集めたお金で助け合う 新しい農業支援 エチオピア

悪天候が収穫に与える影響は、農家の悩みの種だ。
干ばつが頻発するエチオピアでは、農家の抱える天候リスクを回避する金融商品として、“天候インデックス保険”が導入され、特に小規模農家の生計向上に役立てられている。

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購入した天候インデックス保険の保険証書を手にする農家。この地域では農作業に家畜を利用する農家がほとんどだ。保険があれば、収穫が少ない時期に大事な家畜を売る必要もなくなる

アフリカ北東部の水不足 金融支援が農家を救う

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エチオピア オロミア州

アフリカ北東部は、干ばつが発生しやすい乾燥地域だ。2010年にも大規模な干ばつがあり、1000万人以上ともいわれる人々が食糧危機に陥っている。エチオピア最大の州・オロミア州は穀物の生産が盛んだが、農家は伝統的な農法で農業を営んでおり、水資源はあっても灌漑面積は限定的だ。雨に頼る天水栽培のため、農家は雨が少なかったり、降る時期が偏ったりするなどの気象条件に悩まされている。

JICAはこの地域で2012年から約3年間、干ばつなどのリスクに対する農村地域の対応能力の強化に取り組んできた。その際、営農技術の支援や農業インフラの整備など、従来の手法に加えて導入したのが、近年、注目を集めている“天候インデックス保険”だ。

天候インデックス保険とは、天候が収穫に与えるリスクを回避するための保険のこと。オロミア州で導入した天候インデックス保険の仕組みは、契約期間内の合計雨量が、あらかじめ定めた基準値を下回った場合、保険を購入した農家に保険金が支払われるというものだ。

「プロジェクトでは、保険金の支払基準となる雨量値を2段階に分けて設定しました。一つ目は、作物の生育に影響が出始める雨量で、実際の雨量が基準値をどのくらい下回ったかによって保険金の支払額が決まります。二つ目は、深刻な干ばつ状態であるとみなされる雨量です。実際の雨量がこの値を下回ると保険金額の満額が支払われます」。そう説明するのは、現地で天候インデックス保険の導入を支えた株式会社三祐コンサルタンツの平山康太さんだ。

農家の抱えるリスクに対応する金融商品には、天候インデックス保険の他にも作物保険などがある。平山さんは天候インデックス保険ならではのメリットについて、「従来の作物保険では、作物の被害を算定するため、費用や時間がかかりました。一方、天候インデックス保険は雨量を基に被害推定を行うため、手間がかかりません。実際の農地での被害査定結果を基準としないので、できるだけ安価な保険を多くの小規模農家にも提供できるのが特長です」と説明する。つまり、保険会社にとっては顧客の範囲を広げることができ、小規模農家にとっては農業リスクを軽減するためのツールへのアクセスが向上する、一石二鳥の仕組みなのだ。

保険は助け合いの仕組み 困っている人にこのお金を

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農業普及員による、天候インデックス保険の普及活動。プロジェクトの対象地を決める際には、気象観測所の有無や気象データを入手できることなども考慮された

プロジェクトでは、地元のオロミア保険会社が天候インデックス保険の販売元となったが、保険会社自身は農村地域での商品販売チャネルを持っていない。そのため、複数の農民で構成される農業協同組合や、もともと地元の行政機関から各村に配置されている農業普及員との連携が不可欠だった。

農業普及員の役割は、農家に対する天候インデックス保険の教育活動などを通じて、同保険を普及すること。その後、農業協同組合が保険会社と農家の仲介窓口となって、保険の販売や保険料の徴収、保険金の支払いなどを担った。

天候インデックス保険の導入にあたっては、関係者への研修も行った。参加した農業協同組合や農業普及員たちは、どのような場合にいくらの保険金が支払われるのかを演習を通して学び、保険の仕組みへの理解を深めた。あわせて、オロミア保険会社を含む9社の保険会社向けの研修も実施し、天候インデックス保険を扱う保険会社の拡大にも努めた。

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大勢の農家が天候インデックス保険の説明を聞きに集まった。エチオピアの集落では、もともと一定のメンバーから集めたお金をその親族の葬儀費用に充てる慣習がある。日常的な資金面の助け合いが、保険導入の素地となった

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農業普及員への研修を行う平山さん(中央奥)。「民間会社である保険会社の協力が不可欠なため、現地保険会社の意向や強みを生かせる体制になるように心掛けました」と平山さんは振り返る

「週に1度、オロミア州全体に放送されるラジオ番組で天候インデックス保険について紹介したり、郡ごとにパンフレットを作ったりするなど、加入者を増やすための取り組みも続けました」と平山さん。こうした普及活動のかいあって、活動1年目の2013年に1286だった加入農家数は、2年後には2845に。プロジェクト期間の累計加入農家数は9754に上った。経済状況の厳しい小規模農家でも保険にアクセスできるよう、最低保険料を日本円で500円相当に設定したことが加入者の増加につながったと平山さんは見ている。

加入者の中には、こんなことを話して平山さんを驚かせた人もいるという。「もし、自分の村で保険金が支払われなかったとしても、私たちが支払った保険料は、天候の影響がより深刻な別の村の保険金の支払いに使われる。保険は助け合いの仕組みのようなもの。加入することで、助け合いのメンバーの一人となりたい」

日本では保険は身近なものだが、それは自分自身のリスク回避の手段であり、助け合いの仕組みだと考える人は少ないのではないだろうか。平山さんは、「助け合いの仕組みに参加したいという思いが保険を購入する動機にもなるのだということがとても新鮮でした」と振り返る。

プロジェクトでは、天候インデックス保険に加入した農家は加入していない農家に比べて、農作業の回数やそれに費やす労働力を増やすなどの効果が見られたという。こうしたことの積み重ねが、干ばつなどのリスクへの対応能力を一層高めることだろう。

お金を集めて、必要な人に融通する——。一見、顔の見えない金融支援も、やはり助け合いの心がつなぐものなのだと、エチオピアの農民が教えてくれた。