中央アジア・コーカサス シルクロードの今を追う

昨年、独立から25周年を迎えた中央アジア・コーカサス諸国。
日本は各国の独立当初から一貫して国づくりを支えてきた。
日本にとっての中央アジア・コーカサス諸国、そして、同地域にとっての日本とは——。
今後の関係深化を見据え、日本との絆を探る。

写真:竹田武史

大国の間で揺れ動く8カ国

約70年間続いた旧ソビエト連邦は、冷戦終結と国内改革という大きなうねりの中で1991年末に崩壊した。連邦を構成していた15の共和国は国家として独立。現在の中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)と、コーカサス3カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)はこのときに誕生した。リアルタイムで激動の時代を見守った人が多い一方で、若い世代にとっては教科書で学ぶ歴史の一ページでもある。

「これらの国々は、独立から25年あまりの“国際社会の新参者”ではあります。しかし、さかのぼって見れば、シルクロードが栄えたころから東洋と西洋の間の交易や文化の伝達を担ってきた重要な地域であり、独自の長い歴史を持っているのです」。旧ソ連崩壊後の国家関係の研究を専門とする広島市立大学広島平和研究所の湯浅剛教授はそう説明する。

この地域の特徴は、石油や天然ガス、希少金属などが豊富なこと。しかし、2000年以降は産油国とそうでない国との経済格差が広がっている。地域最大の経済規模を誇るのは、一人当たりGDPが唯一1万ドル前後で推移するカザフスタンだ。トルクメニスタンやアゼルバイジャンがそれに次ぐ。一方、資源を持たないキルギスやタジキスタンでは、一人当たりGDPはカザフスタンの10分の1程度に過ぎない。これらの国は、厳しい自然環境などから産業の発展も遅れており、ヨーロッパなどへの出稼ぎ労働者が多いという。

「8カ国の経済状況は一様ではなく、文化や言語も多様性に富んでいますが、地域としてまとまった組織を形成していこうという議論はあります。ただ、これらの国々が独自に共同体をつくる段階にはまだなく、歴史的に影響力を持つロシアがそうした構想をけん引しています。さらには、貿易で関係の深い中国も介入しており、中央アジア・コーカサス諸国は、大国の利益が交差する中で、独自の立ち位置を確立していこうと模索しているのです」と湯浅教授は説明する。加えて、近年はインドやトルコなどの周辺国も、同地域における存在感を強めているという。

地域連携の“触媒”としての日本

2015年10月の安倍晋三内閣総理大臣による中央アジア5カ国訪問以来、日本でも同地域への注目度が高まっている。資源を持つ同地域と、産業育成やインフラ整備のノウハウを持つ日本が、互恵関係を一層深めていくことを確認し合った。日本は8カ国の独立当初から、さまざまな分野への協力を通じて、同地域の国づくりを支援してきた。日本と同地域の良好な関係は、その上にある。

湯浅教授は日本の立ち位置について、さらにこう指摘する。「ロシアや中国のように歴史的・地政学的に、直接的な利害関係を持つ国が、国益を全面に押し出した政策を取ったり、国際社会が経済支援の条件として厳しい民主化要求を課したりする一方、日本はそのような国々と肩を並べようとするのではなく、同地域自身の歩みを後押しする存在として寄り添ってきたのです」

特に、中央アジア5カ国との協力の枠組みである「中央アジア+日本」対話は、日本独自のアプローチだ。2004年に始まったこの対話の目的は、農業や防災、隣国アフガニスタンの情勢不安を見据えた麻薬対策と国境管理など、地域が抱える共通課題の解決にある。日本がそれらを支援する意義について湯浅教授は、「資源確保の点はもとより、民主主義や市場経済、人権の尊重など、日本が重んじる基本的な価値観を共有することで、同地域の安定を促します。それが、国際社会において日本が協調できる仲間をつくっていくことにもつながるのです」と説明する。

中央アジア・コーカサス地域の人口は8カ国合わせても1億人に満たず、市場規模はまだ小さい。しかし、「中央アジア+日本」ビジネス対話の枠組みなど、日本企業の進出に向けた動きは始まっている。第二次世界大戦下では、日本の抑留者たちがウズベキスタンで強制労働に従事しながら現地社会に貢献し、地元の人々と親交を深めた。そのような歴史背景もあり、同地域には親日国が多く、長期的な視点でのビジネス展開が期待される。今年6月からは、カザフスタンでアスタナ国際博覧会(通称・アスタナ万博)も開催される。万博のテーマ「未来のエネルギー」への提案として、日本は産官学を挙げて技術力を発信していく予定だ。

最近では、19世紀後半の中央アジアを舞台にした『乙嫁語(おとよめがた)り』という漫画もあり、身近なところにも同地域を知る機会が増えている。8カ国と日本のパートナーシップを強化していくためには、まずはそれぞれの国を知ることが大切だ。独立というスタート地点から、国づくりの歩みを進めてきた各国に、日本は今後も寄り添い続けていく。

編集協力 広島市立大学広島平和研究所 湯浅剛教授