企業が変える、世界の電力事情

世界で広がるクリーンエネルギーの利用に注目しているのは、国や政府だけではない。民間企業による開発事業に出資や融資を行うJICAの海外投融資を通して、再生可能エネルギーの活用を目指す日本企業の試みを紹介する。

タンザニア 未電化地域で電気を“測り売り” 株式会社Digital Grid

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夜でも勉強ができると喜ぶ子どもたち

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タンザニア

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電気の測り売りの仕組みを説明する秋田さん(左)

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村で一番の売り上げを誇るキオスクのオーナー

総人口約5,000万人のうち4,000万人以上が電気にアクセスできず、特に農村部では電化率が5%にとどまるタンザニア。そんな未電化地域に電気を"測り売り"しているのが、株式会社DigitalGridだ。村の雑貨屋(キオスク)にソーラーパネルを貸し出し、発電された電気はバッテリーに貯めて同社が一括管理。キオスクのオーナーたちが村の需要に応じて必要な量だけプリペイドで電気を購入し、住民に携帯電話やランタンの充電サービスを提供する仕組みだ。インターネットで電圧や電流、周波数を遠隔操作する「デジタルグリッド」という日本発の技術と、この地域で急速に広がる携帯電話を使った送金システム(モバイルマネー)によって実現した。

2013年に設立した同社が最初に挑戦したのは、電化率が低く、モバイルマネーがいち早く浸透していたケニアだった。代表取締役の秋田智司さんら3人の創業メンバーが同国に移住し、JICAのBOPビジネス調査を活用して市場調査を行った他、パートナーとなるキオスクの選定方法などを確立した。

2015年にタンザニアに拠点を移したのは、主に治安上の理由だ。しかし、同国は電化率や物価はケニアと同じ水準ながら人件費は約半分。人々は、高価な備品をレンタルで使用することへの抵抗感が少なく、市場としても魅力的だった。以来、順調に店舗を増やし、昨年末には800店舗まで拡大。さらに、今後の展開に向けて、JICAの海外投融資を通じて3億円を調達した。今年度末までに1,000店舗、翌18年度末までに2,000店舗に拡大する他、セネガルなどにも水平展開する計画だ。

さらに、キオスクのネットワークを活用した新規事業のチェーン展開も構想している。「未電化地域では、電気だけでなく、教育や医療、情報など、さまざまなものが不足しています。住民のニーズに応えて生活を改善し、彼らの所得を向上させることで、私たちのビジネスの成長にもつなげていきたいと考えています」と話す秋田さんの挑戦は続く。

モンゴル 荒涼の地に吹く風を新たな資源に SBエナジー株式会社

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ツェツィー風力発電所の完成予想図

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モンゴル

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IJGlobalAwardsの授賞式。同賞は、模範となる優れた融資プロジェクトに贈られる

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風力土台の建設風景

恐竜化石の宝庫として知られるモンゴル・ゴビ砂漠では、雨雲がヒマラヤ山脈に遮られ、乾いた風が吹き付ける。

その一角にあるウムヌゴビ県ツォグトツェツィー郡では、現在、25基・総出力50メガワットにおよぶツェツィー風力発電所の建設が進められている。12月には、同国で2番目となる風力発電所として完成する予定だ。

石炭を豊富に埋蔵する同国では、現在は石炭火力発電が総発電容量の9割近くを占める。だが近年、経済成長に伴い電力需給がひっ迫していると同時に、環境への懸念から風力や太陽光などクリーンエネルギーの開発ニーズが高まっている。

同発電所の建設と運営を担っているのは、同国唯一の風力発電所を運営するNewcom社と日本のSBエナジー株式会社が2012年に設立した合弁会社「クリーン・エナジー・アジア」(CEA)だ。この事業は昨年、英インフラストラクチャー・ジャーナル誌の「IJGlobal Awards」でアジア・大洋州の風力発電事業部門を受賞し、国際的にも注目を集めている。SBエナジーは、アジアを再生可能エネルギーの送電網でつなぐ「アジアス−パーグリッド構想」を提唱するソフトバンクグループの子会社で、日本有数の再生可能エネルギー事業者だ。今後の運営においては、同社が持つ豊富な運営実績や経験の活用が期待されている。

JICAは、海外投融資を通じて、欧州復興開発銀行(EBRD)と共にこの発電所事業を融資している。海外投融資ではこれまで気候変動対策事業を支援するファンドに出資した実績があるが、再生可能エネルギー分野への融資は今回が初めてだ。

5月末には、1基目の風力タービンが設置され、予定よりも早いペースで工事が進んでいる。ゴビ砂漠では中国も太陽熱や風力の発電施設の建設を進めているという。今後は、化石だけでなくクリーンエネルギーの宝庫としてもゴビ砂漠は重要な存在となっていくだろう。