「共に学ぶ」女性参画 宮城県東松島市

東日本大震災からの復興が進む宮城県東松島市。
女性の参画に力を入れる同市で、昨年12月、災害のリスクが高い国々から来た研修員と地域住民とが、被災経験やジェンダー問題について共有する意見交換会が開かれた。

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研修員に被災直後の写真や復興計画の地図を見せつつ、これまでの歩みを語る東松島市の住民たち

宅地整備進む東松島 研修員が市民センター訪問

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宮城県東松島市

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災害廃棄物の分別作業。女性や震災で失業した人たちが雇用されている(写真提供:東松島市)

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野蒜地域の女性たちが地場産品育成事業として行っているハーブ栽培。JICAの草の根事業でインドネシアから研修員が訪れることもある

2011年の東日本大震災で発生した津波により、石巻湾を臨む市街地の65%が浸水した東松島市。5518棟が全壊し、人口の3%にあたる死者・行方不明者が出た。それから6年、同市では現在、7地区で宅地整備や住民の集団移転を行う「防災集団移転促進事業」が進み、新たなコミュニティーが形成されつつある。

中でも、最大規模となるのが同市西部に位置する野蒜北部丘陵地区だ。高台の山林を造成して作られたこの地区には、津波の被害を受けたJR仙石線・野蒜駅が移設され、昨年夏から移転住民の住宅建設も始まっている。

この宅地整備の一環として、昨年11月、野蒜市民センターがオープンした。翌月、ネパールやパキスタンなど、6カ国から防災やジェンダー問題に取り組んでいる行政官やNGO職員ら17人がこのセンターを訪れた。彼らは、JICAが2015年に始めた研修「ジェンダーと多様性からの災害リスク削減」の研修員で、研修の一環として、ここで東松島市の住民たちと意見交換会を行った。

災害下におけるジェンダーの問題は、開発途上国だけでなく、日本でも大きな課題だ。例えば、東日本大震災の避難先や仮設住宅では、女性に対する暴力が増加し、"母親は外に働きに出るものではない"という価値観が根強い地域では、若いシングルマザーが経済的・社会的に疎外されている。こうした中、途上国と日本が被災経験やジェンダー問題を共有し、女性の視点に立った災害対策を促進するための課題や解決策を探るのが、意見交換会の狙いだ。

白熱する議論 地域住民の意識にも変化

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真剣なまなざしの研修員。彼らにとって、住民から直接話を聞く機会は貴重だ

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震災後、避難所で行われた復興まちづくりワークショップ。女性も多く参加していた(写真提供:東松島市)

意見交換会では、研修員と住民代表が3グループに分かれて、話し合いを行った。研修員たちは、「パキスタンでは、行政が被災地の集団移転を計画しても、多くの住民は先祖や仕事のことを考え、その地にとどまります。東松島では高台移転についてどのような合意形成を行ったのですか」「スリランカでは自然災害の他、紛争もあったので性暴力やシングルマザーの増加が深刻です。日本では女性の安心・安全を守る視点をどのように取り入れていますか」など、矢継ぎ早に問い掛けた。

これに対し、小学校教師や消防士、野蒜まちづくり協議会メンバーなどを務める住民たちは、自身の経験も交えながら、丁寧に答えていった。例えば、合意形成については、各仮設住宅に住民の意見を聞く連絡員を置いたり、コミュニティーごとに話し合いを開いたりするなどして、多くの意見が聞けるようにしていたという。

当初は話し合いの場に女性はいなかったが、最近は女性の参加を積極的に呼び掛けるようになっている。今では参加者の4割を女性が占める委員会もあり、女性のニーズを吸い上げやすくなった。協議会メンバーが、日頃から女性や障害者など話し合いに参加しづらい人たちと交流する中で、彼らのニーズを聞くこともあるという。例えば、協議会のあるメンバーは、「あるとき、少年から車いすの女性の避難方法について相談が寄せられたので、その話を協議会に持って行き、車いすが通れる避難路を作りました」と語った。

活発な意見交換を終えて、スリランカ人の女性研修員は、「復興の過程でどのようにジェンダー問題を改善するべきか、参考となる事例を聞くことができました」と、笑顔を見せた。ブータン人の男性研修員も、「女性の役割の大切さを再認識しました。特に、倒壊した建物などのがれきを被災地の女性が中心となって仕分けし、その多くがリサイクルされた話には感動しました」と語った。

その一方で、住民側として参加した野蒜まちづくり協議会副会長の櫻井けい子さんは、「日本よりも、彼らの国の方が社会的な女性参画の割合が高いことを聞いて驚きました。協議会の役員には私しか女性がいないので、もっとがんばらなくてはなりませんね」と、気持ちを新たにしていた。この研修のコーディネーターを務めるアイ・シー・ネット株式会社の房前理恵さんは、「研修員たちの国には、日本よりもジェンダー平等に関する取り組みが進んでいるところがあります。そのため、住民が研修員から得た教訓もあったのでしょう」と指摘する。

また、この研修の実現に尽力したJICA東北支部の鎌田みどりさんは、「東松島市は今回の研修の他にも、さまざまな国際協力活動を行っています。その理由は、地域の住民たちが被災地を含む海外との交流を通じて"一緒に復興に向けてがんばろう"と勇気付けられたり、彼らから地域活性化につながるアイデアを得たりすることができるからです。これからの国際協力は、東松島市のように、日本の地域と途上国が共に学び合う"共創"の関係が生まれるようなプロジェクトがさらに増えてくると思います」と語った。

今回の意見交換会でも、被災地同士の間に共創関係が芽生えた。この関係は将来、災害時における女性の参画をより一層推進させる原動力となっていくことだろう。