世界とつながる教室 学びに火をつけリーダーの芽を育む

問題を解決する力や、人と助け合う精神など、持続可能な社会を築くために必要な力を養うには、学校教育も大きな役割を担っている。東京都の江東区立八名川(やながわ)小学校では、一見子どもたちにとっては難しそうなSDGsの課題について、楽しく学べる授業づくりが行われている。

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水問題について考える授業では、児童が身近な問題として捉えられるように利根川上流のダムの水の推移を皆で予想。どの子も元気良く発言していた

授業計画にSDGsの視点を

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八名川小学校のSDGs実践計画表

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地球温暖化について考える総合学習のESDカレンダー。授業の内容を「環境」「人権」「多文化理解」の3つに分類し、色分けしている

子どもたちに持続可能な社会や世界の創り手となるために必要な資質・能力が育成されるように、教育課程や教材の改善・充実を推進する−。日本政府がまとめた「SDGsを達成するための具体的施策」では、このように“教育の大切さ”がうたわれている。全国各地の学校で、SDGsをどう学校教育に結び付けるかを模索している中、江東区立八名川小学校では独自の取り組みによって子どもたちの力を引き出している。

同校を訪れると、廊下に貼られた1枚の紙に驚かされた。SDGsの17のゴールのアイコンと、その横に各ゴールに対応する1〜6年生の総合学習の単元名が書かれているのだ。「これは私たちが独自に作成したSDGs実践計画表です。17のゴールを、環境、人権、多文化理解の3つに分類し、そこに総合学習の単元を位置付けました。これによって学習課題が一層明確になりました」と手島利夫校長が説明する。

2011年にユネスコスクールに認定され、持続可能な開発のための教育(ESD)の推進拠点として取り組んできた八名川小学校。SDGs実践計画表のもとになったのが、「ESDカレンダー」だ。これは、総合学習の単元ごとに、授業の内容が国語や算数といったどの教科に関係しているか、それが教科間でどのようにつながっているかという教科横断イメージを図示したものだ。例えば、地球温暖化について考える5年生の単元では、理科で学ぶ「天気の変化」や、社会科の「食料生産」、さらには道徳で育む「もったいないの精神」などが関係し、それぞれがつながり合っていることが一目で分かる。また、国語の伝える力や、算数の計測する力などの学習スキルもカレンダーに盛り込み、児童が習得した力を生かせるようなカリキュラム作りに役立てているのだ。

「私が着任した2011年、教科横断による効果的な授業計画を立てるためにこのESDカレンダーの作成を始めました。初めは教科間のつながりを一つしか見つけられない学年もありましたが、それでも大事な一歩なのです。先生たちは教科横断の学びを徐々にイメージできるようになり、翌年には今のような充実したカレンダーが出来上がりました」と手島校長は話す。

自ら学び考え行動する力を

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年に1度開催される「八名川まつり」では、全校児童一人一人が、保護者や地域の人たちを前に学習成果を発表している

水問題について考える4年生の総合学習の授業を見学させてもらった。SDGsのゴール6「安全な水とトイレを世界中に」に対応する授業だ。

「利根川上流の8つのダムが満水のときは、プール約152万杯分の水があります。これは、東京都の水使用量の何日分でしょうか?」−「40日?」「1カ月だと思います」。先生の問い掛けに対して、児童たちは元気良く手を挙げて答える。

「正解は約110日分です。それでは、今年のダムの水の状況を皆で予想してみましょう」。今度はグラフに書き込みながら、ダムの水の推移を予想したり、その理由を話し合ったりする児童たち。今年6月以降、ダムの水が減っていることを知ると、教室中がざわめいた。「1994年には東広島市で毎日8時間の断水が続いたこともありました。水が出なくなると何が困ると思いますか?」−「お風呂に入れない」「お皿を洗えない」。授業を通じて、多くの児童が水不足に対する問題意識を持ったようだ。

授業後、児童からは、「日本でも水が足りなかったことがあると聞いてびっくりした」「これからは水を節約して使いたい」などの感想が聞かれた。授業を担当した小新祐介先生は、「日本は蛇口をひねれば水が出ることが当たり前の環境なので、水問題を自分たちに関係があることとして捉えられるような授業づくりを心掛けています」と話す。今後は、それぞれの児童が水不足に備えて何ができるかの計画を立て、学校や家庭で発信していくという。

この他、多文化理解の総合学習として、6年生は地元である江戸深川の歴史や文化を学ぶ授業を行っている。「多文化理解のためには、まず自分が生まれ育った地域の文化の良さに気付くことが大切です。そうすれば、自然と相手の文化も尊重できるようになります」と手島校長は話す。この授業には、地域の深川江戸資料館も協力。児童はグループごとに調べた内容を最終的に資料館で発表するため、資料館のスタッフのアドバイスを受けながら、調べ学習や発表の練習などを行う。総合学習では、このような“伝え合う場”を数多く取り入れているのだ。

「実際に児童の学力、特に活用能力の向上に加え、人の意見を聞き合おうとする、けんかが激減しているなど生活面での変化も見られます。さまざまな学校でESDを推進することで、困難に立ち向かい、力を合わせてより良い未来を創ろうと行動する子どもが育つことを願っています」と手島校長。SDGsを踏まえた教育で、国際社会を引っ張る次世代リーダーの芽が育まれている。