてきましたが、改善できないまま東日本大震災が発生しました。

発生から3週間後に被災地を訪れると、どの避難所でも指揮を執っているのは男性でした。避難所には仕切りがなく、若い女性やオムツを替えたい高齢の男性、赤ちゃんに母乳をあげたいお母さんなど、困っている人たちがたくさんいましたが、指揮を執る男性たちは「仕切りは要らない」と取り合ってくれませんでした。健康状態を調べに来た医師を、避難所の責任者が「全員、元気です」と答えて帰らせたため、体調が悪い方が診察を受けられず、救急車で病院に運ばれて、そのまま亡くなるケースもありました。こうした問題を防ぐために、普段から災害対策に多様な生活者の視点を織り込んでいくことが必要だと実感したのです。

災害多発国の課題を見つめ 自ら社会を変えていく

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福島県内の避難所にて。災害時こそ、声を上げづらい人たちのニーズをくみ上げることが大切だ

日本はもともと災害多発国であることに加え、近年の温暖化によって自然災害の発生が増えていますから、災害対策は避けて通れません。縦割り行政や、行政主導で展開される公共事業などの現在の仕組みは、女性、高齢者などあらゆる被災当事者が意志決定に参加できるようなシステムや空気を作っていく上での障害になります。それと同時に、女性自身が決断を人任せにしがちなことも足かせになっています。女性も主体的に参加すべきです。

そもそも、日本は明治時代から男女双方に義務教育を施し、1945年には女性に参政権を認めるなど、早い時期から女性にも男性と平等な教育と権利を与えてきました。にもかかわらず、女性が社会の意思決定の場に出てこないことが多いのは、性別による役割分担の意識がとても強いからでしょう。役割分担の多くは昔からあったわけではなく、高度経済成長期の"男性が身を粉にして働き、女性が家庭を守る"という家族像の中で作られていったものです。その結果、東日本大震災の被災地では、女性たちが自ら本音を言おうとしないことが少なくありませんでした。

こうした実情を踏まえて政府に働き掛けを続けた結果、東日本大震災復興基本法にはジェンダーの視点を反映する12の項目が織り込まれ、内閣府男女共同参画局も「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を作成しました。昨年の熊本地震でも女性が意見を言おうとしない傾向が見られましたが、この指針を活用し、早期から男女共同参画センターが積極的に活動することができました。この流れを恒久的なものとするためには、社会全体の合意形成の中で、女性をはじめとする多様な生活者の意見を後押しする抜本的な改革が必要です。

同じ社会に住むさまざまな人たちが互いを差別せず、お互いにつながりを持ち、皆で安全な社会を作っていくために、女性も勇気を持って声を上げ、責任を担っていくことが求められています。

堂本 暁子(どうもと・あきこ)

前千葉県知事・ジャーナリスト
男女共同参画と災害・復興ネットワーク 代表

1932年、東京都生まれ。TBS報道局で記者・ディレクターとして活躍。1980年、夜間保育制度の整備が進まない中、働く母親から子どもを預かるベビーホテル(認可外保育施設)の実情を追ったドキュメンタリー『ベビーホテル・キャンペーン』で日本新聞協会賞などを受賞。89年に参議院議員となり、男女共同参画社会基本法、DV防止法などの制定に関与。2001年から8年にわたり、千葉県知事を務める。東日本大震災後は、防災・災害政策に男女共同参画の視点を盛り込む提言活動を展開している。