紛争を乗り越え、真の平和を取り戻す コロンビア

50年以上にわたる内戦を終わらせるための取り組みが評価され、フアン・マヌエル・サントス大統領が2016年ノーベル平和賞を受賞したことで注目を集めたコロンビア。
平和への道を歩み始める一方で、国内には内戦の影響が色濃く残っている。
課題の一つが、紛争や暴力によって家を追われた国内避難民の生活再建だ。

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今年2月から3月にかけて、「カンボジア地雷対策センター(CMAC)」とJICAでコロンビアの地雷原を視察した。内戦中に埋設された地雷は、国内避難民の帰還と生活再建を阻む要因の一つだ

世界最大の国内避難民 日本が長年にわたり支援

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コロンビア

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2015年に福島県いわき市で行われた研修。オーガニックコットン畑を見学した

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土地情報システムの開発担当者に対して、セキュリティー確保のための技術移転を行う小暮専門家(右)

昨年11月30日は、コロンビアにとって歴史的な日となった。コロンビア政府と左翼ゲリラの「コロンビア革命軍(FARC)」との間で和平合意が成立し、約50年に及んだ内戦に終止符が打たれたのだ。

JICA国際協力専門員の小向絵理さんは、これから本格化する国の復興に向けた課題の一つに、国内避難民の生活再建をあげる。「コロンビアには、武装勢力による暴力などによって家を追われた国内避難民が600万人以上いるといわれており、多くは都市部に流入し、人が住むには向かない山の斜面などに非合法に家を建てて暮らしています。彼らが元の生活に戻るための制度構築や環境整備が求められているのです」

社会格差の是正を求めてFARCなどの左翼ゲリラが立ち上がったのは1960年代のこと。その後、内戦は長期化し、国内避難民の避難生活も恒常化していた。こうした状況を受けて、1997年、同国政府は各地方自治体に国内避難民の生活向上を目的とした計画の策定を義務付け、2009年からは日本の支援の下、各自治体が国内避難民のニーズをくみ取りながら、参加型の開発計画を策定する能力の強化プロジェクトを実施した。

2011年には、紛争被害者を定義した上で、奪われた土地の権利を彼らに返還することを定めた画期的な法律が制定された。その後、農業農村開発省の下に設置された「土地返還管理特別行政ユニット」が、土地情報を管理するためのシステムの開発に乗り出したが、返還申請者の個人情報や土地を奪われた経緯などをシステムに登録するため、万が一にも加害者側に情報が漏れた場合は、申請者の命に危険が及ぶ可能性があった。そこで、ユニットの情報セキュリティー管理能力を強化するため、日本が技術支援を行ったのだ。

支援に携わった小暮陽一専門家は、「システムの開発を担当する技術者と、システムの運用や管理を担当する職員に対して、それぞれセミナーを実施しました。彼らを日本に招き、日本の行政機関による土地管理の取り組みを伝えるための研修も行いました」と説明する。また、国内避難民への土地の返還と、東日本大震災によって土地を失った人に対する復興事業との間に共通点があると考え、福島県いわき市でも研修を実施。12人の参加者は、行政の復興の取り組みを学ぶとともに、風評被害で野菜を栽培できなくなった農家のためにオーガニックコットンを製品化したり、市民参加型で自然エネルギーの導入を推進したりしている民間の取り組みも見学した。「参加者は、政府からの支援だけでなく住民同士が協力することの重要性などを学び、国内避難民の帰還促進や生活支援に結び付くヒントを得ていたようです」と、研修に同行した山田幸代専門家は振り返る。

"悪魔の兵器"が人々の生活を脅かす

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避難先から元の土地に帰還した農家。土地返還の申請総数のうち、国防省によって治安が保証される地域として行政手続きが進められているのは、いまだ半数にすぎない

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首都ボゴタで開かれたセミナーで、CMACの職員がカンボジアの地雷対策の経験について発表した

現在は、元の土地に戻れた人たちの生計向上を支援するため、農業分野の日本人専門家がコロンビアに派遣され、現地の人たちと共に農村の復興に取り組んでいる。また、国内の12の地域では、一村一品運動によってコミュニティーの一体性と経済的自立の強化を図るプロジェクトも実施されており、そこで確立された地域開発の手法を、国内避難民の帰還先で活用させていくことも期待されている。「そもそも内戦が始まった背景には、格差の問題がありました。国内避難民が帰還した先できちんと生活を営んでいける環境を整備しなければ、彼らがまた都市部に逆戻りしたり、再び紛争の火種を生んだりすることにもなりかねないのです」と小向専門員は強く訴える。

課題は他にもある。今も多くの被害者を出している地雷の除去にも、これから本格的に取り組まなければならない。解決に向けてコロンビア政府が熱い視線を注いでいるのが、日本が1999年から支援を続けている「カンボジア地雷対策センター(CMAC)」が持つ知見だ。既に今年2月から3月にかけて、CMACのメンバーとJICAの関係者がコロンビア国内の地雷原や訓練所などを視察し、カンボジアとコロンビアとの"南南協力"の形でどのような支援を展開できるのか方向性を探った。小向専門員は、「まだコロンビア全土の地雷汚染地図も完成していない状況ですので、国内避難民が安心して故郷に帰れるように対策を急ぐ必要があります」と話す。

長期的な視点で取り組まなければならない国内避難民への支援。さまざまな課題に対して、これまでの日本の経験を効果的に生かすことが重要だ。