私のなんとかしなきゃ! 金子 大輝 総合格闘家

チャレンジが生んだ異国との絆

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3月にヤンゴンで開かれたラウェイ国際大会の一場面(©マメゾウピクチャーズ)

体操一家に生まれ、幼少期から器械体操を続けていましたが、高校生のときに格闘漫画『グラップラー刃牙(バキ)』を読んで総合格闘技を始めました。自分と同じ高校生の刃牙が、世界最強の男になるためにあらゆる格闘技に挑んだり、時には山で熊と戦ったりしながら「最強」とは何かを考え、成長していくストーリーです。自分も刃牙のように強くなりたい一心で、大学進学後も毎日ジムに通ううちに、器具を使う体操とは違う生身の人間相手の格闘技の魅力にのめり込んでいきました。

卒業後は体操の技を生かして警察官になろうと思っていた私が格闘家になる覚悟を決めたのは、大学4年の春のこと。体操の卒業試合でいつもの肩の脱臼癖を発症したのがきっかけです。警察官の実技試験が1カ月後に迫っていたこともあって心身ともに追い込まれましたが、「この機にコンプレックスをなくしたい」と手術を決意。翌日には紹介状を握りしめて地元の病院にいました。結局、警察官の試験は不合格でしたが、リハビリを続けながらも「肩の不安もなくなったし、これで格闘技の道を突き進むことができる」と心は晴れやかでした。

ミャンマー伝統の格闘技ラウェイに初めて挑んだのは、昨年の2月です。チャンピオンに完敗した悔しさをきっかけに、地元のジムにちゃんと所属して選手たちと一緒にトレーニングするようになったのですが、いい意味で無邪気で純粋、そして好きなものに対して正直なミャンマーの人たちがどんどん好きになりました。

一方、より大きな舞台に行くためのステップの1つだと思っていたラウェイの奥深さも知りました。あるとき、対戦相手のことを「絶対倒す」と発言したら、ジムのオーナーであるウィン会長から「ただ"自分のベストを尽くす"ことに集中しなさい」と叱られたことがあります。リンクの外では相手を常にリスペクトし、ひとたびリンクに上がったら命をかけて獣のように闘う−そんな喜怒哀楽が詰まった競技がラウェイなのだと、そのとき学びました。

幸い、昨年末と今年3月にヤンゴンで開かれた試合でどちらもKO勝利を収めることができました。今なら「この勝利のために、大学4年のつらい時間があったのだ」と自分の運命を信じることができます。自分が好きだと思えるものを好きでい続けるための努力をやめなければ、きっといいことがある。そう思えるようになったのも、ウィン会長をはじめ、日本とミャンマー、両国で応援してくれる人々のおかげです。

いつかラウェイの王者になれる日まで、戦い続けたい。競技の過酷さにも、相手との体格差にもひるまず、心折れることなくリングに立ち続ける姿を多くの人に見てほしいですね。

PROFILE

埼玉県生まれ。総合格闘家。グローブを着用せず闘い、パンチやキック、投げ技、関節技、頭突きなどの攻撃が許されることから「世界で最も危険な格闘技」と呼ばれるミャンマー伝統格闘技ラウェイに挑む日本人初のプロファイターでもあり、「ラウェイサムライ」の異名を持つ。2016年2月に初めてヤンゴンでラウェイの公式試合に出場し、チャンピオンに惨敗したのを機に地元のジムに所属。現地の試合で快進撃を続け、ミャンマー人ファンも多い。今年5月に東京で開かれた大会では、以前、他流試合でラウェイチャンピオンを倒したことがあるルクク・ダリ選手(コンゴ)とのラウェイの特別試合が実現した。写真は3月にヤンゴンで開かれたラウェイ国際大会の一場面。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。