PLAYERS 大河に輝く瀬戸内の企業魂 SAマリン有限会社

かつて世界の船舶の6分の1を建造していた瀬戸内地方の造船業。
長年その隆盛を支えてきた中小企業が、今、ミャンマーの大河を舞台に、初のコンテナ輸送を根付かせるべく奮闘している。同社の挑戦を支えているのは、「輸送の効率を改善し、この国の人々に恩返ししたい」という、親子3代にわたる熱い思いだ。

コンテナ輸送で"バラ荷"のリスクを軽減

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SAマリンは、コンテナのままエーヤワディー川を運べるように吃水の浅い台船を建造し、効率的かつ安全な運搬事業に挑んでいる

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ミャンマー

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ミャンマーでは木材や穀物など、さまざまなものが小舟に積まれて運ばれている。内陸水運はこの国にとって重要な物流手段だ

工業化や海外からの投資が急速に進むミャンマー。その国土を南北に縦断するように流れる3本の大河には、砕石や材木、穀物などを積んだ小舟が多く行き交う。道路が舗装されていない地域も多いこの国で、重量があってかさばる物資を大量に輸送するために川が果たす役割は大きく、現在、年間約700万トンに上る物資が水運で運ばれているといわれている。特に、全長2150キロメートル、流域面積43万平方キロメートルに達する国内最大のエーヤワディー川は、物流の要だ。

とはいえ、その効率は決していいとは言えない。諸外国から同国最大の国際輸出入港であるヤンゴン港にコンテナで届いた物資も、陸揚げ後、コンテナから出され、「バラ荷」の状態にして小舟に積み替えているため、時間的にも労力的にもロスが大きいのだ。さらに、バラ荷の積み下ろしの際に荷の一部が落下して強い衝撃を受けたり、川の上で雨風にさらされて痛んだり、盗難にあったりするといったリスクも高い。

それでもわざわざこうした方法が採られているのは、エーヤワディー川の水深が浅いためだ。雨期と乾期の水深差が10メートル以上あるエーヤワディー川では、乾期には水位が1メートル以下の浅瀬も多く出現するため、船体の一番下から水面までの垂直距離(吃水)が深い大型船舶は物理的に航行できない。そこで、コンテナから物資をヤンゴン港でいったん取り出し、浅瀬でも航行可能な小舟に積み替えているというわけだ。

そんなこの国で、浅瀬でも航行できるタイプの台船を導入してコンテナのまま運べるようにすることで、今後ますます増える物流に対応したいという思いを胸に、この国にコンテナ水運輸送を根付かせるべく奮闘している日本企業がある。SAマリン有限会社だ。

3代にわたり受け継ぐ ミャンマーへの思い

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コンテナでエーヤワディー川を運んだ物資を内陸のパコック港でたくましい荷役夫たちが次々と下ろす。カメラを向けると明るい笑顔を返してくれた

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2016年6月に行われた実証実験では、現地の飲料水メーカーの協力を得て、最大都市ヤンゴンから第二の都市マンダレーまでペットボトルを運搬した

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ミャンマー支社長の宮本武司さんは2016年7月、エーヤワディー川で2回にわたり実施したコンテナ輸送の実証試験の結果を踏まえ、事業化の可能性についてヤンゴン市内のホテルで報告した

同社は、1962年の創業以来、瀬戸内海の造船会社向けに船舶ブロックを運搬してきた広島県の中小企業だ。当時、この地域は世界の船舶の6分の1を建造していたほど造船業が盛んだったが、2000年代に入って衰退の一途をたどり、廃業を迫られる企業も相次いだ。そんな中、同社がミャンマーで新規事業に乗り出すことを決断したのは、代表取締役の宮本判司さんが初めてエーヤワディー川を訪れた際、造船業が活況だったころの瀬戸内地方に似ているのを見て「これはいける」と直感したためだ。かつて第二次世界大戦に従軍した判司さんの父、藤井武夫さんが、この国の人々に助けられて帰国を果たしたことも聞いており、その恩返しをしたいという理由もあった。

おりしも、日本政府として国内の中小企業の海外展開を支援する気運が高まりつつあったことが、同社の挑戦を後押しした。まず2013〜14年に外務省の助成を受け、浅瀬でも航行できる軽量の台船を使った水運事業の可能性を調査。翌年には、JICAの普及・実証事業の一環として、ヤンゴン市内の造船所で水面から60センチメートル程度しか沈まない台船を7カ月かけて製造した。これは、コンテナだけでなく、重量物や大型の積み荷も運搬できる上、将来的にはコンテナを吊り上げるクレーンも搭載できるように設計された自信作だ。昨年は、乾期と雨期の2度、この台船にコンテナを載せて輸送試験を実施した。

こうした積み重ねが実を結び、同社は今年の5月、日本とミャンマー両国が官民を挙げて開発を進めるティラワ経済特区(SEZ)に隣接するティラワ港と北部のシュエメ港の間で、現地の内陸水運公社(IWT)と共に輸送サービスを開始した。怒涛の挑戦を現地で率いているのは、判司さんの長男でミャンマー支社長を務める宮本武司さんだ。いかにも水辺の男らしい真っ黒に日焼けした顔をほころばせながら、「これまでなかったサービスを新たに立ち上げることで物流改善の一翼を担い、この国の発展に貢献したい」と話す武司さんの胸には、祖父と父から脈々と受け継いだミャンマーへの熱い思いが溢れている。

この国の発展と人々の幸せを願う瀬戸内の企業魂が、大河の水面にきらきらと輝いている。