私のなんとかしなきゃ! 斎藤 工 俳優、フィルムメーカー

未来を映す窓を、全ての子どもたちに

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マダガスカルで子どもたちに映画撮影を指導したときのもの(©和田 浩)

昔から、支配人の人柄が反映された個性的なミニシアターが好きで、全国の劇場の情報を集めていました。東日本大震災の後、そうした劇場も被災して次々となくなっていったことを知ったんです。"娯楽"の仕事は災害があれば自粛、映画を楽しむのはぜいたく。そんな風に捉えられ、被災地では劇場や映画を体験することが難しくなっていると感じました。でも、そういうときこそ、息抜きの娯楽が必要なはず。かつてバックパッカーとして世界を回ったときに見掛けた移動遊園地や移動図書館に着想を得て、公民館などで"移動映画館"を始め、東北や熊本の被災地で映画を上映してきました。

振り返れば、僕が1歳のときに両親が映画館に連れて行ってくれたのが、映画との出会いです。そのとき、映画館という独特の空間に衝撃を受けたのですが、日本で移動映画館をすると、今でも毎回、同じような体験をしてくれる人がいます。でも海外、特に開発途上国では映画が与えるインパクトは日本とはまったく違います。

今年1月、マダガスカルの学校で教壇に立っている青年海外協力隊の女性を訪問しました。初めてのアフリカで、現地の言葉も分からない中、見たことのない風景や食文化は刺激的でした。学校の子どもたちとは、もちろん言葉は通じないのですが、協力隊の方の仲立ちやジェスチャーを通して、2日目には意思疎通ができるようになりました。ここで、僕が子どもたちと挑戦したのが映画作りです。

この小学校は最寄りの公道から歩いて40分。多くの子どもたちは映画を見たことがなく、ましてや作ったことなどありません。そんな子どもたちが手分けして、カメラを回し、監督して、自ら演じた映像。映画作りが、子どもたちにとって新たな世界の窓となり、世の中にはこんな仕事、こんな生き方もあるのだと知るきっかけになるのではと思ったんです。選択肢があることを知らなければ、人は新しい生き方を選ぶことはありません。世界への窓を開き、どんな生き方であれ、自分の意思で選び取る権利を子どもに与えるのは、僕たち大人の責任ではないでしょうか。

自ら作った映画を見ている子どもたちの笑顔を眺めながら、世界中の子どもたちに映画を届けるのが自分の天命だと感じました。考えてみれば、今はスマートフォンと携帯プロジェクターで、世界のあらゆる場所が劇場になる、便利な時代です。早速、誰でも、どこでも上映できる著作権フリーの短編映画作りに取り掛かり、9月に完成しました。内容は、映画という窓を通してさまざまな世界を旅する子どもの物語。この映画を携え、海外でも移動映画館を実現するために、いろいろな方の協力を仰いでいます。

PROFILE

沢木耕太郎の紀行小説『深夜特急』に憧れ、世界各地のモデル事務所に所属しながらバックパッカーとして世界を旅する。俳優としてデビュー後は映画やドラマなどで幅広く活躍。近年は、自らメガホンも握っている。写真は、マダガスカルで子どもたちに映画撮影を指導したときのもの。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。