特別レポート さかなクン アマゾンでギョギョッと仰天 環境を守り、食を豊かに

世界一の流域面積を持つアマゾン川周辺でも、水産資源の管理や生態系の維持が課題となっています。解決の糸口を探るため、東京海洋大学名誉博士でもあるタレントのさかなクンが、ブラジルで活躍する日本人の魚養殖家を訪問しました。さらには、かわいらしい"アマゾンの人魚"との出会いも。

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小船に乗ってアマゾンの奥地へ。フィールドミュージアムができれば、エコツーリズムも可能に

南米の古代魚で作る和食 食糧問題の解決に?

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ブラジル

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鴻池さんの養殖しているピラルクー。うろこが硬く、下ごしらえも一苦労でした!

みなさんは今日、おさかなを食べましたか?

今の時期、脂がのっておいしくなるおさかながたくさんいます。サンマやサバ、アジ、マグロなど、私たちの食生活に縁の深いおさかなの多くが、秋から冬にかけて旬を迎えます。夏の風物詩となっているウナギだって、本当は今の時期が一番脂が乗っているんです。これから冬眠しなくちゃいけませんから。

でも、この数年、ウナギやマグロ、サンマなどが食卓に上らなくなるかも、というニュースが、たくさん聞かれるようになりました。人間がおさかなを捕り過ぎれば、当然、おさかなは減ってしまいます。食文化にたくさんおさかなを取り入れてきた日本人として、そんな世界はちょっと悲しいです。

でも、もしかすると解決法の一つになるかもしれない取り組みが地球の裏側で進んでいると聞いて、ギョッとひとっ飛び、ブラジルまで行ってまいりました!

ブラジル最大の都市サンパウロから車で1時間。イビウナという町に、一人の日本人養殖家がいます。40年前、スッポンの養殖事業でブラジルに渡ってきた鴻池龍朗さん。エビの養殖などを手掛けた後、数年前からピラルクーというおさかなの養殖に力を入れています。

世界最大の淡水魚ともいわれるピラルクーはアマゾン川に住み、1億年前から姿が変わっていない"古代魚"です。今から1億年前といえば、地上では恐竜が栄えていた時代。私たちヒトの先祖であるサル目のそのまた先祖、ヒトとネズミとコウモリの共通の祖先が、ようやく生まれたかどうかという時代ですよ!そんな昔から姿を変えずに生きているピラルクーを、地元の人たちは昔からおいしくいただいていたそうです。でも、天然のピラルクーを捕り続けていれば、いつか絶滅してしまいます。ピラルクーを絶滅から守りつつ、ブラジルの食卓にも届けたい−鴻池さんは、そんな思いを胸に、ピラルクーの養殖に取り組んでいるのです。

「ピラルクーは狭い池でたくさん育てることができる上、10センチの稚魚が1年で1メートルもの大きさに育ちます。養殖の効率がとても良いので、世界の食糧問題を解決する可能性も秘めているんです」。ピラルクーでいっぱいの池を目の前にした鴻池さんの熱弁には、ピラルクーに負けず劣らずの、すギョいパワーがありました。

養殖といえば、おさかなたちが生活している水は、時々入れ替え、古い水を処理しなければなりません。鴻池さんは養殖池の排水を、なんと野菜作りに活用!下仁田ネギやレタスなどを作っています。養殖池の水にはピラルクーのふんなど、栄養がたくさん含まれているので、それを使って作られた野菜はうまみや甘みが豊富で、しかもよく育つのだそうです。排水を無駄にしないだけでなく、川や海を排水汚染から守ることもできる、一石二鳥、三鳥の取り組みですね。

鴻池さんの養殖池でつかまえたピラルクーをいただくために、日本人の料理研究家の方にお会いしました。日系社会シニア・ボランティアの一員として和食を教えている、小笠原純子さんです。

日本人は明治時代からブラジルへの移民をはじめ、今では190万人の日系人がブラジルに住んでいます。小笠原さんは、かつてブラジルを訪れて、日系社会に和食の良さとブラジルならではの食材を生かした料理があまり普及していないことに気付いたといいます。そこで、和食普及のために、自らボランティアに参加。ブラジルの食文化を学びながら、和食の料理教室を開いています。

鴻池さんのピラルクーが、小笠原さんの手で刺身やあんかけ、しゃぶしゃぶに大変身!さかなクンも、ピラルクーで千葉の名物なめろうを作って、皆さんに食べてもらいました。

アマゾンの"人魚"里帰りプロジェクト

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フィールドミュージアム建設予定地では、デンキウオを捕まえました

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シニアボランティアの小笠原さんから手ほどきを受け、さかなクンも、ピラルクーを使った和食に挑戦!

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国立アマゾン研究所で開く子どもたち向けの授業に備えて、アマゾンで出会ったおさかなの絵を描きました

ピラルクーのお料理を堪能した後は、いよいよアマゾンにレッツギョーです!多くの未確認生物が住む、世界最大の熱帯雨林アマゾン。でも、違法な木々の伐採や生き物の乱獲など、自然を脅かす人間の活動も絶えません。自然を守るには、まず自然の大切さを知ってもらうことから。そんな考えで進められているのが、フィールドミュージアム構想です。

フィールドミュージアムとは、町や自然など、そこにある環境そのものを博物館に見立てて、自然本来の姿やそこに生きる動物たちと触れ合い、学ぶことのできる場所のこと。ここでは、ブラジルの国立アマゾン研究所と日本の京都大学や企業、JICAなどが協力して、自然を学べる場作りと、傷付いたマナティーたちを自然に返す試みが続いています。

アマゾンマナティーを含むマナティーたちは、人魚伝説のモデルになったともいわれていますが、肉や皮が目的で人間に狙われるのだそうです。「ここで世話しているのは、主に密漁によって傷付いたり、親を亡くしたりしたマナティーの子どもです」。赤ちゃんマナティーが泳ぐ水槽を見て回りながら、京都大学の池田威秀さんが説明してくれました。赤ちゃんの一頭にミルクを飲ませながら触ってみると、肌触りはとてもしっとりしていました。この子たちを育てて自然に返す「マナティー野生復帰事業」は、フィールドミュージアム作りの目玉の一つです。アマゾン川を小船で3時間さかのぼり、フィールドミュージアムの一部施設の建設予定地も訪問しました。手付かずの自然、といった感じの山の中、見回すとたくさんの生き物が目に入りました。森の中の施設は2018年3月ごろに完成予定で、将来的には研究活動やエコツーリズムの拠点となるそうです。

今回の訪問では、アマゾンの大自然とおさかなの素晴らしさをたくさん目にすることができました。日本とブラジルが、この自然を守るためにギョッと手を取り合って、協力を進めていけたらいいですね。

さかなクン

東京海洋大学名誉博士・客員准教授。千葉県館山市在住。日本ユネスコ国内委員会広報大使、農林水産省お魚大使、WWFジャパン親善大使、環境省地球いきもの応援団など肩書き多数。魚に関する豊富な知識と経験に裏付けされた話や、親しみやすいキャラクターがお茶の間で大人気。「なんとかしなきゃ!プロジェクト」のサポーターとしても活動中です。